水泳用ゴーグル試作品を100%シリコン材料で製作するFINIS

FINIS, Inc.が開発した「Smart Goggle Max」。

FINIS, Inc.は水泳やアクアスポーツ用品を専門に最先端デバイスを開発している。その代表例がスイミング用のスマートゴーグルSmart Goggle Max。

最先端な製品開発で有名なFINIS, Inc.は、その優れた品質と性能があらゆるレベルのスイマーから信頼されています。米国カリフォルニア州を拠点とする同社は、スイマーやコーチからの常に変わり続ける要求を徹底的に汲み取り、革新的な製品を提供し続けています。

FINISのシニアデザイナーDavid Beittel氏は、製品開発グループの責任者で、Beittel氏のチームはラピッドプロトタイピング用にフィラメントを使用する方式の3Dプリンタを導入しましたが、ほどなくより緻密で強度に異方性がない技術が必要だと気が付きました。開発工程ではフィラメントタイプの3Dプリンタを引き続き使用しているものの、外観と機能を確認する製品試作にはFormlabsのSLA光造形方式プリンタ Form 3+を使用し、その「驚異的な材料の豊富さ」に驚いたと言います。それでも、フィン、ゴーグル、トレーニング用具といった同社の主要製品ラインの実製品に近い材料で試作品を製作するには、唯一耐久性のある純粋なシリコン材料が足りませんでした。

これまでは金型を使った鋳造でシリコン部品を製造していましたが、多大な労力が必要なことと製造期間の長さがネックでした。現在では、SLA光造形プリンタのForm 3+で新材料のSilicon 40Aレジンを導入しています。この新登場の100%シリコン材料は、やわらかく、柔軟性と耐久性のある部品が造形できる手頃な価格のレジンで、設計の調整も迅速にでき、たった一晩で機能確認用試作を製作することができます。

「本来なら、金型の製作だけで1ヶ月ほどかかります。[Silicone 40Aレジンのおかげで]さまざまなアイデアを試せるようになりました。変更があっても夜間にプリントしておけば、翌朝出社したら造形品を取り出して洗浄するだけ。すぐに機能確認ができます。今まで数週間もかかっていた工程が数時間で完了するようになったことが、一番のメリットだと思っています。」

David Beittel氏 FINIS, Inc. シニアデザイナー

Beittel氏のチームは、製作した部品を水中と空気中双方の環境で社内検証し、Silicone 40Aレジンが一般的なシリコンライクな3Dプリント材料と比べ、どれほど優れた防水性と反発弾性を力説しています。製品開発グループは、Silicone 40Aレジンの弾力性が実製品の量産で採用している材料に極めて近いことに驚きました。現在同レジンは製品設計を改良し、開発工程のすべての段階で最適な性能を出すために欠かせない材料となっています。

Silicone 40Aレジンを使ったサンプルパーツ
サンプルパーツ

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ガスケットの試作:Silicone 40Aレジンでの新たなアプローチ

Beittel氏らはこれまで、シリコン部品を大量生産する際は射出成形圧縮成形を採用していましたが、これらの従来工法では金型製作に多大なコストが必要で、数ヵ月という製作期間も要していました。そのため製品開発の段階では、ベータ品の試作や量産移行前のプリプロダクション品が必要な場合はウレタン鋳造を外注していました。ウレタン鋳造は数十個程度の部品製造には一般的な手法ですが、それでも2〜3週間程度かかり、試作製作や設計の迅速な試作・検証には限界がありました。

この問題を解決するためにBeittel氏のチームは開発工程に3Dプリントを導入し、ユーザーテスト用にラピッドツーリングでの金型製作に入る前に設計の微調整や社内検証が行えるようにしました。その結果、今では「設計・検証・改良」のサイクルを何度も繰り返すことができるようになり、より良い製品の開発につながっています。

FINIS, Inc.のチームは、最新のスマートゴーグルを開発中、新しいガスケットの試作で課題に直面しました。ラップ数、ストローク数、スプリットタイムを計測する小型モジュールをゴーグルに埋め込むのですが、オン・オフの切り替えが簡単にできるような設計が必要です。そのため防水性は保ちつつ、モジュールのボタンと同じ位置にボタンを搭載したガスケットを開発する点に課題がありました。

ボタンを搭載したゴーグルガスケットのCADデザイン。

新製品のスマートゴーグルはボタンの搭載によって形状が複雑化している。

ベータ版の検証用にウレタン鋳造に入る前に、試作を繰り返して設計を定める必要があります。「試作で一番難しかったのは、ボタンの設計です」とBeittel氏は言います。従来であれば、この新しいガスケットの試作はElastic 50Aレジンを使って3Dプリントしていました。しかし、シリコンライクのElastic 50Aでも十分な弾力とは言えず、本物のシリコンのような反発性もありません。Elastic 50Aレジンは初期の試作製作にはうまく機能しましたが、もっと実製品に使うシリコンに近い材料が必要でした。「ガスケットのラピッドプロトタイピングには、一定以上の弾力がある材料が必要でした。他の材料は曲がりや柔軟性は十分なのですが、シリコンのような反発性がありません」

スイミングゴーグル用ガスケットの試作製作

製作期間コスト
ウレタン鋳造2~3週間ガスケットを2つ1セットで$1220
Silicone 40Aレジンで内製8時間ガスケット1つあたり$10

Beittel氏のチームがSilicone 40Aレジンを使用して以来、試作品の出来が格段に良くなりました。新材料を使った試作では反発弾性が大幅に改善され、実製品に非常に近くなりました。Silicone 40Aレジンを使ってプリントしたガスケットで社内検証を行ったチームは、目の周りの密閉性と材料の防水性に驚きました。「生産ツールから最初の数回を置き換えても遜色がなかったほどで、検証結果に満足しています」とBeittel氏は言います。

新製品Smart Goggle Maxの試作品

Silicone 40Aレジンを使ってプリントしたガスケットで社内検証を行ったチームは、目の周りの密閉性に驚いた。

新製品Smart Goggle Maxの試作品

「数週間ほど[Silicone 40Aレジン]製の新作ガスケットをつけて泳いでみたのですが、感動しました。実製品用の材料よりはやや柔らかいものの、目の周りをしっかり密閉してくれました。水が入ってくることもありませんでしたし、接着剤を使わずにレンズとボタンが密着できていることに驚きました」

David Beittel氏 FINIS, Inc. シニアデザイナー

3Dプリント製インソール
ウェビナー

新登場Silicone 40Aレジンの紹介

本ウェビナーでは、3DプリントのエキスパートがSilicone 40Aレジンの主な利点と用途、材料特性や作業手順をご紹介します。

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SLA光造形プリンタで水泳用具を迅速・柔軟に開発

FINIS, Inc.の大人気製品のひとつは水中骨伝導MP3プレーヤーです。多くの人に愛されている当製品の新版として、以前よりも嵩張らない新たな「耳掛け型」製品の開発に乗り出しました。チームが直面した課題のひとつが、スイマーが壁を蹴って勢いをつけたり、フリップターンのような激しい動きをしたときに、ヘッドセットがわずかに不安定になることでした。Beittel氏のチームはこの問題を改善するため、ヘッドセットにしっかりと装着できる小さなシリコン製アドオンを開発し、そこにゴーグルのストラップを通すことで安定性を高めようと考えました。

ヘッドセットを固定して安定性を高められるよう小さなシリコン製アドオンを開発。

ヘッドセットを固定して安定性を高められるよう小さなシリコン製アドオンを開発。

ヘッドセットを固定して安定性を高められるよう小さなシリコン製アドオンを開発。

製品開発グループは3Dプリントを活用して何度も試作・検証を繰り返し、最適な設計を完成させました。「ユーザーにとって装着しやすいもの、プールの中でうまく機能する設計を見つけるために、少しずつ微調整を加えていきました」とBeittel氏は言います。Beittel氏のチームは以前までFormlabsの材料ライブラリからシリコンライクの材料を使用していましたが、その材料では穴に通してヘッドセットにぴったりフィットさせるのに必要な柔軟性がなく、また破れやすいことがわかりました。

しかし、弾力性と耐久性に優れたSilicone 40Aレジンを取り入れたことで試作製作工程が大幅に改善され、課題に効果的に対処することができました。Beittel氏は、実製品の材料に十分近い材料かどうかを確認するためには、見た目、感触、そして機能が重要であると付け加えます。彼は新材料について、繰り返し使用しても硬くなったりせず、形状を保っていることを高く評価しています。

「実製品に使う材料と同じような感触と機能です。少し弾力があり、反発弾性はずっと良くなり、硬くならないところも気に入っています。当社で使ういくつかの実製品材料に近いですし、開発段階で使うには十分な類似性を持っています」

David Beittel氏 FINIS, Inc. シニアデザイナー

3Dプリントがなければ、小さな金型を使った射出成形を製造手法として選び、必要に応じて金型を修正していたでしょう。しかし、それでは製造工程のスピードが大幅に下がり、設計・検証工程に少なくとも1ヶ月は必要になります。Beittel氏は、Silicone 40Aレジンのおかげで迅速な意思決定、部品製造、検証が可能になり、開発工程全体を素早く進めることができると強調します。

これならチームが候補となる設計を絞り込み、実製品製造用の金型製作を外注する前に設計が適切に機能するかどうかを確認することができます。「金型製作に入ってしまうと、変更には限界があります。いくつかの変更は可能ですが、それには時間とコストがかかり、金型の品質も低下しがちです」

Silicone 40Aレジンの弾力性が大きな役割を果たしたもうひとつの用途が、近年人気が急上昇したマーメイドフィンです。「マーメイド気分」を楽しむ人が増加するにつれ、Beittel氏は、スイミング用具を販売する会社はトレンドをしっかりと掴み、今やマーメイドと一緒に泳ぐようになったマーマンたちの大きな足にも対応できる用具の開発が非常に大切だと言います。チームは、本製品の複数バージョンを大量生産する前に市場テストをしたいと考えました。製品開発グループは、あらゆるタイプの足に対応できるよう、フットポケットに装着できるエクステンションストラップを考案しました。

製品開発グループは、あらゆるサイズに対応できるようエクステンションストラップを開発。

製品開発グループは、あらゆるサイズに対応できるようエクステンションストラップを開発。

製品開発グループは、あらゆるサイズに対応できるようエクステンションストラップを開発。

前述のゴーグルと同様、開発チームはSilicone 40Aレジンを手に入れる前にまず他の柔軟性材料で検証しました。しかし、Silicone 40Aレジンは議論の余地なく、ユニークな特性を持った材料です。Flexible 80AレジンやElastic 50Aレジンは、最初の試作製作や設計の検証・改良工程には最適ですが、繰り返し加えられる張力や負荷に耐えられるほどの性能はなく、検証中に破れてしまうことがありました。一方、Silicone 40Aレジンは劣化することなく弾力性を維持していました。

スイミング用品の未来を見据える

「この価格帯でSLA光造形プリンタを社内に導入できるなんて、本当に驚きです。まさか実現できるとは思っていませんでした」とBeittel氏は言います。

Silicone 40Aレジンを導入したことで、FINISの製品開発グループは試作工程を高速化することができました。Beittel氏は、ゴーグルのガスケットやその他様々なゴム部品の機能確認用試作、内部検証で、新材料の優れた機械的特性が効果的に機能したことを喜んでくれました。