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振動仕上げと呼ばれることもある振動バレル研磨は、さまざまな材料で製作した部品の表面の硬度や滑らかさを向上させる確立された方法です。元々は加工品やプレス後の金属ワークからバリを取り除くために使われていましたが、現在では3Dプリント品の表面を滑らかにする方法としてバレル研磨を使うメーカーが増えています。
特に、SLS(粉末焼結積層造形)方式で3Dプリントした部品は表面が僅かにざらついた手触りになることがありますが、バレル研磨を行うことで、実製品用部品として使用可能な表面に仕上げたり、機能アセンブリにもスムーズに組み込むことが可能です。
本記事では、SLS 3Dプリント製部品のバレル研磨(振動仕上げ)についてご紹介します。また、以下のウェビナーでは研磨機の比較や試験結果、作業工程の詳細をご覧いただけます。
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バレル研磨でSLS 3Dプリント品の表面を滑らかに
本ウェビナーでは、お客様の工程に合った機械や材料の選び方を詳細に解説するとともに、優れた表面品質を実現するためのベストプラクティスもご紹介します。
バレル研磨のメリット

バレル研磨前と後のテスト部品。バレル研磨後の外観は、ライトグレーのマットな質感。
振動バレル研磨とは、複数の小さなメディア(通常は金属、セラミック、樹脂、クルミの殻などの植物等)をワークと共にかき混ぜることで摩擦を発生させ、ワーク表面を磨きながら硬度も向上させる研磨処理です。バレル研磨は大きさや値段の手頃さ、生産工程に多大な労力を要することなく様々なメリットが享受できるため、広く普及しています。
バレル研磨により、3Dプリント品の機能性と外観の向上という、2つの大きなメリットを享受できます。面粗度を向上することで、特に可動部の摩擦係数を引き下げることができるため、ヒンジや機械式の可動ワーク、クリップ、その他可動ワークや移動式の機械に使用されるワークを3Dプリントする場合には、バレル研磨は最適な後処理方法と言えます。研磨後のワークは表面が平滑化されるため、水密性も向上します。
もう1つのメリットである外観の向上ですが、バレル研磨を施すことで見た目の質感や美しさが向上するだけでなく表面の仕上がりが均一化されるため、アクリル塗料等での塗装やセラコートなど各種コーティングを行う際の下準備としても優れています。
実製品用の機能ワークの一部として製作または量産された3Dプリント品やPoC(概念実証)用試作品として製作された造形品は、どれも多くの人目に晒されるため、簡単に表面の硬さや面粗度を向上する手段として振動バレル研磨は良い選択肢と言えるでしょう。
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バレル研磨は表面を均一化できるため、塗料やコーティングを行う際の下地処理としても優れている。
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3Dプリント用の高度な後処理方法
このウェビナーでは、Cerakote、電解めっき、ベーパースムージングなど、3Dプリント品に施すことのできる11種類以上の高度な後処理方法をご紹介しています。
3Dプリント品に適したバレル研磨機の選定
3Dプリント製部品に使用できる研磨機には、工業グレードと消費者向けグレードの2つのカテゴリーがあります。工業グレードの研磨機は処理可能な容量や必要な電力要件が大きく、一般的に価格は約 $5,000以上です。工業用の研磨機はマスカスタマイゼーションや量産移行前のテスト生産など、量産レベルの数量を処理したい場合に適しています。
小型のバレル研磨機を複数台使用すれば工業用機と同等の効率で研磨することもできますが、容量が小さいため、同等の仕上げ品質を得るためにはより長い研磨時間が必要となる可能性があります。工業用研磨機で表面を平滑化するのにかかる時間は6時間程度ですが、小型の研磨機の場合には約72時間ほどかかります。工業用研磨機は、中型から大型の部品であっても複数のバッチを簡単に処理できるため、受託メーカーや大規模メーカーなどに最適です。
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工業向け大ロット量産
例:Rösler
コスト:$5000以上
最適なケース:
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大容量かつ高速
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大型ワーク
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複数の大型ワーク
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作業手順の自動化
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中量生産
例:CM Topline
コスト:$1000〜5000
最適なケース:
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大型ワーク
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バッチ単位での小型ワークの一括研磨
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エントリー機小ロット量産
例:Raytech、Tumble Vibe
コスト:$1000以下
最適なケース:
-
特徴的な形状の中型ワーク
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小型ワークの一括研磨
バレル研磨のメディアとコンパウンドの選定
バレル研磨で使用するメディアペレットには様々な種類がありますが、用途に合わせて適切なメディアを選定できるかどうかで仕上がりが大きく左右されます。代表的なメディアには、ステンレススチール、磁器またはシリカ、ポリエステル複合材、クルミの殻などがあります。メディアの種類により、表面を強力に平滑化して表面粗さを排除するものから外観向上のために軽く研磨するものまで、幅広い効果が得られます。
湿式バレル研磨と呼ばれる工程では、ペレットに水や化学洗剤を加えて湿らせた状態で処理を行います。液体を使用することで、強力な摩擦によって発生する熱を和らげ、ワーク表面の不純物や酸化物を除去できます。しかし、こういった洗剤は高価であると同時に化学廃棄物が発生するため、使用後は適切に廃棄・処理する必要があります。
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左から右の順に、クルミの殻、セラミック、スチール
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Nylon 11 CFパウダーの研磨済み無償サンプルパーツをリクエスト
手作業による後処理はほぼ不可能な、格子構造を丸ごと3Dプリントした造形品を実際に手にとってご確認ください。DB-300バレル研磨機でアングルカットセラミックメディア(三角)を用い、一晩かけて研磨処理を施しました。滑らかな表面品質は、塗装やコーティング、電解めっきなどの処理にも最適です。
バレル研磨を施したSLS 3Dプリント製部品の用途
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バレル研磨により複雑なアセンブリや治具の耐性が高まる。
3Dプリントの用途では、滑らかな表面品質と摩擦係数の低さが求められることがよくあります。振動バレル研磨で仕上げを行うことで、さまざまな業界や環境で使用されるワークの機能性と外観のどちらも向上させることができます。
バレル研磨で滑らかな表面に仕上げたSLS部品が求められる代表的な用途は、以下の通りです。
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実製品用部品:SLS方式は少量から中量での製造を得意とし、バレル研磨は多大な作業量を割くことなくバッチ処理で部品表面を滑らかにできる最適な方法です。
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ヘルスケア: 医療器具やモデル、人工装具や矯正装具の用途では、SLS 3Dプリント品に特徴のざらついた表面品質が課題になることがあります。SLS 3Dプリントと振動バレル研磨を組み合わせることで、ヘルスケア業界の3Dプリント活用に大きな価値を付与することができます。
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治具:バレル研磨処理を施すことで治具の摩擦係数が減り、表面の硬度が高まり、耐性が高く長期間の使用にも耐えられるようになります。
試験と試験結果
Formlabsでは、ユーザーの皆さまにとっての利点を最大化できるよう、SLS方式による3Dプリント品で振動バレル研磨機の試験を実施しました。試験では、平面と曲面、内面、外面を全て備えた標準設計の部品を複数3Dプリントしました。
Nylon 12パウダーとNylon 11パウダーを使ってSLS方式3DプリンタFuse 1+ 30Wでプリントした後、標準的な後処理ガイドラインに従ってFuse Siftで粉末除去を行い、CB300振動バレル研磨機(通称Mr.Deburr)でそれぞれ4時間、6時間、8時間かけて研磨を行いました。造形品は全てノギスで寸法精度を測定し、面粗度についてはKeyenceのレーザー顕微鏡を使って測定しました。製品仕様をダウンロードいただくと、試験結果の詳細をご確認いただけます。
3Dプリントとバレル研磨を試す
振動バレル研磨は、SLS 3Dプリント製部品の外観と機能性を射出成形品に近づけることができる、身近な後処理方法です。3Dプリントの工程に追加する場合、複雑で効果な装置は必要ありません。研磨装置には、設置面積や必要電力の観点でも利用しやすく手頃な価格の選択肢が豊富にあります。