炭素繊維材料の3Dプリントガイド:プリンタと材料の比較

A 3D printed chain holding a 45 pound weight.

自転車、レーシングカー、ドローン、テニスラケットその他さまざまな用途で、軽量でありながら高強度、高耐久性を備えた製品が求められています。このような組み合わせの特性を備えているのが炭素繊維複合材料であり、フォーミュラ1のレーシングカーから軽量ロードバイクのフレームまで、あらゆる用途で使用されています。 

多くの3Dプリンタは、各種複合材料などポリマーベースの材料を使用しているため、「炭素繊維を3Dプリントできるのか?」と考えられる方も多いようです。

実は、3Dプリントを使用した炭素繊維パーツの作製は、2とおりの方法で行うことが可能です。1つ目は、従来の炭素繊維部品の生産工程を3Dプリンタで補助する方法、そして2つ目が炭素繊維複合繊維を使用して3Dプリントで直接作製する方法です。本記事では従来の作製方法についてひととおり説明し、さらに炭素繊維の3Dプリントで型を作製する新たなワークフロー、そして炭素繊維複合材料で3Dプリントで直接パーツを作製する方法についても説明します。

従来の手法と3Dプリントを組み合わせて炭素繊維パーツを作製する

炭素繊維は、炭素繊維の長い撚り糸を織り合わせたものをポリマーで複合化させて生産される、以前からある複合材料です。この撚り糸の織り方によって一定方向での強度が決まり、最終製品の段階で全方向での強度を実現することが可能です。炭素繊維を織り上げたものを最終製品に加工するのですが、加工は基本的に、ウェットレイアップ、プリプレグラミネーション、レジントランスファー成形 (RTM) の3つの方法で行います。

ウェットレイアップ

ウェットレイアップ法では、炭素繊維のシートをカットして型に押し当てた上から液体樹脂を塗布します。液体樹脂が硬化、固化して炭素繊維シートと結合したものを、意図した最終形状に成形します。この手法は、必要な設備の数が最も少なく済むため、初心者にもマスターしやすい方法です。ほとんどの工程を手作業で行えるため、最も安価な手法の一つではありますが、ほかの手法で作製したものに比べて、この方式で完成したパーツは マスター型に忠実な寸法の再現が難しいというデメリットがあります。

プリプレグ積層

この方式では、あらかじめ樹脂に浸漬した炭素繊維を型に入れ、圧力と熱を与えて最終形状に成形します。あらかじめ樹脂を浸透させた炭素繊維シートを保管、処理するための専用装置や、予熱および加圧機能を備えた成形機が必要なため、この手法は最も高コストです。ただし、専用装置は繰り返し安定した生産が可能でもあるので、炭素繊維パーツのバッチ生産には最適です。

レジントランスファーモールド (RTM)

RTM成形では、乾燥状態の炭素繊維を2つの成形型で構成する金型に入れます。 金型を閉じ、高圧をかけてレジンをキャビティに押し当てます。基本的に自動プロセスであり、大量生産に使用します。

3Dプリントした型を使用した炭素繊維パーツの生産

先に説明した3つの方法それぞれにおいて、3Dプリントを活用してコストを低減し、リードタイムを短縮することが可能です。これら3つの従来からある生産方法には、1個または複数個の成形型が必要で、この型の製作には時間を要する木、フォーム、金属、プラスチック、ワックスを切削加工するサブトラクティブ法が用いられてきました。3Dプリントは、このように型材料を切削して型を作る従来の方法に代わる方法として、小量生産やカスタマイズに適した、より高効率かつコスト効率に優れた方法です。

オートモーティブ業界や航空宇宙業界のように機能試作が必要な業界では、設計の検証や修正用に数百種類もの型が必要になることもあります。この大量の型を従来手法で作製するにはコストも時間も要するため、このような用途には、小量の型を効率よく作製可能な3Dプリントが推奨されます。3Dプリントによる型は量産向けの金属製の型には向きませんが、社内で短時間かつ安価に型を作製し製品開発時間や設計検証時間を短縮できるという利点があり、また、小量生産にも向いています。 

炭素繊維パーツ用の型の生産手法は複数ありますが、社内で型を生産する用途では、仕上がり面が滑らかで選択可能な材料も豊富な、光造形 (SLA) 方式の3Dプリンタが一般的です。SLA方式で作製したパーツは基本的に、積層痕や空孔が残らないため、表面が荒れる心配なく炭素繊維シートをしっかり型に押し当てることが可能です。 

レーシングカーやスポーツカーを製造しているPanozでは、レーシングカーのキャビン内の空気を排気して内部の温度を下げる用途でコックピットに搭載する、特注エアエグジットダクトパーツを必要としていました。PanozはDeltaWing Manufacturingの協力を得て、FormlabsのSLA方式3Dプリンタを使用してHigh Tempレジンでパターンをプリントし、このパターンの上に手作業で耐熱エポキシ樹脂を流し込んで成形型を作製するという方法を採用。3Dプリントの活用により、DeltaWingは炭素繊維パーツのカスタム生産に必要な高価な金属型の外注を回避し、全体コストの低減と短納期を実現しました。

High Tempレジンを使ってプリントした分割構造の金型。隣の炭素繊維製フェンダーエアダクトはDeltaWing Manufacturingが製造。

High Tempレジンを使ってプリントした分割構造の金型。隣の炭素繊維製フェンダーエアダクトはDeltaWing Manufacturingが製造。

carbon fiber part manufacturing
White Paper

3Dプリントした成形型を使用した炭素繊維パーツの作製

複合材での金型製作時の設計ガイドラインや、炭素繊維部品製作時のプリプレグや手作業でのレイアップ成形を手順ごとに解説した資料をお求めの方は、こちらのホワイトペーパーをご覧ください。

※本ホワイトペーパーは現在翻訳中です。近日のアップデートをお待ちください。内容の詳細は[email protected]までお問合せください。

ホワイトペーパーのダウンロード(英語)

炭素繊維のダイレクト3Dプリント

用途に最も適した、炭素繊維 3Dプリンタをお探しですか?従来からの強度、耐久性、堅牢性を備えた炭素繊維パーツと、3Dプリントの短納期、形状の自由度、再現性を組み合わせたワークフローには大きな需要があります。したがって、炭素繊維3Dプリントを提供している3Dプリント業者が多数存在することにもうなずけます。業者では、短繊維と長繊維を使用した炭素繊維プリントを提供しています。

炭素短繊維3Dプリント

短繊維とは、炭素繊維に3Dプリント用の複合樹脂材料を含浸したものを短くカットしたもの指します。短繊維は複合材料の強度を上げるために使用されるもので、熱溶解積層 (FDM) 方式用の炭素繊維フィラメントや、粉末焼結積層造形 (SLS) 方式3Dプリンタ用のナイロンパウダー等がこれに相当します。 

短繊維で強化した材料で3Dプリントした造形物は、ほかのポリマーベースの3Dプリント造形物よりも強度、軽量、耐熱性、および耐クリープ性に優れています。従来どおりの炭素繊維成形法で作製したパーツと比較した場合、3Dプリントした短繊維材料パーツは、パーツ設計における幾何形状の設計自由度に優れており、特にSLS方式の3Dプリントを使用した場合には、従来の金型作製に要した多大な労力が不要になり、また、短繊維材料をワークフローに採り入れることによって新たなイノベーションが生まれる可能性もあります。

FormlabsのFuse 1+ 30W SLS 方式3Dプリンタでは、FormlabsのSLS方式用材料ライブラリで最強の材料であるNylon 11 CFパウダーを使用して、この種の炭素繊維3Dプリントを実行することが可能です。Fuse 1+ 30Wは短繊維の3Dプリントに対応し、優れた各種機能を搭載し価格的に最も購入しやすいSLS方式プリンタです。 従来の産業用SLS方式プリンタの中にも炭素繊維材料に対応したものはありましたが、これまで、レジントランスファーモールド (RTM) やプリプレグ積層と比較した場合の導入時の初期費用の高さによって、炭素繊維パーツの3Dプリント機能を搭載しているというメリットが打ち消されてしまっていました。

carbon fiber 3D printed intake manifold
carbon fiber 3D printed gears
carbon fiber 3D printed stem
carbon fiber 3D printed tool

Formlabs Nylon 11 CFパウダーは堅牢で軽量、耐熱性を備え、オートモーティブや航空宇宙、マニュファクチャリングの分野のアプリケーションに理想的です。

Nylon 11 CF 3d printed sample part
Sample part

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多くのFDM方式3Dプリンタが、炭素繊維を配合したフィラメントに対応していますが、炭素繊維材料でのプリントは標準的なABSやPLAフィラメントよりも複雑で、詰まりが生じることも多く、さらにフィラメントが真鍮製のノズルを摩耗させるためメンテナンスも頻繁に必要になります。FDM方式の3Dプリンタで、炭素短繊維フィラメント専用機種もありますが、価格帯は高くなっています。

SLSおよびFDM方式で炭素短繊維を3Dプリントしたパーツの難しいところは、長繊維を織った従来の炭素繊維パーツの純粋な代用としてではなく、強度を備えたまた別の3Dプリントパーツとして理解しなければならない点です。また、3Dプリント中の積層方向への強度が最も高くなります。SLS造形パーツではX方向、FDM造形パーツではXY方向です。従来の方法で炭素繊維パーツを作製した場合は、成形前の段階で複数のカーボンファイバーシートを型に慎重にセットアップすることで、多方向に強度が与えられます。

炭素長繊維3Dプリント

炭素長繊維を使用した3Dプリントには、一部の専用FDM方式3Dプリンタが対応しており、強度の点では従来の炭素繊維パーツに近い性能を実現できますが、短繊維対応のFDM方式プリンタと同じく、強度方向はXY平面のみです。炭素長繊維対応のプリンタでは、連続した炭素繊維と熱可塑性樹脂を混合しますが、カーボンファイバーの積層方向を考慮することで、特定の面を強化したり圧力軸を設定したりといった操作が可能です。この方式のプリンタのノズルは、デュアルノズルを搭載して炭素繊維の糸とポリマーを吐出して混合する構成、もしくは、カーボンファイバーの糸を吐出するノズル1個と加熱したフィラメントを吐出するノズル1個が一体化した構成になっています。 

炭素長繊維の3Dプリントは、型で成形する従来の炭素繊維パーツの代用となりますが、設計の自由度は下がります。強度は格段に高くなりますが、この強度が達成されるのはXY面に限られるため、強度が必要な方向に合わせてプリントを実行する必要があります。このような特性が適合する設計であれば、アルミニウム製パーツと置き換えることも可能で、頑丈な生産用の治具やエンドユースパーツの作製も可能です。

比較: 従来の炭素繊維の加工法と、炭素繊維3Dプリントのワークフロー

ウェットレイアップ (湿式成形)プリプレグ積層レジントランスファーモールド短繊維FDM方式3Dプリント短繊維SLS方式3Dプリント長繊維FDM方式3Dプリント
メーカー&モデル多数多数多数Markforged Onyx, Markforged X3Formlabs Fuse 1+ 30WMarkforged Mark Two, Desktop Metal Fiber, Markforged X7
精度★★★☆☆★★★★★★★★★★★★★☆☆★★★★★★★★☆☆
表面の仕上がり★★★☆☆★★★★★★★★★★★★★☆☆★★★★☆★★★☆☆
設計の自由度★★★☆☆★★★☆☆★★★☆☆★★★★☆★★★★★★★★★☆
軽量★★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆★★★★☆★★★★☆
強度★★★★★★★★★★★★★★★★★★☆☆★★★☆☆★★★★★
強度方向XYZXYZXYZXYX(Y)XY
スループット★☆☆☆☆★★★☆☆★★★★★★★★☆☆★★★★☆★★★☆☆
設備コスト (詳細)100ドル~広範3000ドル~広範$10万ドル以上デスクトップタイプは5千ドル~、産業用は4万ドル~産業用一式 $39,243~デスクトップタイプは2万ドル~、産業用は7万ドル~
パーツあたりコスト$$$$$$$$$$$$$$$$$$
用途高性能カスタム製品、操作手順はエントリーレベル小~中量生産大量生産迅速な設計検証、強度を備えた3Dプリントパーツ迅速な設計検証、複雑形状、強度を備えた3Dプリントパーツの小量バッチ生産迅速な設計検証、従来の炭素繊維複合材料と同等の強度を備えた3Dプリントパーツ (XY方向)
メリット高強度 設備コスト低高強度高強度 精密、再現性 自動化可廉価精度と再現性 設計の自由度 金型不要高強度 金型不要
短所作業負荷が高い 高品質の維持が難しい作業負荷が高い金型や装置が高額異方性と強度 低強度 プリントが難しい異方性と強度 低強度異方性と強度

3Dプリントした炭素繊維の強度はどの程度?

3Dプリントしたカーボンファイバー複合材料の機械的特性は、強度と耐熱性の点で、3Dプリントしたほとんどすべての樹脂材料を上回ります。それでは、短繊維と連続ファイバー、そして参考用に一般的な材料の3Dプリントとを比較してみましょう。

製造工程SLS - 短繊維FDM - 短繊維FDM - 連続ファイバーFDM - 連続ファイバー射出成形キャスティングまたは切削
材料Formlabs Nylon 11 CFパウダー炭素繊維充填ナイロンフィラメントNylon 6フィラメント + 炭素繊維PEEKフィラメント + 炭素繊維ABSアルミニウム
引張弾性率(GPa)1.6 - 5.32.460 - 1001452.370
極限引張強度 (MPa)38 - 6940800 - 1000240039310
曲げ弾性率(GPa)4.23.051 - 711242.470
曲げ強さ (MPa)11071540 - 800130074310
破断伸び5 - 15%25%1.5%N/A6 - 15%N/A
ノッチ付アイゾット(J/m)74330960N/A200N/A
荷重たわみ温度@0.45MPa(℃)188145105N/A70 - 107N/A

炭素繊維3Dプリントパーツの用途

高強度、軽量、そして衝撃や熱、薬液への優れた耐性を備えた炭素繊維を3Dプリントしたパーツは、3Dプリントの使用を考えてもみなかったような用途も含めて、多種多様なアプリケーションに適します。  樹脂と炭素繊維の複合材を3Dプリントしたパーツは、自動車や宇宙機のエンジンコンポーネントで生じる高熱にも耐え、アルミの切削加工パーツや生産用治具の代用として長使用寿命で強い衝撃を受ける設備装置の生産用途での使用も可能です。

Carbon fiber 3D printed parts

炭素繊維を3Dプリントしたパーツは、治具や固定具、複雑形状の高強度エンドユースパーツの小量生産のような、耐摩耗性と耐久性を備えた生産用治工具ラピッドプロトタイピングに適しています。

3Dプリントテクノロジーは、設計や生産の分野で新たな可能性を提示してくれるものですが、3Dプリントした炭素繊維複合材料はこの可能性をさらに広げ、オートモーティブや航空宇宙、防衛、製造の各業界においては、高強度で耐熱性を備え設計自由度の高いパーツの短時間かつ効率的な生産を実現します。従来の切削加工や金型作製プロセスをスキップして、これまでより遥かに容易に、カスタムパーツや交換部品、機能試作を作製することが可能になるのです。強度が付加されるのは特定の面に限られるため、従来手法と完全に置き換わるものではありませんが、3Dプリントした炭素繊維パーツはほとんどすべての樹脂パーツよりも強度が高く、多くのアプリケーションへの応用のしやすさでは唯一の素材であると言えるでしょう。 

炭素繊維パーツの適正な生産手順については、そのパーツの用途に加えてパーツの設計、生産数量その他の要素によって、型で成形するかダイレクト3Dプリントするか等、手順は厳密に異なります。短繊維を使用したSLS方式3Dプリントは、頑強なパーツを作りたいメーカーにとって最適な手法ですが、従来手法である型を使用して成形した炭素繊維パーツ ほどの強度には届きません。 

Formlabs Fuse 1+ 30WNylon 11 CFパウダーで造形する方法であれば、コストを抑え、かつ厳しい設計開発スケジュールに遅れることなく、従来の樹脂パーツと同等の強度と最先端の機械的特性を備えたエンドユースパーツの生産が可能です。このパーツ造形方法は、繰り返し行う機能試験とこれに基づいた設計変更にもCADの修正機能一つで対応できるため、最終製品の性能向上や市販までの時間短縮にも貢献します。 

SLS方式3Dプリントで炭素繊維短繊維を造形したパーツを直にご確認いただける、無料サンプルのご依頼、またはプリンタ選定等に関するご相談につきましては、弊社担当者までお問い合わせください。