ドイツに拠点を置くIBL Hydronicは、建設や公共工事、農業、林業などで使用する特殊車両や重機向けにエレクトロニクス、油圧、ソフトウェアのカスタムソリューションを提供する企業です。
SLS 3Dプリンタ、Fuse 1を導入して機能確認の試作をかなりの短時間で製作し、そのままFuse 1で複雑な油圧機器の部品を自社製造しています。
本記事では、IBL Hydronicの3Dプリントを担当するテクニカルプロダクトデザイナー、Tom Heindl氏がSLS 3Dプリントを活用して推し進めた制御装置のイノベーションと、その結果ワークフローがどのように最適化・高速化されたのかをお話しいただきます。
粉末焼結積層造形(SLS)方式3Dプリントガイドブック
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車両向けの自動制御システムを開発
IBL Hydronicは、建機や農機、林業機械、公共工事用車両など、さまざまな産業機械向けに制御システムを開発・製造しています。このニッチ分野では、制御部品であるハードウェア、そしてそれ専用にカスタムしたソフトウェアの両方を提供しています。
「私たちは油圧機器と電子機器双方で革新的なソリューションを開発しています。当社の製品は、シンプルな制御ブロックから高度なUI(ユーザーインターフェース)を備えたIoT制御装置まで多岐にわたります」とHeindl.氏は言います。
各顧客からヒアリングした個別の要望に迅速に対応するため、IBLは製品のコンポーネントの大半を内製しており、その中で3Dプリンティングが重要な役目を果たしています。
「この業界の製品は、生産数が少ない上に、常に顧客ごとに設計を調整しなければならない部品が多いんです。なので3Dプリンタを使って製造するのは非常に理に適ったことだと思います。」
Tom Heindl氏 IBL Hydronic 3Dプリント担当テクニカルプロダクトデザイナー
これまで経験した案件の中には、従来のIBLの製造プロセスでは構造的・設計的に対応が難しいものがありました。それがきっかけとなり、同社は3Dプリントの導入を本格的に検討することになりました。当初こそ3Dプリントでの製造は外部に委託していましたが、想定以上に需要が高く、外注に出す頻度が相当に高まったことを受け、2019年に3Dプリンタを初めて自社内に導入しました。
「3Dプリントでは、積層痕などの目に見える特徴が出ないようにすること、そして切削や成形では作れない形のものも積極的に試すことが重要でした。実は、当初検討していたのは別の3Dプリンタだったのですが、品質上の理由からFuse 1に決めました」とHeindl氏は言います。
Heindl氏は、SLS方式の材料であるパウダー材により、サポート材が要らない点がFuse 1最大のメリットだと考えています。このSLSでの3Dプリントにより、他の方法では実現できなかった新たな計画がどんどん生まれています。Heindl氏と彼のチームにとっては、プリンタが誰でもすぐに使いこなせるほど簡単に扱えることも重要なポイントです。
「SLSを導入したことで、CNCでのフライス加工や旋盤加工、機械加工といった方法を採る必要がほとんどなくなりました。もちろん時間とコスト、そして設置場所のスペースも大幅に削減できます」とHeindl氏は言います。
「SLSの使いやすさとシンプルなワークフローのおかげで、製品とデザインだけに専念できるようになりました。これによって私たちの業務プロセスは、劇的にシンプルになったんです。」
Tom Heindl氏
2019年以来、IBLは需要の増加に対応するため、3Dプリンタ事業を着実に拡大しています。
カスタム品の最終部品を3Dプリントで量産
Fuse 1を自社で保有する大きなメリットは、量産段階に入ってもすぐに変更が行えるという柔軟性であり、そのおかげでHeindl氏と彼のチームは、更に深く掘り下げた顧客の要望にも細やかに、かつ簡単に対応できるようになりました。
IBLは、農業機械メーカーや工事車両メーカー向けに制御装置を開発する際、既製の汎用部品を使うことはほとんどありません。その代わり、各顧客の課題やニーズを汲み取り、その顧客専用にカスタムしたソリューションをSLS 3Dプリンタで開発しています。
これは、IBLにとって新たなセールスポイントとなり、切削や射出成形で部品を作る競合他社とは一線を画しています。また、射出成形は金型を起こす際に高額なコストと時間、そして多大なエネルギーが必要となるため、小ロットでの量産では採算が取れないのです。
SLS 3Dプリント vs 射出成形:金型レスに切り替えるべき時は?
本ホワイトペーパーでは、射出成形とSLS 3Dプリントのメリットとデメリット、そしてSLSが補完的なソリューションとして活用できるケースについて解説します。
「この業界にいるほとんどのメーカーにとって、重機や車両はかなりの少量生産です。つまり、私たちは1バッチ100~250点という単位で本当にいろいろな部品を作っているんです。私たちは急ぎの案件や小ロットでの量産にしか製造設備を使いません。なので、いくつもの製造設備を何台も購入していろんな部品を同時に作るということも論外なんです」とHeindl氏は説明してくれました。
業務全体のスピードが向上し、3Dプリンタも安定してフル稼働していることから、Fuse 1での量産内製化の投資対効果はかなり良い結果となっています。同社は更に、製造能力が向上したことで新たな顧客を獲得することも可能になりました。
削減可能なコストと時間を試算
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農業機械の制御モジュールを3Dプリント
IBL Hydronicが直近で手がけた案件は、農業機械メーカー向けに、その農機専用にカスタムした制御パネルを開発することで、この案件は記録的なスピードで完了しました。制御モジュールが完成し、お客様にお披露目するまでに要した期間は、なんと僅か1ヵ月でした。
下の画像の制御装置では、ハウジングの構成部品をSLSでプリントして組み立てた後、革製のアームレストパッドを装着しています。機能だけでなく見た目も美しいデザインを実現するため、設計段階で3Dモデルの表面にテクスチャを施しています。ハウジング自体はSLSでプリントしたものを溶剤噴霧で平滑化し、染色しました。結果、SLSプリント品によるアセンブリは、革のような表面の質感を放ち、デザイン全体の雰囲気をより美しいものにしています。
IBLのチームは、SLSとSLA両方の3Dプリント方式を駆使することで、デザインと機能に制約がないアディティブマニュファクチャリングをフルに活用しています。
例えば白やオレンジのボタンなどの小さな部品は、透明部品を3Dプリントできる数少ない造形方式の1つであるSLAで製作しています。この制御モジュールでは、例えばシステムエラーの発生時にキーから警告信号を点滅させる機能をソフトウェアに組み込むこともできました。
無償サンプルパーツのお申込
Formlabsの品質を貴社にてご検証ください。下のボタンからお申込をいただくと、Fuse 1+ 30WでプリントしたSLSのサンプルパーツを無償で貴社にお届けします。
アディティブマニュファクチャリングのスピード感と柔軟性は、IBLにとって制御モジュールの開発プロセスの基礎となっています。開発から製造までのあらゆるステップにおいて、外部委託した際に生じる待ち時間を3Dプリントでの内製化で大幅に短縮し、遥かに速いスピードで顧客に製品を納めることができるようになりました。
「3Dプリンタを使えば2~3週間で量産品と変わらない品質の試作品をお客様に提供することができます。」
Tom Heindl氏
また、従来の製造方法では段階的にさまざまな部分を試作を重ねて前に進める分、設計変更への対応は難しかったのですが、SLSの場合は遥かに簡単に、設計変更にも即座に対応できます。
「3Dプリントでは、試作を重ねて量産に辿り着いた後でもすぐに工程を後戻りして、すぐに変更が行えます。CADファイルを修正し、工具や機械を調整するような作業も一切なく、すぐにプリントができるスピード感はCNC機械などの他の製造方法とは比較になりません」とHeindl氏は言います。
SLS 3Dプリントはそのまま競争力に
Heindl氏と彼のチームは、これまで得た経験をベースに、新たな材料を試し、製造できるものの幅を広げ、今以上に多様なデザインができるよう、自社の能力をスケールアップしようとしています。彼らはこの3Dプリントで作られた制御装置のようなプロジェクトを通して、新たなアプローチの基礎を築き、より幅広いものづくりが行えるよう将来を見据えています。
「自社に3Dプリンタを導入し、その使い方を学んでいなければ、今いるお客様との付き合いが始まること自体なかっただろうと思います。」
Tom Heindl氏
Fuse 1+ 30W:炭素繊維にも対応の高速SLS 3Dプリントで実製品生産
本オンデマンド(録画)ウェビナーでは、Forlmabsが本年7月28日に実施した最新高速SLS 3Dプリンタ「Fuse 1+ 30W」と炭素繊維充填材料「Nylon 11 CFパウダー」の詳細を解説いたします。