世界中で新たに診断されるがんの症例数は、2040 年までに年間2,950 万件に上ると予測されています。症例数の増加に伴い、医療従事者はより効果的な治療法の開発に取り組んでおり、現在がん治療では症例に応じて手術・化学療法・放射線療法を単独または併用するなど、複数の選択肢が用意されています。
技術の進歩は、効率、ケアの質、患者経験価値、臨床転帰(治療における最終的な結果)といった観点から、治療の高度化において重要な役割を果たします。
Adaptiivはテクノロジーを活用して放射線治療の選択肢の高度化を進める企業の一つで、自社開発の規制クリア済みソフトウェアを用い、放射線科医が患者一人ひとりに合わせたボーラス装置や皮膚がんブラキセラピー用アプリケータを設計できる環境を提供しています。設計後は Adaptiiv On Demand サービスで製造し、病院へ出荷します。その際、3D プリントとバイオメディカル材料を活用することで、患者に合わせたカスタム装置の臨床精度向上と業務効率化を可能にしています。
医療専門チームへのお問合せ
患者様一人ひとりに合った手術器具や心臓補助装置のプロトタイプなど、医療用途での造形に関するご相談をいつでも受け付けております。Formlabs Medical チームは専門のスペシャリスト集団として、お客様や企業のニーズを的確にサポートします。
従来の放射線治療用ボーラス装置
世界保健機関(WHO)によると、がん患者の治療計画の50 % 以上で放射線療(RT)が用いられています。これには乳がん、肺がん、大腸がん、皮膚がんなど、一般的ながんが含まれます。
放射線療は高エネルギー放射線でがん細胞の DNA を破壊する治療法で、放射線の照射時に療法士は患者に補助装置を装着します。これは特に皮膚がんや表在性腫瘍の治療で一般的で、補助装置によって照射する放射線量を最適化したり、健康な組織を放射線から守ります。RT 装置の例は以下のとおりです。
- 線量分布を改善する従来型ボーラス装置
- 治療中の患者の体動を抑え、セットアップを支援する固定装置
- 健常組織を保護する電子アパーチャ
- カテーテルを介して小型線源を照射する皮膚がんブラキセラピー用アプリケータ
体外照射(光子・電子)で用いる従来のボーラス装置は、適切な線量を腫瘍に届けるためゴム材料で作られた平坦な装置で、患者の皮膚の上に置いて使用します。従来のボーラスは複数個を寄せ集めて使われることが多く、患者によっては空隙が生じ、腫瘍への放射線照射不足や健常組織への過剰照射を招く恐れがあります。
皮膚がんブラキセラピー用アプリケータは治療部位の皮膚の上に置き、カテーテルを送達経路として放射線源を送り込みます。これは手作業のため時間がかかり、パーソナライズされた装置の製作には2~6日かかることも珍しくありません。さらに、患者の解剖学的形状に合わせたカテーテル配置の最適化も課題です。カテーテルの配置が不適切だと、治療効果が十分に得られない可能性があるためです。
Formlabs の生体適合性レジン:最適な材料選択のための完全ガイド
Formlabs は現在、SLA 光造形 3D プリント向けに 40 種類以上の独自材料をご用意しています。本技術資料では、Formlabs の生体適合性材料の比較検討、およびお客様の医療用途に最適な材料の選択に役立つ情報をご提供します。
従来型装置を手作業で製作する際の課題
療法士にとって、従来のボーラス製作は手間と時間のかかる作業です。加温デンタルワックスや Superflab(ゴム状シート)などの一般的な従来材料は取り扱いが難しいことがあり、かつ工程や材料にばらつきがあり標準化されているとは言えません。
ブラキセラピー用アプリケータの製作には手作業での計測やカテーテル配置が必要で、誤差の余地が大きくなります。
フィット感が不十分と判断された場合には再製作が必要で、成形型製作や鋳造工程をやり直すことになり、療法士の負担や使用する材料、患者の来院回数の増加につながります。
従来の手作業によるボーラス製作は時間と材料の両面で非効率で、治療精度の低下を招く可能性があることから、多くの現場で代替ワークフローが模索されています。
Formlabs 3D プリンタの活用で放射線治療におけるカスタムソリューションを提供
メモリアル・スローン・ケタリング・がんセンター、CHUM/モントリオール大学病院センター、USF Health の放射線腫瘍学専門家が、Formlabs の 3D プリントによって患者一人ひとりに合わせたソリューションがどう普及しているかを解説します。
Adaptiiv の強み
医療現場では、時間、リソース、患者の快適性、装置の精度が最重要事項です。ダルハウジー大学放射線腫瘍科の教授兼医学物理部長James Robar 博士は、放射線腫瘍学の分野における長年の経験を有し、放射線腫瘍学において計画・設備・技術分野は最先端である一方、使用するボーラス装置が治療効果を損なっていることを見出しました。
Robar 氏は、乳房切除後の胸壁照射に使用する3Dプリント製ボーラスと標準的なビニールゲルシートを比較し、2017 年に論文を発表。これが Alex Dunphy 氏と出会うきっかけとなりました。その後 2 人は Adaptiiv を設立。「放射線治療の『あと一歩』をデジタル化し、臨床医が自ら考案した計画を確実に提供できるようにする」ことを目指しました。
従来材料に取り組んできた Robar 氏の経験は Adaptiiv のデジタルワークフロー開発へとつながり、現在 Adaptiiv は米国内外のがんセンターと連携し、提供サービスの検証と拡充を続けています。
ボーラス装置製作のデジタルワークフロー
Adaptiiv は 2017 年、臨床用の規制(FDA/CE)をクリアしたソフトウェアを開発し、内製に使用するプリンタの検証も行いました。臨床医は Adaptiiv のソフトウェアで患者固有のボーラス装置を設計し、院内でプリントが可能です。
コロナウイルスの流行時にはがんセンターも打撃を受け、多くの施設で内製プリントのリソースが不足していました。さらに「がんセンターは製造業者ではなく、がん治療に専念したいのだと時間をかけて理解した」と述べるDunphy 氏は、Adaptiiv On Demandという規制クリア済みのソリューションを作り上げ、がんセンターが Adaptiiv のソフトウェアを使って設計したパーツを注文できるようにしました。
SLA光造形方式の造形品は、二次硬化によって材料本来の機械的性質を最大限に発揮し、より確実に設計想定通りの寸法精度で仕上げることが可能に。Form Cure Lは大型造形や複数造形に対応し、高スループットを実現。
このソリューションでは、臨床医が Adaptiiv ソフトウェアでボーラスを設計し、そのファイルを Adaptiiv へ送付します。これにより、成形型製作を完全にデジタル化することに成功しました。Adaptiiv の製造拠点でカスタムボーラスを造形して病院へ発送するため、臨床医は製造ではなく患者のケアに集中できます。
「製造に踏み出すにあたり、提供するソリューションをすべて造形できるプリンタが必要だと認識しました。さらに、生産性が高くダウンタイムを抑えられることも必須条件でした。Formlabs はプリンタの品質管理が徹底しておりサポートも非常に優秀、そして規制面にも注力しています」
Adaptiiv 最高経営責任者兼共同創設者 Alex Dunphy 氏
Adaptiiv は、独自ソフトウェアで設計した患者固有の HDR 皮膚がんブラキセラピー用アプリケータを、Formlabs のForm 3B+ SLA 光造形プリンタで造形しています。Form 3B+ は設置面積がコンパクトで、Formlabs の FDA 登録済・ISO 13485 認証取得済施設で製造される生体適合性・滅菌可能材料を含む、高機能レジンのライブラリを使用できます。
3Dプリントによる内製化により、Adaptiiv On Demand は 3~5 日程度の製作期間でカスタム装置を提供でき、従来ボーラスの製作期間を大幅に短縮し有効性を高めることができています。
Formlabs のアディティブ・マニュファクチャリングを活用し、新しい医療器具会社を設立
先進的なスタートアップ企業3社が、新規事業の立ち上げと初の医療器具リリースを同時に行った経験を語ります。なぜFormlabsを選び、アディティブ・マニュファクチャリングをどう活用したのか、その理由と実践方法もご紹介します。
規制への準拠
医療器具の製造では、多くの規制要件を満たす必要があります。Adaptiiv にとってこれは、ソフトウェア、製造プラットフォーム、材料のすべてで規制をクリアする必要があることを意味します。幾度にもわたる試験やマスターファイル提出など、時間のかかるプロセスです。Adaptiiv は材料評価を含む製作品の検証をすべて社内で行なっています。
皮膚がんブラキセラピーの製作時、内部のトンネルを可視化するには透明な材料が必要でした。Dunphy 氏が「腔内・組織内ブラキセラピーには、人体に安全に挿入できる材料が必要です」と言うように、生体適合性と透明性の両方を兼ね備えた材料の選定が必要です。
3D プリント製のブラキセラピー装置は患者一人ひとりに合わせたカスタムフィット。
厳密な公差によってアプリケータ内部のチャネルも精巧に 3D プリントできる。
「その要件を満たす材料を提供していたのは Formlabs だけでした。そこから議論が進み、Formlabs の 3D プリンタは市場に出ている製品の中で最も一貫性に優れていて、材料面でも業界のパイオニアだと認識するに至りました」
Adaptiiv 最高経営責任者兼共同創設者 Alex Dunphy 氏
皮膚がんブラキセラピー用途には、Clear レジンが使用されます。Formlabs の Clear レジンは、表面を磨くことで完璧な透明性に限りなく近づけられる硬質材料です。高精細で表面品質も滑らかに仕上がり、透明で剛性があるためブラキセラピートンネルに求められる内部構造の可視化に最適です。腔内・組織内ブラキセラピー用アプリケータには、長期の皮膚/粘膜接触を要する生体適合性用途に対応のUSP Class VI 認定材料、BioMed Clear レジンが用いられます。
Dunphy 氏は、Formlabs のSLA光造形プリンタのメリットの一つは使用可能な材料が豊富なことだとし、「規制をクリアしたレジン群に加え、新材料や新レジンに対する Formlabs の真摯な取り組みが、[Formlabs と提携するという]決断を後押ししました」と言います。弾性、生体適合性、透明材料まで幅広い材料特性のレジンが使用できることで、Adaptiiv は各顧客にとって最適な製品を提供しています。
BioMedレジンのサンプルパーツ
BioMed レジンのサンプル品にはエンボス・デボス加工が施され、カットアウトの厚みは 0.5~2.0 mm と、細部の仕上がりをご確認いただけます。また、本レジン固有の規制関連情報も付属しています。
患者ケアに注力
治療後の経過と患者体験の改善は、Adaptiiv の最優先事項です。プエルトリコの放射線治療チームは、生後 9 か月の患者に適合する小児用ブラキセラピー用アプリケータが見つからず、対応に苦慮していました。解決策を求めて Varian(Siemens Healthineers 傘下)に相談したところ、Adaptiiv を紹介されたと言います。
Adaptiiv は自社ソフトウェアを使って、既存の送達装置を改良するためのアプリケータの試作を5種類設計しました。3D プリントを活用した製造により、患者の体に完璧にマッチした生体適合性・滅菌可能な装置を提供できました。
3D プリントは、患者一人ひとりに合わせたパーソナライズを可能にし、治療をより身近で効果的なものにします。「私たちは、市場に対してパーソナライゼーションという分野をより身近なものにしています。特殊な技能・ツール・予算がなければ規制に準拠しながら自力で製作するのは困難ですから、私たちはより大きな規模でそれを必要とする人々に提供しています。」
業界をリードする医療機器会社によって実証されたアディティブ・マニュファクチャリングの活用法
Enovis Surgical と restor3d によるパネル・ディスカッションで、医療器具を提供する企業がアディティブ・マニュファクチャリングをどう活用しているのかをご紹介します。
未来のボーラスの姿がここに
Adaptiiv の On Demand プラットフォームでは、患者固有の装置を設計し、3D プリントでカスタム製品として製作が可能です。同社はデジタル手法と 3D プリントを活用し、医療従事者に真新しい独自のテクノロジーを提供するべく、積極的にラインナップの拡大を推進しています。
「画期的な新ソリューションの創出に注力する Adaptiiv にとって、画期的な材料やプロセス、プリンタ作りに取り組む Formlabs のようなパートナーと協働することで、理想的な相乗効果が得られます」
Adaptiiv 最高経営責任者兼共同創設者 Alex Dunphy 氏
患者専用にカスタマイズされた医療器具は、最適なケアの提供を後押しします。医療器具の製造に 3D プリントを活用する方法や、お客様事業の目標達成にどう Formlabs 製品が貢献できるかについては、Formlabs のスペシャリストまでお気軽にお問い合わせください。


