
医療従事者は、生理学的な詳細を測定しより深く理解した上で診断を下すため、多様な画像診断ツールを活用しています。そんな中、スキャナーやオンスクリーン可視化ツールは、リアルタイムで操作可能な2D・3Dグラフィックスを活用して医療の実践方法を変革しています。オンスクリーンでの可視化技術は医療現場において不可欠でありながら、ある程度の限界があることも事実です。『Annals of Oncology』誌に掲載された研究によると、異なる医療施設で撮影された同じ画像診断結果でも、技術や解釈の違いによって異なる結果が表示されることがあることがわかっています。その他の制限として画像ノイズや統計的差異があり、これらが画像診断結果の信頼性に影響を与えています。精度レベルを向上させるため、医療イノベーションチームは医療画像診断技術を補完するSLA光造形品の造形・着色技術に注目しています。
放射線科医、外科医、生物医学の専門家たちは、解剖学的特徴を正確に再現したモデルの製作のために、ますます3Dプリント技術を活用するようになっています。これらの3Dモデルは診断プロセスや患者様への教育ツールとして使用されているため、造形された解剖学モデルの高性能な事前処理・後処理技術の重要性が注目されています。
本記事では、SLA光造形方式で造形された医療用パーツの着色に必要な手順について詳しく解説します。さまざまな着色手法をご紹介するとともに、最高の仕上がりを実現するためのヒントも掲載しています。

医療専門チームへのお問合せ
患者様一人ひとりに合った手術器具や心臓補助装置のプロトタイプなど、医療用途での造形に関するご相談をいつでも受け付けております。Formlabs Medicalチームは専門のスペシャリスト集団として、お客様や企業のニーズを的確にサポートします。
SLA光造形でカラーパーツを製作する方法
精度の高さで知られるSLA光造形ですが、単一パーツを複数色で造形する場合には限界があることが知られています。SLA光造形で多色プリントする技術はまだ存在しません。多色造形が可能なマテリアルジェッティングやPolyJetプリンタの場合、初期購入費用だけで10万ドル以上することが多く、それに加えてサービスやメンテナンス費用が別途発生します。受託メーカーに依頼してパーツを製作してもらうことも可能ですが、現在の材料費を含めると、1パーツあたり数千ドルの費用がかかる場合もあります。
以下にご紹介するシンプルな手法を使用することで、Formlabsプリンタをワークフローに組み込み、ヘルスケアニーズに応じたカラフルで繊細なモデルを製作できます。
Colorレジンでプリントする
Colorレジンは、Form 4シリーズSLA光造形プリンタで使用することでフルカラーパーツを直接造形できます。これにより、最初からフルカラーモデルを造形したり、個々の造形品を異なる色でプリントしてから組み立てることでマルチカラーモデルを制作したりできるようになります。
Colorレジンはスタンダードレジンであるため、他のスタンダードレジンと同じくプリントおよび後処理のワークフローが直感的です。カスタムカラーは1Lから注文可能で、HexコードまたはRGBプロファイルを入力するか、カラーピッカーを使って選択します。
使用例:複数パーツで構成されるモデルの特定領域の造形、個々の臓器の造形、個々の血管の造形
メリット:プリントと同様に簡単。追加の仕上げ処理が不要なため時間と材料を節約でき、正確な色合わせのために再注文が簡単に行える。
デメリット:一度にプリントできるのは1色に限定されるため、マルチカラーモデルを制作する場合は個々に造形後、組み立てが必要。
ColorレジンV5は現在米国のみでのご提供となりますが、今後その他の地域へも拡大予定です。
カラーキットを使った造形
Form 3シリーズ3Dプリンタ向けには、カラープリント用のColor Kitが用意されています。カラーベースカートリッジと5種類のカラーピグメント(顔料)を使用することで、検証済みの配合通りにカラーレジンを混ぜ合わせたりカスタマイズすることができ、1つのカラーモデルとしての造形も、後で組み立てを想定した個々のパーツとしての造形も可能です。
使用例:複数パーツで構成されるモデルの特定領域の造形、個々の臓器の造形、個々の血管の造形
メリット
:セットアップが簡単、均一なカラー、追加の後処理が不要デメリット:レジンタンク内で色を混ぜる必要がある。一度にプリントできるのは1色に限定されるため、マルチカラーモデルを制作する場合は個々に造形後、組み立てが必要。
染色済みレジンを使ったプリント

アルコールインクを混ぜたClearレジン。
まず、Clearレジンとアルコールインクを使用して半透明パーツを製作するプロセスをご紹介します。染色レジンを使った造形プロセスは、希望する色を表現するために、選択した色のアルコールインクをClearレジンに混合することから始まります。アルコールインクはClearレジンに完全に溶けるため、一貫性したカラーで造形ができる理想的な染料です。必要なツールは以下の通りです。
- アルコールインク(10mL)
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Clearレジン(1L)
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シリンジ
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保護手袋
シリンジを使用してアルコールインクを10mL分計量し、Clearレジンの1Lカートリッジの開口部から直接染料を注入します。インクとレジンが完全に混ざるまで容器を2分間しっかりと振ります。カートリッジから少量レジンを出し、インクが十分に混ざっているかを確認することも可能です。
これ以降の造形プロセスは通常通り行います。新しくインクを混合した材料カートリッジと新しいレジンタンクをプリンタに装着します。プリントファイルの材料がClearレジンになっていることを確認してから、プリンタにアップロードして造形を開始します。Form WashとForm CureをClearレジンの手順に従って使用します。
使用例:複数パーツで構成されるモデルの特定領域の造形、個々の臓器の造形、個々の血管の造形
メリット:セットアップが簡単、均一な染色、追加の後処理が不要
デメリット:染料を混ぜたレジンは1リットル全て使い切る必要あり、Form Washに染色済みレジンを入れる必要あり、1回の造形につき1色のみ利用可能
注:レジンに新たな物質を加えると造形失敗の可能性が高まり、かつ他の物質と混ぜ合わせた材料を使用したことが原因で問題が発生した場合にはプリンタの保証が無効になることがあります。
ElasticレジンやFlexibleレジンは一般的に造形が困難な材料のため、染料を混ぜ合わせての造形はおすすめしません。ElasticまたはFlexible系の材料を染色したい場合は、以下のセクションでご紹介する手順をご参照ください。
プリント後のSLA光造形品の染色

ElasticレジンとClearレジンをアルコールインク/IPA溶液に浸して染色した造形品。腎動脈瘤モデル(Yale New Haven Hospital、Anish Ghodadra医学博士提供)
レジンに染料を混合することなく造形品に色を付けたい場合は、3Dプリント後に染色を行うことができます。色を変えたい部分を好みの色の染料に浸すことで、1つの造形品を複数色で染めることも可能です。造形品の染色に必要なツールは以下の通りです。
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Clearレジン、Elastic 50Aレジン、Flexible 80Aレジンでプリントしたモデル
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淡色用:アルコールインク(10mL):IPA(1L)
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濃色用:アルコールインク(20mL):IPA(1L)
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Formlabs Finish Kit
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保護手袋
造形が完成したら、使用した材料の説明書に従ってForm Washを使用します。造形品を洗浄している間に、希望する色の彩度に応じてアルコールインクとIPAの濃度を1:100または2:100mLの比率で計量します。Finish Kit内で造形品が完全に覆われるよう、溶液を十分に使用してください。造形品を目的の溶液に10分間浸します。(浸漬時間を20分と30分に変えてテストしましたが、染色後の色に変化はありませんでした。)造形品を取り出し、乾燥させてからForm Cureに入れます。二次硬化によって色が失われることはありません。二次硬化中はサポート材をつけたままにしておくことをおすすめします。サポート材があることで造形品が構造的な完全性を保持でき、反りを回避できるためです。
使用例:複数パーツで構成されるモデルの特定領域の染色、個々の臓器の染色、個々の血管の染色
メリット:一度に多数の造形品を染色可能、Form Washに染料が残らない、レジンカートリッジを無駄にしない
デメリット:手順がやや煩雑
アクリル塗料を使った着色

完全に着色された膵臓モデル(USF Health提供)。
繊細なディテールを持つ複雑形状の造形品の場合、塗装による着色が可能です。塗装は時間のかかるプロセスですが、仕上がりは塗装を行う人の技量によって変わるため、ユーザーの創造性を存分に発揮できる方法とも言えます。精細なディテールを持つ手塗りのカラーモデルは、研修医の教育プログラムに最適です。各血管や臓器を直接3Dプリントしたり、さまざまな色で塗装したりすることで、教室でより視覚的な授業を行うことができます。
小型の造形品の場合、プライマーを塗布することで必要なディテールが失われてしまうことがあるため、Formlabsレジンのような非多孔質材料への付着性が高いマルチマテリアル対応アクリル塗料の使用をおすすめします。
SLA光造形品の塗装に必要なツールは以下の通りです。
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マルチマテリアル対応アクリル塗料
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ソフトブラシ、エアブラシ、またはスプレー缶
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手袋とマスク
SLA造形品をアクリル塗料で着色する場合は、以下の手順に従ってください。
1. 造形品の後処理とサポート材の除去を完了し、埃などが付着していない状態にしてから、塗装のためにしっかりと固定します。
2. 任意のツールを使用して造形品表面に一層目の塗料を均一に塗布します。この際、エアブラシまたはスプレー缶の使用を強くお勧めします。究極の3Dモデル塗装ガイドの動画解説もご覧ください。
3. メーカーの指示に従って必要に応じてさらに塗料を塗布します。
4. 塗装では、お好みの色を自由に組み合わせて使用することができます。多色仕上げのモデルを作成する場合は、マスキングテープで造形品の各部分を覆いながら塗装します。この方法により、スプレー缶やエアブラシを使用してもシャープで明確な境界線を表現できます。
ヒント:光沢またはマット仕上げを実現するには、すべての着色が完了した後、造形品表面に透明なクリアコートまたはマットコートを均一に塗布します。
使用例:複雑な医療モデル、重要部位が外部にあるモデル、マルチパーツで構成されるモデル
メリット:特定部位に任意の色で自由に着色できる
デメリット:ある程度の美術的スキルが必要、外型にフィーチャーのあるモデルでのみ有効
中空構造の着色

モデル内部の重要部位を強調したい場合は、以下の中空構造化と着色の手法をご参照ください。血管、腫瘍、その他の部位を中空構造にし、それぞれを異なる色の塗料で着色することで、内部の重要領域を効果的に視覚化できます。
このプロセスでは、対象領域内を空洞化し、選択した色の塗料をその中空部分に注入します。その結果、実際の血管や臓器内の弁に近いリアルな仕上がりを実現できます。この技法を活用するには、後処理を行う前に構造設計上の判断を行う必要があります。
設計ソフトウェアを使用して目的の部分を中空構造にし、塗料を注入するのに十分な大きさの開口部を設けます。複雑な領域に塗料を注入する際は、気泡の発生を防ぐために複数の開口部が必要になる場合があります。通常の造形・後処理手順に従い、すべての中空箇所にレジンやIPAが残っていないことを確認してください。
中空構造のモデルとともに、以下のツールをご用意ください。
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マルチマテリアル対応アクリル塗料
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シリンジまたはピペット
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手袋
SLA造形品の着色は以下の手順で行ってください。
1. 塗料がすべての空洞に確実に行き渡るよう、造形品をそれぞれ適切な角度で保持します。
2. シリンジまたはピペットを使用して中空部分に塗料を注入します。空洞が塗料で完全に満たされるか、造形品の向きを変えた時に壁面がコーティングされる程度まで注入してください(空洞が小さな場合は、注入前に塗料を少量の水で希釈する必要があります)。
3. 必要な領域の壁面がコーティングされたら、余分な塗料を排出し、塗料メーカーが推奨する乾燥時間に従って造形品を乾燥させてください。
4. 乾燥後、優れた仕上がりを実現するために必要な表面処理を行います。
使用例:内部血管、腫瘍、重要領域の視覚化
メリット:Clearレジンによる造形品の内部重要領域を明確に視覚化可能
デメリット:手順の難易度がやや高い
プリントを開始する
Formlabsでは、ラボから手術室に至るまで、3Dプリントが大幅な時間短縮とコスト削減を実現しながら、インパクトの大きな医療用途での可能性を切り拓いてきた事例を目の当たりにしてきました。カラープリントは、病院や医学教育現場における3Dプリント品の実用性を大幅に向上させます。今回ご紹介した手順により、造形品の着色が簡単に行えることを多くのユーザー様に知っていただけるきっかけとなれば幸いです。
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