SLS 3Dプリンタを活用しアイウェアを量産:Swiss Eyewearの事例

Marcus MarienfeldがNylon 11パウダーで製造した眼鏡

Marcus Marienfeld AGのアイウェアは、高品質でラグジュアリーな材料選定と熟練の職人技、そして革新的なアイデアをデザインに反映し続けることで、従来のアイウェアフレームとは一線を画すものとなっています。

金細工職人として活躍していた頃からMarcus Marienfeld氏は常に、これまでにないアクセサリーのデザインやその製造方法を追い求めてきました。

直近では、スイスの工房にFormlabsのSLS(粉末焼結積層造形)方式の3DプリンタFuse 1を導入してアイウェアフレームを3Dプリントで実製品を量産する試みを始め、チタン製のパーツを成形するために3Dプリント製の型を使用する、いわゆるラピッドツーリングを行うようになりました。

本記事では、Marienfeld氏がSLS 3Dプリントの導入に至った背景、カスタムデザインの製品を量産できることの利点、そしてナイロンが材料として最適だった理由などを伺っています。

SLS 3Dプリント製のメガネ
技術資料

FormlabsのFuseシリーズSLS方式3Dプリンタでアイウェアを製作

この製品仕様では、アイウェア業界で現在3Dプリントを活用しているメーカーが、3Dプリント用の設計や材料を決める際に考慮している点をご紹介します。

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金細工職人からアイウェアブランドへ

Marcus Marienfeld氏は、現在の拠点であるスイスに金細工職人としてやって来ました。彼はほどなくして、業界で長年当たり前となっていた旧態依然の製造技術に革命を起こす可能性を見い出しました。

彼の使命はジュエリーのデザインだけに留まらず、その製造分野にも新たなテクノロジーを導入することでした。

ジュエリーコレクションを開発する会社からスタートしたMarienfeld氏は、ドローイングからモデル製作、生産に至るすべてのプロセスを内製で行い、手仕事の技術に常にこだわってきました。

Marcus Marienfeldのショールーム1
Marcus Marienfeldのショールーム2

金細工職人だった彼は、ジュエリーやアクセサリーの試作を手早く行うラピッドプロトタイピング目的で、CNC加工機にデザインをプログラムする前段階で、SLA光造形方式の3Dプリンタを活用していました。

現在では、Marienfeld氏は主にSLS 3Dプリンタを彼の専門分野であるアイウェアの製造に使用しています。同社ではNylon 11パウダーをアイウェアフレームに採用し、高品質なフレームを製造しており、SLSプリントで生産用の型も製作しています。

「私は、製造工程における”自給自足”を重視しています。生産工程を外部要因に左右されないように、そして常に柔軟に顧客のニーズに対応できる体制を目指しています。自分のオフィスに持ち込める3Dプリンタは、まさに打ってつけのツールでした」

Marcus Marienfeld氏

3Dプリント製アイウェアフレームをFuse 1で量産

Marcus Marienfeld AGは、カーボン、チタン、水牛の角、古いオーク樽の木材など、高級アイウェアに使用するこれらの材料に、SLS 3DプリンタFuse 1を使って徐々にナイロンを導入しています。

「私たちが作るアイウェアは、世の中にある一般的なものとは別物です」とMarienfeld氏は言います。

Marcus Marienfeldの工房に導入されているFuse

この方針の下、彼はFormlabsのSLS材料、Nylon 11パウダーをアイウェアのデザインに取り入れることを決めました。Marienfeld氏が最初に着手したのは、自身のスタジオでフレームフロントを中心に様々なデザインをFuse 1でプリントし、テストすることでした。直近では、初めてFuse 1でアイウェアフレームの量産を行っています。1回のプリントで80枚のフレームフロントを、およそ1日半で完成させることができています。

Fuse 1で造形中の80個のフレームフロント

Fuse 1の造形スペースでは、1回のプリントで合計80枚のフレームフロントを造形スペースに配置し、量産を行った。

Fuse 1の粉末焼結積層造形方式は、高精細な造形とサポート材が不要となる特徴により、繊細なデザインや形状がプリントでき、プリント後にさらに精密な加工を施すことも可能です。

SLS(粉末焼結積層造形)方式で3Dプリント
技術資料

SLS(粉末焼結積層造形)方式3Dプリントのガイド

本技術資料では、SLS(粉末焼結積層造形)方式のプロセスや、本方式の機器、SLS方式3Dプリンタでの作業手順やその用途について幅広く解説します。

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「SLS 3Dプリントの利点の一つは、サポート材なしで入れ子状のデザインがプリントできることだと思います」

Marcus Marienfeld氏

Fuse Siftで後処理中の眼鏡フレーム

Fuse Siftで粉末除去作業中のNylon 11製のアイウェアフレーム。

Fuse Siftで後処理中の眼鏡フレーム

SLS 3Dプリントで量産された最初のアイウェアは、高品質なカーボン製テンプルが装着され、世界中の販売店に共有されます。また、ナイロン材を使用した他のアイウェアプロジェクトもMarienfeld氏の下で進行しており、通気孔をデザインに取り入れたスポーツ用のグラスは、別個にプリントしたパーツをアセンブリして完成するデザインとなっています。

「Fuse 1のプリント精度は常に完璧で、本当に優秀です」

Marcus Marienfeld氏

Fuse 1はデザイナーにとっての新境地を拓き続けています。「弊社では、単に平坦なだけでなく、外側に厚みを加えた特殊な眼鏡をデザインしました。設計上はほぼ円錐形のような形なんです。このような特殊な形状を実現するには、他の技術では難しい特殊なデザインも簡単に実現できる3Dプリントが欠かせません」とMarienfeld氏は教えてくれます。

Nylon 11パウダーとカーボンで製作したMarcus Marienfeldの眼鏡(既製品)。

Nylon 11パウダーとカーボンで製作したMarcus Marienfeldの眼鏡(既製品)。

外注か内製か:SLS方式3Dプリントが適するケースとは?
技術資料

外注か内製か:SLS方式3Dプリントが適するケースとは?

本技術資料では、SLS方式3Dプリンタでの内製と、SLSプリント品を外注で製作した場合を比較し、SLS 3Dプリンタの導入の費用対効果の評価を行います。

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耐久性に優れたナイロン材がもつ美しさ

多くのFuse 1ユーザーが耐熱性や最大引張強さといった機械的特性を重視する一方、Marienfeld氏はまったく異なるアプローチをとっています。

使用材料として同社デザイナーがNylon 11パウダーを選んだのは、その美的特性が主な理由でした。

「Nylon 11パウダーの濃い炭色が気に入りました。ニュートラルな印象なのでさまざまな材料を組み合わせて遊び心を取り入れることもできますし、ジュエリーならカラフルな材料とも非常に相性が良い」とMarienfeld氏は言います。

さらに、表面処理後も一定のグリップが保てる半光沢な表面品質も、Nylon 11パウダー製の眼鏡を販売するうえでも着用するうえでも重要な要素になっています。

Fuse Siftで後処理中の眼鏡フレーム

お客様一人一人の思いを実現する3Dプリンタ

Marcus Marienfeld AGでは、以前からアイウェアの製造に多彩な生産技術を導入しているため、3DプリントとCNC加工など、従来工法とを比較することもできました。

Marienfeldのカーボングラスは、5軸のCNCマシンで削り出されています。細部の加工はすべてCNCで行いますが、お客様一人一人の顔にぴったり合うアイウェアを作ることはできません。

「でも3Dプリンタなら、すぐにできてしまうんです。CADデザインに慣れている人なら、3Dモデルの微調整も簡単にでき、PreFormでSTLファイルを開けばそのままプリントできます。フライス加工となると、ワークを機械上で固定するために、常にそれ専用の治具を作らないといけないのですが、これは非常にコストがかかってしまいます」とMarienfeld氏は言います。

例えば、ある登山ガイドからの依頼で、オーダーメイド製品を実現した例があります。3Dプリントの活用により、僅か2週間で登山中の太陽光への特殊な偏光レンズを備えたナイロン製サングラスを提供することができました。

「従来型の製造方法に頼るカーボンの場合、2~3カ月はかかると思います」とMarienfeld氏は説明してくれました。

チタンを成形する成形型も3Dプリントで

Marcus Marienfeld AGは、ナイロン材でアイウェアを作るだけでなく、Fuse 1で独自の成形用成形型も製作しています。Nylon 11パウダーは、その強度と寸法精度から、特にチタン製メガネの成形型製作にも活用することができます。

「チタンの欠点は、成形、曲げ等の加工が難しいことです。しかし3Dプリント製のNylon 11で作ったプレス成形型で試してみたらどうだろうと思い付き、実際に試してみたんです。これが成功しました」

Marcus Marienfeld氏

「アイウェアのフレーム用に曲げ加工を行うためのプレス成形型を作っています。メガネのモデルによって曲げのアールを変える必要があります。これまではスチールを切削して金型を作っており、非常に手間がかかっていました。手間がかかるということは、1モデルあたりのコストも高くつくということなんです」とMarienfeld氏は言います。

そんなNylon 11製の成形型は上下2つの型で構成され、工場内のトグルプレス上で90kg程度の圧力に耐えて機能します。Nylon 11の優れた寸法安定性により、高圧でチタンのエッジが接触する箇所でも、成形型にくぼみが生じることはありませんでした。

トグルプレス機に設置されたNylon 11による3Dプリント製成形型。

トグルプレス機に設置されたNylon 11による3Dプリント製成形型。

Nylon 11で作ったプレス加工用成形型
板金加工用の成形型を3Dプリントで製作
技術資料

3Dプリント製の成形型によるラピッドツーリングで板金加工を行う

本技術資料では、3Dプリント製の成形型を使って板金加工を行い、コストと製造期間を削減するための方法をステップごとにご紹介します。

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3Dプリントの活用で、止まらぬイノベーションを

「私たちの目標は、常に成長を続けることです。規模や販売量ではなく品質とイノベーションにおいて、です。ニッチであり続けたいんです」と、Marienfeld氏は自身のブランドについて語っています。

Marienfeld氏は、3Dプリンタによって試作品や成形型の製作にかかる時間とコストを削減すると同時に、プロダクトデザインやその製造方法を新たに開発し続けることで、常に顧客に刺激を与えられる技術を手にしたと言えるでしょう。

「自社内にFuse 1のような3Dプリンタがあると、想像力が膨らんでもっと工夫できないものかと考えるようになります。普段はトライしないようなことにも、気軽に挑戦できるようになるんです」

Marcus Marienfeld氏