無料テンプレート付き:製品要求仕様書(PRD)の書き方

製品要求仕様書(PRD)とは、新しいアイデアを成功させるために必要な、もしくは望ましいと思われるすべての要素が記載された文書で、漠然としがちなプロジェクト概要と詳細なエンジニアリング実装計画の橋渡し的な役割を担います。別の業界では、Program Of Requirements(POR)、Design Specification(設計仕様書)、Product Nucleus(製品核)と呼ばれることもあります。

PRDは、製品の見た目や感触、機能性、この製品がどのようにブランドの顔となりビジネスに貢献してほしいと考えているか、そして製品の使用方法など、製品に求められる事項を設計者や開発者により現実的な感覚で理解してもらうためのもです。

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PRDの仕組み

社内の誰かが新製品に関する素晴らしいアイデアを持っていて、開発を始めたいと考えているとしましょう。このような場合、プロジェクト概要資料に一般的な構想を記載し、設計部門にそれを提出したら開発スタート、というのが一般的なイメージではないでしょうか。ところが、そうではありません。実際には、最初の構想通りに設計・製造しても、ある分野ではしっかり機能するものの、他の分野ではまったく期待と異なる動きをすることが多いのです。これは、全員が構想としては開発者のビジョンをしっかり理解したつもりで開発に取り掛かっても、いざ製品が出来上がると全員の解釈が発案者の意図とは違っていた、ということが多いためです。

しかし、特別複雑ではない製品の開発ではPRDを必要としないものもあります。「ミニマリストテイストの家の内装で、幾何学的な美しさで目を引くような一体型の1リットルじょうろを射出成形用に設計する」、「海水浴客向けに、体重200ポンドの人でも問題なく浮かぶことのできるドーナツ型の浮き輪を設計する」などといったアイデアであれば、ターゲットユーザーの説明とムードボードなどが付属していれば、最初のPRDとしては十分です。

PRDを必要としないシンプルな製品もあるが、より複雑な製品にはPRDが欠かせない。本ページの最後では、Apple Airpods ProのPRD例をダウンロードできる。

しかし、機能やハードウェアの構成が複雑になればなるほど、より具体的な説明が欠かせなくなります。例えば、「バイオコンポジット材料を使って大量生産で巣箱を作る」などは、これだけで既に複雑さが一段階上がります。巣箱の穴の大きさにより、集まってくる鳥の種類も変わりますし、十分な換気量、温度調節、保護要素など、他にもたくさんの事項を定める必要があります。この巣箱の生産を成功させるためには、設計者に製品の情報が十分に共有されていなければなりません。

複雑な要素が組み合わされた製品では、指定の要件を満たすために様々な要素が様々な役割を果たします。ハードウェア、ソフトウェア、電子機器、ユーザーエクスペリエンス、アセンブリ、ブランディングやラベリング、パッケージング、相互運用性、サービスポリシーなど、数え上げればきりがありません。これらの要素を開発チームが十分に理解していることは通常ほとんどなく、すべてを適切に書き起こそうとすると少なくとも5ページ以上の文書になるでしょう。

そのため、一段落程度で新製品やシステムを包括的に説明できない場合は、PRDも合わせて提出する必要があります。

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PRDの長所と短所

PRDの作成は、プロジェクト発案者のビジョンを無事に物理的な製品として完成させる以外にも、様々なメリットがあります。

  • 障害となりそうな箇所を評価・検出できる

  • 新製品の成功の評価基準を確立できる

  • 1つの製品の中で様々な要素の優先順位を明確化できる

  • 様々な顧客や使用事例を意識できる

  • 新製品開発工程でプロダクトマネジメントの意義を根付かせることができる

  • 製品開発を単なる機能追加や改良だけではなく、包括的なビジョンとして捉えることができる

  • 設計の実現可能性を高められる

  • プロジェクトの全容を把握することで、誰もが製品のストーリーを理解しアピールすることができる

  • 様々な分野にまたがるチーム同士の連携や共通認識を高められる

  • 関係者全員にとってプロジェクト内容が理解しやすくなり、不明確なことによるストレスが減り、全員の士気を高めることができる

一方で、PRD作成のデメリットは以下の通りです。

  • PRDの作成にはスキルが必要で、習得に時間がかかる

    • 製品開発工程の初期段階で要求事項を具体化しすぎると、時間だけがかかり非建設的な議論につながる恐れがある

    • 曖昧で長々としたPRDは、かえって関係者を混乱させ、内容が無視される傾向がある

  • 文書に頼ることで対面での会話が減り、明文化されていない品質要件などを明確にするための質問が生まれず、「記載されている要件をすべて満たしているのだから、顧客が望む製品に違いない」という考えになりがち

  • PRDの記載とは異なるが別の観点で成功する可能性のある製品など、よりオープンな設計の探求が妨げられる可能性がある

理想的なPRDを作るには

PRDは、まず第一に、様々な利害関係者、製品の側面、および製品開発に関わる工程の観点で要件を明確にし、製品開発の道筋を大まかに決める文書です。現行製品のユーザーテスト、ユーザーアンケート、観察研究の他、デザインの探求や技術開発、新しいビジネス戦略、社会文化的傾向、修理やメンテナンス、環境の変化、デジタルファブリケーションなどの新しい製造工程、ロジスティクス、パッケージング、法規制、人体計測データ、文献などはすべて、次期製品の要件を定めるために有益な情報源です。PRDに記載されたすべての要件を満たしていれば、良質な設計である可能性が高いのです。したがって、すべての要件を合わせた時に、プロジェクトの目的を徹底的に網羅できていなければなりません。詳細は大量に記載されているのに未完成なPRDより、要件の記載としては一般的なものの、製品の領域をカバーできているPRDの方が好ましいのです。

全体像を把握し現実的な要件を定めるためには、製品の製造から流通、そして使用中や使用後の状態も含め、一連のライフサイクルを想像できるようにしておくと良いでしょう。PRDを最終版として確定する前に、ある特定の箇所を盛り込んでいなかったために設計者に誤解を与えてしまう可能性はないか、または別の設計案で成功に繋がりそうな可能性のあるものを排除してしまうほど詳細すぎる要件が盛り込まれていないか、を必ず確認します。PRDの作成もデザイン思考の一部であることを忘れないようにしましょう。

PRDで2つ目に重要になるのが、優先順位付けです。デザイナーとエンジニアは、製品を成功へと導くために重要視すべきポイントを把握しておく必要があります。PRDの目的は、製品のあるべき姿を不変のものとして定めることではなく、「設計」という様々な側面を考慮した工程のスタート地点となることで、程度に関わらず後に検討・変更となる可能性があります。そのため、PRDは開発工程の中で常に修正・更新される生きた文書とも言えます。

優先順位を伝えるには、トリアージが有効です。すべての要件に対し、must-have(必須要件)、want-to-have(実現したいもの)、nice-to-have(実現できたら良いがなくても困らないもの)、に分けます。こうすることで、デザイナーやエンジニアは、製品の実現のために絶対に必要な要件(must-have)が何かを理解することができます。また、want-to-haveのうち少なくともいくつかの要件を満たさなければ、最低限 の製品は作れても、顧客やプロダクトマネージャーが満足する製品にはならない可能性があります。nice-to-haveは、開発リソースに余裕がある場合に実装する項目です。

FormlabsのSLA光造形3Dプリンタに付属しているオレンジ色のアクリルカバーは、ブランドが常に採用してきたデザインであると同時に、造形時に悪影響を与える恐れのあるUV光を遮断するための必須要件。

また、トリアージに加えてさらに詳細な測定基準を設けることで、優先順位がより明確になります。これは、must-haveの項目の中でも元も重視すべき項目や、nice-to-haveであっても顧客からの要望が他の項目より高いものがあるためです。例えばFormlabsで新しいSLA光造形3Dプリンタを発売する場合、オレンジ色のアクリルカバーは必須要件です。これはブランドを代表するデザインであると同時に、造形工程を妨げる恐れのあるUV光を遮断するために欠かせない要素だからです。一方で、造形準備でユーザーが使用するタッチスクリーンのハード面に関する要件は、PRDの記載とは異なるものの実現可能で使用状況を網羅できるエレガントな別のデザイン案が生まれた場合には、そちらへ変更される可能性もあります。また、nice-to-haveに分類されている材料切れのセンサーは、プリンタ前面のLED点灯式のロゴよりも実用的で、あると便利な機能かもしれません。それぞれの要件に1から10までの数字を使って優先順位を割り当てることができれば、製品コンセプトの選定時にも役立ちます。品質機能展開(QFD)やその他の意思決定マトリクスをもとに、各コンセプトの成功可能性を計算することができるためです。

PRDに欠かせない3つ目のポイントは、開発目標を具体化することです。常に明瞭かつ完全な文章で可能な限り製品の定量化をするもので、「SMART」の原則を使うと良いでしょう。SMARTとは、Specific(具体的)、Measureable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bounded(期限の指定)の略語です。可能な限り、製品のそれぞれの機能がビジネスの成功指標にどう寄与するのかを定めます。要求事項をこのように策定することで、習慣や誤解、適合性などの観点から生まれる、設計とは関係のない目標や制約事項をプロダクトマネージャに知らせることもできます。

4つ目は、PRDを簡潔に保つことです。PRDは、使い回しの効く技術実装計画書ではありません。エンジニアがそれぞれの部署向けに内部で作成する文書です。優れたPRDは、詳細な仕様を書き込むことで設計を予め完璧に定義するというよりは、どちらかというと使用状況を考慮して製品に求められる挙動を定めるもので(製品仕様の記載もされているケースがほとんどですが)、その挙動を実現する方法は、設計者に委ねられます。

また、PRDは設計意図に関する利害関係者それぞれの意見集でもありません。大抵の意見は要約すると同じ要件を指していることが多く、優れた表現で要件事項として記載すれば、より正確な情報を伝えることができます。それぞれの要件で重複する部分がないかをしっかりと確認し、同じような内容の場合は1つにまとめることができないかを考えます。

つまり、PRDとは製品に求められる機能の概要、利害関係者全員にとってこの製品がどう成功へと寄与するのか、そして様々なユースケースで製品がどう機能するかを示す文書なのです。最大限に要点を絞り込んだPRDの場合、最初は主要な要件事項が並べられた短いリストから始まり、設計案が変化を遂げるごとに正確で長いリストへと変わっていきます。

独立系のデザイナーやクリエイティブスタジオがPRDを策定する場合、この最初のリストに相当するものとして、クライアントに対して2ページ程度の質問表を作成します。この質問表では、クライアント企業内における設計プロジェクトの性質、想定される機能やインタラクション、ターゲット層、競合他社との差別化要素、デザイン言語の好み、納品物、納期、予算などに関する回答をクライアントから得られるため、15分のブリーフィングで協議するよりも多くの情報を得ることができるのです。さらに複雑な設計プロジェクトの場合はこの後、開発者が最初のリストをより本格的なPRDとして落とし込みます。関係者一人一人がプロジェクトをしっかり理解し、共通認識を持つことが最終的な目標です。

PRDの構成

PRDは通常、タイトルページから始まります。タイトルページには、プロジェクト名、プロジェクトコード、会社名、部門名、責任者、作成日、文書のバージョンなど、一般的な情報が記載されています。次のイントロダクションではプロジェクトの背景とともに、より良い未来の実現に向けて様々な人が感じているニーズの観点から、新製品の開発が必要な理由を説明します。

PRDの本文は、プロジェクトの目標から始まります。目標には、製品に関する全体的なビジョン、会社として定めるより高いレベルでの目標を、成功指標、主要業績評価指標(KPI)、時間枠、と共に可能な限り記載します。

次に、要求の出所、つまり利害関係者と彼らが製品ライフサイクル(PLC)で担う役割、実際のユーザーが実際の環境で製品の主要機能を使用することを想定したユースケースを説明します。

要件事項を記載する際は、製品の要素別にグループ化すると、最も包括的に要件事項を列挙することができます。異なる利害関係者やユースケースの間で、要件事項に重複が発生したり全く同じものになることがあります。さらに、製品のすべての要素をそれぞれハードウェア、技術的な機能性、インタラクティビティ、ソフトウェア、外観とカスタマイズ性、製造、規制などの分野に明確に分類すると、すべてのポイントを徹底的に網羅したリストになります。以下、カスタムイヤホンのPRDの抜粋例のように、必ず各カテゴリーと個々の要件に番号を振ります。

5   カスタマイズ性

5.1   少なくとも一般人口の98%が理想的な装着感だと感じられるよう、複数のカスタムフィットオプションを提供すること。(P10)

5.2   身長、人種、性別の異なるランナーが10kmのルートを走る際に、耳から一度も落ちないようなカスタマイズが可能であること。(P9)

5.3   製品への文字やアイコンの追加刻印サービスを提供すること。(P3)

5.4   ブラック、ホワイト、ゴールドのほか、パイングリーン、カーキ、カクタス、シーフォーム、コーストグレー、アラスカンブルー、ストーンなど、ウェアラブルとして実績のあるカラーバリエーションから少なくとも5色を選択できること。(P5)

この例で各要件の最後に記載されているPで始まるコードは、その要件事項の優先度を1から10までの範囲で、10を最重要として定義したものです。

また、PRDを完成させるためにさらに調査が必要な事項がある場合は、それらも記載します。これらの要素は記載時点で未確定であることを意味し、その後の調査結果によっては製品開発の方向性が変わる可能性があります。これは例えば、ランニングシューズ向けの3Dプリント製インソールのような新しい市場や、設計の可能性が広がる高性能レジンなど、新材料の調査を望む場合なども該当します。

PRDによって、設計の可能性が制限されてはならない。ニューバランスのランニングシューズに使用する3Dプリント製のインソールを実現した新材料など、分野によってはPRD完成前に詳しい調査が必要な場合がある。

PRDの最後には、コンセプト発表予定日、全体の設計や重要な側面について最終的な決定を下す「仕様凍結」タイミング、製造予定日、出荷予定日、リリース予定日などに関するマイルストーンを記載します。さらに、設計工程で設計者が参照すべきリソースや情報源のリスト、PRDに記載されている専門用語を説明する用語集、詳細情報を記載した付録(任意)、新製品のポジショニングなどを含む競合他社製品との比較概要、製品の初期構想を視覚化するスケッチやモックアップ、求められる内部寸法や機能構成を説明する部品図面などを必ず添付します。

まとめると、PRDの構成は次のようになります。

  • タイトルセクション

    • プロジェクトタイトルまたは/およびプロジェクトコード

    • 担当マネージャー

    • 作成日

    • 文書のバージョン

  • イントロダクション

    • 背景情報 / コンテクスト

    • 問題定義/ユーザーのニーズ

  • 目標

    • ビジョン

    • ゴール

    • 製品のポジショニング

  • 利害関係者

    • 利用者

    • 購入者

    • メーカー

    • カスタマーサービス

    • マーケティング&セールス

    • 外部パートナー

    • 規制機関

    • 小売業者

    • その他

  • 使用事例

    • ユーザストーリー #1

    • ユーザストーリー #2

    • など

  • 観点

    • ハードウェア

    • ソフトウェア

    • 設計

    • ユーザーエクスペリエンス

    • インタラクティブ

    • マス・カスタマイゼーション

    • 製造

    • 規制事項

    • その他

  • 抽象的な疑問 / 今後の課題

  • マイルストーン

  • 各種資料

  • 付録

  • 用語集・用語解説

PRDテンプレートと記載例(無料ダウンロード)

アウトラインだけで内容の記載されていないPRDより、実際の記載例を見ることこそ意味があります。そこで、有名製品の架空のPRDをサンプルとして作成しました。このPRDサンプルでは、Apple AirPods Proを例に要求事項を記載しています。この製品のプロジェクト開始当時は、第一世代のAirPodsのみが市場に出ている状態でした。

こちらのテンプレートは、一からPRDが作成な必要な場合よりも、既存製品のPRDを作成する際の出発点としてお使いいただけます。右上の「Use Template(テンプレートを使う)」をクリックしてテンプレートをコピーし、不要な箇所は削除するなど必要に応じて文書構成を変更してお使いください。

注:こちらのPRDサンプルは、製品に関連する実際のデータと既存の家電製品に係る規制に基づいて作成されていますが、企業文書としては完全に架空のものです。

PRDの重要性

PRD(製品要求仕様書)は、設計と製品開発工程に欠かせない文書であり、この点では試作品製作や新しい設計案の試作・検証プロセスを高速化する3Dプリンタと同じ役目を担っているとも言えます。

要件を定義すること、それ自体に専門知識が必要なのです。重複する箇所や不完全な箇所を排除しながら全領域を明瞭な文章で網羅し、絶対に必要なものとあったら良いものという観点で各要件の優先順位を伝え、不必要に新たな可能性を制限してしまうような直接的な技術仕様の記載を避ける必要があります。包括的なPRDでは、外部リソースや製品のポジショニング、製品構想を視覚化するスケッチやモックアップ、設計に落とし込むべき技術的要素などの追加情報も記載されています。