電解めっきを活用することで、特定の金属が持つ強度、導電性、耐摩耗性、耐腐食性、外観を、コストパフォーマンスや軽量性を自慢とする金属やプラスチックなどの材料と組み合わせることが可能です。
このガイドでは、プロトタイピングから大量生産まで、様々な製造段階で多くのエンジニア、研究者、アーティストが電解めっきや金属めっきを活用している理由を詳しく解説します。
金属の強度を手に入れる:SLA光造形品の電解めっき方法と活用事例
本技術資料では、レジンで3Dプリントした部品のメタルコーティングに取り組むエンジニアの事例、そしてハイブリッド金属による実製品用部品の強度・耐久性の向上や用途の拡大といった新たな可能性について詳しく解説しています。
電解めっきとは?
電解めっきとは、電着を利用して対象物の表面に金属の薄い層をコーティングするプロセスです。エンジニアは制御された電気分解を用いて、陽極(めっきに使用する金属を含むパーツ)から陰極(めっきを施すパーツ)へと金属膜を移動させます。
陽極と陰極を電解液の入った化学槽に浸し、連続して電流を流します。電流によって負電荷を持つイオン(陰イオン)が陽極側に移動し、正電荷を持つイオン(陽イオン)が陰極側に移動します。こうすることで、目的のパーツを均一な金属膜で覆うことができます。電解めっきは、基材(軽量材料や低コスト材料が一般的)をニッケルや銅などといった金属の薄い膜で包み込む技術です。
電解めっきは、基材に導電性があることが基本要件となるため、種類の異なる金属に対して行われるのが一般的です。一方、あまり一般的ではないものの、プラスチックパーツに電解めっきを施すための自己触媒型のプレコーティングも開発されており、極めて薄い導電性の層を形成してから銅やニッケル合金などの金属でめっき処理が可能になっています。
電解めっき vs. 電気鋳造
電解めっきと電気鋳造は、どちらも電着を利用したプロセスです。違いは、電気鋳造では型を使用し、最後に型から取り外す点です。電気鋳造は固体の金属製品を作るために用いられ、電解めっきは既存のパーツ(異なる材料で作られたもの)を金属でコーティングするために使用されます。
電解めっきに使われる材料
電解めっきには、単一の金属や複数の金属を組み合わせることができます。多くのメーカーは、銅やニッケルなどの金属を層状に重ねることで強度や導電性を最大限に引き出しています。一般的に電解めっきに使用される材料は以下のとおりです。
- 黄銅
- カドミウム
- クロム
- 銅
- 金
- 鉄
- ニッケル
- 銀
- チタン
- 亜鉛
基材は、ステンレス鋼やその他の金属からプラスチックまでほとんどどんな材料でも使用可能で、職人たちは花や布などの有機材料にも電解めっきを施しています。
注意すべきは、プラスチック、木材、ガラスなどの非導電性の基材の場合、電解めっきを行う前に導電性の膜を形成する必要があることです。そのために、基材に導電性の塗料やスプレーを塗布してコーティングします。
(3Dプリント製の)プラスチックパーツの電解めっき処理
材料科学とプラスチック製造技術の進歩により、自動車から配管パイプに至るまで、軽量で低コストのプラスチックパーツが様々な業界で高価な金属部品の代わりとして使用されています。
プラスチックには金属に勝る多くの利点がありますが、依然として金属が主流となっている用途も多数存在します。しかし、プラスチックで銅のような高級感のある仕上げを実現することはやはり難しいでしょう。また、プラスチックは多くの金属材料よりも柔軟性がある一方、強度の点では遠く及びません。そのような場合に、金属めっきが効果を発揮します。
3Dプリントを電解めっきと併用することで独自のメリットが生まれます。エンジニアは、アディティブマニュファクチャリングならではの設計の自由度を活かし、基材を3Dプリントすることが一般的です。特にプロトタイピングでは、3Dプリント品に電解めっきを施すことで鋳造や機械加工などの従来の製造方法よりもコストを抑えることができます。
SLA光造形方式3Dプリントは、非常に滑らかな表面や繊細な質感の表面を持ったパーツを造形できるため、プラスチックと金属という2つの材料の移動がスムーズになり、電解めっきに向いています。また、水密性のあるパーツも製作が可能なため、電解めっきプロセスで必要な電解槽に浸してもパーツが損傷することがありません
エンジニアリングの観点からは、3Dプリントと電解めっきを組み合わせることで、完成品に独自の引張強度を持たせることができます。上の図が示すように、これら2つの製造プロセスを組み合わせることで、2種類の材料間の引張強度のギャップを埋めることが可能です。
金属めっきは、(3Dプリント製の)プラスチックパーツの機械的特性を大きく左右します。構造的な金属層と軽量なプラスチックコアを組み合わせることで、驚くほど高い曲げ強度を持ったパーツを製造できます。
機械的特性の向上に加えて、電解めっきはプラスチックパーツを環境による劣化から守るためにも使用されます。化学薬品や紫外線にさらされる用途では、金属めっきが恒久的なバリア機能を提供し、パーツの寿命を数か月から数年へと延ばすことができます。
めっきは外観処理としても効果的で、金属のような見た目と手触りの試作品を簡単に製作できます。めっきの厚さによって、軽量で薄い仕上げから重量感のあるパーツまで調整が可能です。厚めの電解めっきコーティングはその後さらにテクスチャを加えたり研磨を施したりすることで、鋳造アルミニウムから鏡面仕上げのクロムまで様々な金属の外観を再現できます。テクスチャのあるレジン基材を3Dプリントすることで、さらに複雑な質感を実現することも可能です。
3Dプリント可能な材料、様々なめっき材料、めっきの厚みの割合の組み合わせは無数にあり、このことからも、電解めっきを活用することでエンジニアたちが全く新しい設計を検討できるようになることがわかるでしょう。
3,500ドルのプリンタで金属3Dプリントに迫る:電解めっきの活用法
このウェビナーでは、電気めっきによっていかにSLA光造形3Dプリントの材料の幅が広がり、高剛性で耐摩耗性の実製品用部品を製造可能になるかについてご説明します。
電解めっきのメリット
電解めっきには、パーツの強度、寿命、導電性の向上など、多くのメリットがあります。エンジニア、メーカー、アーティストはこれらのメリットを様々な方法で活用しています。
エンジニアは、多様なデザインの強度と耐久性を高めるために電解めっきを使用します。銅やニッケルなどの金属でパーツをコーティングすることで様々なパーツの引張強さを向上させます。金属層を追加することで化学薬品や紫外線への耐性が増し、屋外や腐食性のある環境での使用も可能になります。
アーティストは、電解めっきを利用して葉っぱなどの腐敗しやすい自然材料を保護し、長持ちするアート作品に仕上げています。医療分野では、電解めっきを使用して腐食に強く適切に滅菌できる医療用インプラントを製作しています。
電解めっきは、実製品用部品、彫刻、フィギュア、アート作品の表面に金属仕上げを施す効果的な方法です。メーカーは電解めっきを活用することでより軽量なパーツを製造し、より容易かつ低コストな輸送や取り扱いを実現しています。
導電性の向上も電解めっきの大きなメリットです。金属はもともと導電性が高いため、電解めっきを施すことで必然的にパーツの導電性を高めることができます。アンテナや電子部品などに電解めっきを施すことで、性能の向上が期待できます。
電解めっきのデメリット
電解めっきには多くのメリットがありますが、プロセス自体が複雑で危険を伴う点がデメリットとも言えます。電解めっきを行う作業者は、適切な事前準備を行わないと六価クロムへのばく露による健康被害を受ける可能性があります。そのため、十分に換気された作業環境で行うことが極めて重要です。米国労働安全衛生局(OSHA)は、電気めっきに関するリスクをまとめた多数の文書を公開しています。
レジンパーツに自力で電解めっきを施すことも可能ですが、未経験者には難しい場合があります。主な理由は品質と技術的な制約です。DIYの電解めっきでは、プロのめっきサービスと比べて金属膜の接着強度が低くなりがちです。長時間のめっき作業、複数の電解槽、金属間の相性など様々な要素が関わる構造的なめっき加工は、安定して実行することが難しいのです。社内でめっき加工を行う場合は、ジュエリーのプロトタイプや薄いRF銅コーティングなど、比較的シンプルで小規模なものに適しています。
専門知識が必要で危険を伴うため、多くのエンジニアやデザイナーは、このプロセスを専門とする外部のめっき業者に依頼しています。幸い、RePliFormやSharretts Platingのようにカスタム電解めっき加工を専門とする会社がいくつかあります。こちらの技術資料をダウンロードいただくと、地域や作業量別に利用可能な電解めっき加工サービスの一覧をご確認いただけます。
上の動画では、携帯電話の充電器や予備の銅管など、手に入りやすいツールを使って電解めっきを行う方法を紹介しています。電解めっきを行う際は、マスク、手袋、保護メガネを着用し、十分に換気された場所で作業してください。
電解めっきの多彩な用途
電解めっきは、婚約指輪から電気アンテナまで、多くの業界で様々な製品に活用されています。以下にいくつかの例をご紹介します。
航空宇宙
航空機部品の多くには「犠牲コーティング」として電解めっきが施され、腐食を遅らせることで部品の寿命を延ばしています。航空機部品は極端な温度変化や環境要因にさらされるため、金属基材にさらに金属層を加えることで、通常の摩耗や劣化による機能低下を防ぎます。
航空業界用に設計された多くの鋼製ボルトや留め具はクロムで電解めっき処理されています(制限の変更により、最近ではニッケル亜鉛がより一般的です)。
アートとインテリア
Etsyで「電解めっき」と検索すると、電解めっき加工済みのインテリア雑貨、ユニークな記念品が多数表示されます。職人たちは、このプロセスを使って花や枝、さらには昆虫などの有機物を耐久性のあるアート作品に変えています。電解めっきにより、通常はすぐに腐敗してしまうアイテムの繊細なディテールを保存・展示することが可能です。
銅めっき加工済みのカブトムシやハチの巣など、アート作品にも電解めっきはよく用いられています(画像出典)。
デジタルデザイナーは、彫刻制作に電解めっきを利用することがあります。デスクトップサイズの3Dプリンタで基材をプリントし、そのデザインを銅、銀、金などで電解めっき加工することで、意図した仕上がりを実現します。このように3Dプリントと電解めっきを組み合わせることで、製作過程を容易(かつ低コスト)なものにしながら、金属鋳造で作る彫刻と同じ外観と仕上がりを実現できます。
自動車
自動車業界では、電解めっきが非常に広く活用されています。主要な自動車メーカーの多くが、電解めっきを使ってクロムめっき済みのバンパーやその他の金属部品を製造しています。
また、電解めっきはコンセプトカーのカスタムパーツ製作にも用いられています。例えば、VWはAutodeskと提携して「Type 20」というコンセプトカーのホイールキャップを製作しました。3Dプリントでホイールキャップの試作品を製作し、その後電解めっき処理を施しました。
修理工場や車両のカスタム化事業でも、様々な車両やオートバイの部品にニッケルやクロム、その他材料を使ってめっき加工を施しています。
ジュエリー
中でも電解めっきが最もよく使われているのは、ジュエリー業界や貴金属分野かもしれません。ジュエリーデザイナーやメーカーは、この電解めっきを利用して指輪、ブレスレット、ペンダントなどの色彩、耐久性、美観を向上させています。
「金めっき」や「銀めっき」と表示されたジュエリーは、電解めっき加工されている可能性が高いです。様々な金属を組み合わせて独特の色合いを作り出すことも一般的で、例えば金に銅や銀を混ぜてローズゴールドを作ります。
医療・歯科
電解めっきは、医療や歯科用途でも様々な部品の表面に耐久性を加えるために活用されており、金めっきは歯のインレーや各種歯科処置のサポートによく使われています。人工関節やネジ、プレートなどのインプラント部品にも電解めっきが施されており、耐腐食性の向上のほか、挿入前の滅菌も可能です。ピンセットや放射線機器などの医療・歯科用ツールにも広く電解めっきが行われています。
電力
電気・太陽光関連の部品の多くに、導電性を高めるために電解めっきが施されています。太陽電池のコンタクトや各種アンテナが電解めっきを利用して製造されているほか、電線にも銀、ニッケル、その他多くの金属で電解めっきが施されています。耐久性を高めるために、他の金属と併用で金めっきがよく使用されます。また、金は導電性と延性に優れ酸素に反応しないため、部品の耐久性を延ばす目的でも頻繁に使用されます。
プロトタイピング
カスタムまたは少量の金属部品を従来の製造プロセスで製作しようとすると、多大なコストと時間がかかります。そのため、エンジニアはコストと時間を節約できる方法として、3Dプリントと電解めっきの組み合わせを選択することが多くなりました。
例えば、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne (EPFL))のAndreas Osterwalder氏は、自らが所有するFormlabs SLA光造形3Dプリンタを使って新しいデザインを3Dプリントし、Galvotecと提携してそれらのパーツを電解めっき加工することで、プロトタイピングのプロセスをスピードアップし、高度な実験装置にかかるコストを下げることができました。
RFとマイクロ波製品
アンテナが電波を伝搬させるためには、導電性が必要です。3Dプリント製のプラスチックパーツは電気を通しませんが、ほとんど制約のない設計の自由度と優れた機械的・熱的特性が魅力です。電解めっきと組み合わせることで、これらのパーツに必要な導電性を持たせ、カスタムアンテナの製造が可能になり、自動車、防衛、医療、教育などの分野における研究開発に役立ちます。
3Dプリント製部品の電解めっき処理のベストプラクティス
電解めっきを施した複合材料で、幅広い用途が開けます。その汎用性の高さから、電解めっきは様々な業界に無数の可能性をもたらすことになるでしょう。3Dプリント製の部品への電解めっき処理についても、ぜひ詳細をご覧ください。
以下の技術資料をダウンロードいただくと、光造形品に金属特性を付与する方法や、実製品用部品の強度や耐久性の向上をはじめとした、ハイブリッド金属部品の活用で開ける幅広い用途についてご確認いただけます。技術資料の最後には、電解めっきの新しい活用法、設計上の考慮事項、SLA光造形品の性能を高めるための実用的なヒントも紹介されています。ぜひご活用ください。