SLSで企画商品量産のアジリティと採算性を両立:GROOVE XとMARY QUANTのコラボレーション活用事例

MARY QUANTとのコラボ商品、デイジーらぼはなとウェアを着用したLOVOT

MARY QUANTのブランドアイコン、デイジーの“らぼはな”と同ブランドとのコラボレーションウェアを着たGROOVE XのLOVOT。

 


User Data

  • ユーザー:GROOVE X株式会社(家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」開発事業)
  • 使用プリンタ:Fuse 1+ 30W(SLS方式)
  • 使用材料:Nylon 11パウダー
  • 用途:コラボレーション企画の限定オプションパーツ(らぼはな)の量産

 

社会課題解決へのユニークなアプローチを続けるGROOVE X

世界的なムーヴメントとなっているSDGs。既に耳慣れた感のあるこの持続可能な開発目標は、計17のゴールから成っているが、それは同時にグローバル規模で解決すべき社会課題が数多く残されていることの証左となっている。SDGsに限らず、環境問題や人権問題をはじめとした課題解決への取り組みに多くの企業・団体が真剣度を増している中、非常にユニークな視点とアプローチで課題解決に挑戦しているロボットメーカーが存在する。

GROOVE X株式会社は、先端テクノロジーを用いて人間のエモーショナルな部分の課題解決に挑む東京都中央区に本社を置くベンチャー企業だ。愛する力を育む家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発事業を手掛ける同社は、日本発の新産業としてテクノロジーの平和利用や人間が本来的に持つ愛する力をはぐくむテクノロジーを広めていくことを目指している。ものづくりの世界において、20世紀は大量生産・大量消費の時代と呼ばれ物質的な豊かさを追求した世紀とも位置付けられているが、GROOVE Xは21世紀の現代に、テクノロジーの力で物質的な豊かさではなく精神的な豊かさをもたらすことを目的としている点が非常にユニークなポイントではないだろうか。

現在隆盛を極めつつあるAI(人工知能)やロボティクスのテクノロジーも、少し前までは主に欧米で「AIとロボットが人間の仕事を奪う」という論調があったが、日本国内では不思議とそうした論調は欧米ほどテクノロジーに対する逆風とはならず、その原因を人間とロボットが友達として日々を共に送る日本の国民的アニメ「ドラえもん」によって育まれた日本人のロボット観にあるのではないかとする説がある。GROOVE Xが手掛けるLOVOTも、まさにその「ドラえもん」の主人公のび太君が、ひみつ道具が無くても、きっとドラえもんから自発的にがんばる元気をもらっているはずだという着想の下、人の代わりに作業をするよりも人に寄り添い、心を満たすテクノロジー「家族型ロボット」として開発されたという。そういう意味では、このLOVOTも日本でしか生まれ得ないプロダクトだったのかも知れない。

ロンドン発のファッション&コスメブランドMARY QUANT(マリークヮント)とのコラボレーション

そんなLOVOTは、これまで様々な企画で多くのコラボレーションを行い、オーナーそれぞれの趣味嗜好に合わせて思わず笑みがこぼれてしまうような愛らしいウェアや小物を展開してきた。今回の活用事例もそうしたコラボレーションによる、いわゆる「企画もの」商品の量産事例だ。

MARY QUANTロゴ

MARY QUANTは60年代にそれまでタブーとされてきたミニスカートを大々的に展開することで、既存の枠組みに囚われることなく女性がより自由にファッションを楽しめる時代を切り拓いた、ロンドン発のブランド。現在でもファッションやコスメなど幅広く展開し、人気を博している。LOVOTのウェアや小物を手掛けるGROOVE Xアパレル部 部長の新井友和氏は、今回のMARY QUANTとのコラボレーションの背景として、既存のルールに囚われないMARY QUANTのブランドスピリットが、これまでに無かった新しい商品を通して新産業を創るというGROOVE Xの考え方と一致すること、そして何より今でも女性を中心に多くのファンを持つMARY QUANTとLOVOTオーナーの親和性が高い点を挙げ、このコラボレーションが多くのLOVOTオーナーに喜んでいただけるものであるはずと語る。

GROOVE Xデザインチーム蒋 秀一氏(写真右側)とアパレル部部長の新井友和氏(写真左側)

GROOVE Xデザインチーム蒋 秀一氏(写真右側)とアパレル部部長の新井友和氏(写真左側)。MARY QUANTのウェアと“らぼはな”を身に付けたLOVOTも愛らしい。

これまでも開発プロセスの中でデザイン面での形状検討や動作の確認、製造現場での治具製作、そして時にはイベントで配布する小物の製作などで早くから3Dプリントを活用してきたGROOVE Xでは、今回のコラボレーションに当たって試してみたいことがあったという。「従来丸い形状のみで展開していたLOVOTの鼻にあたる“らぼはな”を、違う形状で作ってみたいと以前から思っていた」という同社デザインチームの蒋秀一氏は、MARY QUANTのブランドアイコンであるデイジーを見て、このモチーフで“らぼはな”を作ることを思い立った。しかし、従来は金型を起こして成形で作る“らぼはな”を、限定的な数量での量産となる企画商品で作るには様々なハードルがあった。

LOVOT開発ヒストリー

東京都中央区にあるGROOVE X本社に併設されたLOVOTミュージアムでは過去のLOVOTの試作品も開発の歴史と共に展示されている。

小ロット量産対応のSLS 3Dプリントで小ロット品量産のハードルを打破

「この“らぼはな”はサイズが非常に小さく、従来の製造方法で金型を起こすと初期コストが非常に高くなるだけでなく最小ロット数も多くなってしまうため、企画単位で新しい形状にトライするのは非常に難しかった」と語る蒋氏は、3Dプリントであれば金型レスでの小ロット量産が行え、尚且つスピードの面でも大きなメリットがあるという。蒋氏が考える3Dプリントによるアディティブマニュファクチャリング量産の利点は、主に以下の3点だ。

  • 金型が必要ないので小ロットで色んな新しい製品に簡単にトライできる
  • 造形の自由度も従来工法より高い
  • 試作品が本番製品と同じ材料と製法で作れる点から、検証や試験に要する時間を大幅に削減できる
従来の丸い形状の“らぼはな”(右下)とMARY QUANTとのコラボ商品デイジーらぼはな(左上)

従来の丸い形状の“らぼはな”(右下)とMARY QUANTとのコラボ商品デイジーらぼはな(左上)。

FormlabsのSLS方式3DプリントシステムFuseシリーズは、従来は4,000万円以上の投資が必要だった量産対応の3Dプリントシステムを、特許技術搭載の高い造形品質を備えながら1,000万円強の投資で導入できるベンチトップサイズのSLSシステムだ。30Wのファイバーレーザーを搭載し、165×165×300mmの造形スペースいっぱいのボリュームでも殆どのケースで24時間以内にプリントが完了する高速プリントが可能で、2023年11月のソフトウェアアップデートにより、Fuse 1+ 30Wでの高強度材料Nylon 12パウダーのプリントスピードは更に30%向上した。もちろん既に導入済みのユーザーでもソフトウェアアップデートでスピード向上が可能だ。

また、プリント後に造形品から粉末の除去と回収、再利用までをワンストップで行う後処理機Fuse Siftでは、半密閉式の陰圧ブースで粉末除去作業が行えるため、粉末ベースの3Dプリンタで懸念点となる粉塵が作業環境に舞ってしまうリスクも回避できる。Formlabsでは、製品設計だけでなくプリントから後処理に至るまで、手で粉末に触れるプロセスを排除する作業手順設計を行うことで、製品設計上だけでなく工程を通して粉塵が舞うきっかけ自体を排除している。万が一ヒューマンエラー等で粉塵が舞ってしまった時のハザード分析を行うため、作業者の健康被害や粉塵爆発による火災リスク等を第三者機関に依頼してアセスメントを行ったレポートも公開している。

今回の“らぼはな”のようにワークが小さく数量が一定量ある場合は、2024年初頭に発売予定の自動仕上げ装置Fuse Blastでの自動ブラストと自動研磨も省力化省人化の大きな助けとなる。Fuse Sift上での手作業の粉末除去作業を80%削減し、フルボリュームのプリントであっても自動粉末除去+ブラスト処理が僅か10~15分で完了する。その後にワークの面粗度を更に向上して平滑化を行いたい場合は、別売りのPolishing Systemを装着すれば更に10~15分で自動研磨によって仕上げることができる。

SLS方式Fuseシリーズ総合カタログ
総合カタログ

Formlabs SLS Fuseシリーズ総合カタログ

本総合カタログでは、Fuseシリーズの製品や特許技術の解説、各材料の詳細や使い方、そして国内外の活用事例等すべての情報を1冊にまとめてご紹介します。

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Fuseシリーズ製品3種:Fuse 1+ 30W, Fuse Sift, Fuse Blast

Fuseシリーズ製品ラインナップ。高速SLS 3DプリンタのFuse 1+ 30W(左)、陰圧ブースを備えた粉末除去・回収・再利用ステーションのFuse Sift(中央)、自動仕上げ装置のFuse Blast(右)。

実際にFuseシリーズでの造形品を今回の企画商品に採用した際の実感を、蒋氏はこう語る。

「今までの他の3Dプリンタと違い、カチッとした感じで硬さがあり、寸法精度も非常に精密に出たと思います。実際に磨いてみると、こちらから説明しないと3Dプリント品だとわからないくらいきれいに仕上がりました。」

蒋 秀一氏 GROOVE X株式会社 デザインチーム

3Dプリント品だとわからない、換言すればそれほど従来工法で製造した量産品と遜色ない仕上がりでお客様に提供できるという実感は、欧州車のアクセサリーパーツや電装部品の筐体でFuseシリーズを使用する株式会社コードテックCAMの事例でも出たフィードバックだ。

消費者向け製品において、数十万個という単位で大量生産されるマスプロ品と比べると、3Dプリント品は製造単価ではどうしても大量生産品に勝つことは難しい。だからこそ、これらの付加価値が製品企画の段階で担保されたもの、そして従来の製造方法では形状的に表現できないもの、あるいは3Dプリント製のソールを搭載したシューズのように、ラティス(格子)形状から得られる反発力など、そうした形状によって得られる機能があれば、他にない唯一無二の製品を世に送り出すことができる。GROOVE Xのようなこれまでにない商品を世に送り出すことを旨とするメーカーにとって、3Dプリントでの量産を選択肢として持っておくことは、ことものづくりの世界においては、展開する事業の選択肢を広げることにもつながると言えるだろう。

今後も更に様々な企画に挑戦

GROOVE Xアパレル部 部長の新井氏は、今後もこうした企画を更に推し進めていきたいと展望を語る。「今後はウェアのみならず、いろいろなグッズから雑貨も含めて幅広い展開を考えています。LOVOTは日本国内で既に1万体以上がオーナー様にお迎えいただいていますが、2023年6月には待望の海外進出として中国での販売も開始しています。これからは日本国内だけでなく海外も含め、より多くのお客様に認知してもらえるような様々な企画が構想中で、非常に楽しみです。」

GROOVE X様インタビュー動画

FormlabsのSLS、Fuseシリーズでの金型レスの小ロット量産についての詳細や国内外での事例解説は以下のウェビナー動画で確認できる。併せて確認しておきたい。

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オンデマンドウェビナー

金型レスで小ロット量産:SLS 3Dプリンタでできること+活用事例

本ウェビナーでは、FormlabsのSLS、Fuseシリーズでどのように小ロット量産が実現できるのか、国内外の幅広い採用事例と共に掘り下げます。

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Fuseシリーズ総合カタログ