3Dプリントを活用したマイクロ/ミリ流路、ラボオンチップ製作の総合ガイド

マイクロ流路は、世界で最も先進的な科学工学技術の一つとしてバイオディフェンス、化学工学、医療検査など、最先端の開発で大きな役割を果たしています。

本ガイドでは、マイクロ流路が科学者の新しい発見にどのように役立っているのか、そして独自のマイクロ流路チップ製作を開始する方法を解説します。

マイクロ流路とは

マイクロ流路とは、通常、直径100μm以下の微小流路のネットワークに幾何学的に制約された流路を精密に制御・操作する科学のことです。

この用語の意味するところは、相手が科学者かエンジニアかによって違います。教育現場では多くの場合、マイクロ流路は、直径100μm〜1μmの流路を通る微量の液体やその操作方法について科学的に研究する「マイクロ流路工学」という学問と捉えられています。

一方、エンジニアの間では、直径100μm〜1μmの流路で液体の動きを誘導する部品(チップと呼ばれることが多い)の製造を意味するエンジニアリング用語として一般的に認識されています。

マイクロ流路が重要視される理由

マイクロ流路とは基本的に、数十マイクロメートルの程度の流路で微量な液体を取り扱う技術のことです。参考までに、マイクロメートルというのは、1メートルの100万分の1を示す単位です。人間の髪の毛の1本の直径は、およそ100μmです。

このような極小スケールで流路の動きを制御できるようになると、数多くの恩恵が得られます。ペトリ皿やスポイトを使った従来の検査方法に比べ、マイクロ流路検査ではサンプルサイズを極小にできるため、高価な化学薬品や試薬の使用量を大幅に減らすことができます。また、マイクロ流路を使った実験も、有害物質の制御や封じ込めがしやすくなるため、より安全に実施できるケースが多いです。

モノの規模感を示す比較例ならびにナノ、マイクロとミリ単位で表す流路の境界線(元データ)。
 

マイクロ流路について研究している科学者であれば、特に流路の混合方法や流路同士の相互作用について、より高度な制御を行う技術を持っています。その技術を使って、流路をゆっくり拡散させたり、横に並べて流したり、微小な液滴に分離したりすることができます。彼らはこの分野を専門とするエンジニアたちも含め、電荷、シリンジポンプ、さらには音響を使って、微小流路

に液体を押し込むこともできます。

このようにコストメリットや高度な制御技術がもたらす恩恵が大きいマイクロ流路は、薬学やバイオテクノロジーの分野で先進的な研究を続けている専門家たちの間で、急速に関心が高まっています。マイクロ流路は、患者のウイルス検査や土壌中の有害化学物質の検出をより迅速かつ安価に行う画期的な方法の開発に応用されており、このイノベーションをさらに進化させていけば、いつの日か動物実験が必要なくなるかもしれません。

ミリ流路とマイクロ流路の違い

ミリ流路とは、1ミリメートルの流路で液体を操作・観察する技術のことです。また、ミリ流路はマイクロ流路よりも多くの液体を使用しますが、それでも従来の検査方法で使用する量に比べれば、ごくわずかです。

プロジェクトの要求事項にもよりますが、ミリ流路の流路では、マイクロ流路の液体と同等レベルの液体混合を実現できることが多いです。マイクロ流路チップで得られるメリットの多くは、ミリ流路チップでも得られます。さらにミリ流路チップの方が製造が容易な場合が多く、より低コストで完成させることができます。

技術資料

ミリ流路を机上で製作可能にするSLA光造形3Dプリント

この技術資料では、SLA光造形方式3Dプリントを用いたミリ流路形状の実装と、ミリ流路チップを内製するためのベストプラクティスについて詳しく説明します。

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マイクロ流路とミリ流路の用途

マイクロ流路とミリ流路の用途は、一般的な医療検査の簡素化から画期的な研究プロジェクトまで、多岐にわたります。マイクロ流路とミリ流路は、次に挙げる通り幅広い分野で活用されており、その可能性をさらに追及していけば、素晴らしい未来が切り拓かれていくと大いに期待されています。

バイオテクノロジー

再生医療では、長年にわたり幹細胞研究が注目されています。中でも、幹細胞が分裂して他の種類の分化した細胞になる能力を持つことが大きく注目される点です。例えば、医師が幹細胞を筋肉組織に注入すると、幹細胞は分化して筋肉細胞になり、損傷した組織の修復や再生に役立ちます。

胚性幹細胞を試験管内(体外)で培養し、発育させることは、幹細胞研究者にとって最大の課題の一つです。これは、生体内(体内)で作られるモルフォゲンやシグナル伝達がないためです。モルフォゲンは、胚発生のオーケストラの指揮者のようなもので、胚細胞の発生を促進する重要な役割を担っています。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校の科学者たちは最近、このモルフォゲンの課題を克服する方法を発見しました。Matthias Lütolf博士の研究チームは、体外で慎重に制御したレジメンをマイクロ流路細胞培養装置を挿入し、その中で胚性幹細胞の発生過程である「胚形成」(これは人間の場合、妊娠3週目頃に起こる現象)を再現しました。

EPFLの科学者が開発したポリジメチルシロキサン(PDMS)ベースのマイクロ流路細胞培養装置(元データ)。

これは、実験室で臓器を培養する可能性を広げる重要な一歩となりました。Lütolf博士は、Genetic Engineering & Biotechnology News紙とのインタビューで、「我々の長期的な目標の一つは、移植用の臓器を操作できるようになること」だと説明しています。

薬事工学

Lütolf博士と彼のチームが使用するマイクロ流路デバイスのような3次元細胞培養は、バイオテクノロジーだけでなく、薬学工学にも大きな変革をもたらす可能性があります。実際、3次元細胞培養によって、動物実験が完全に廃止される日が来るかもしれません。

薬物検査は通常、体外での培養、つまり2次元検査から始まります。これらの試験で有望な結果が得られた場合、次のステップは通常、動物モデルで薬を試験することになります。その理由は、ヒトの臨床試験に移行する前に、科学者がヒトの体内で起こることを再現するのに一番近かったのが動物実験だったからです。

3次元細胞培養は、医薬品の試験や工学において有望な新領域を提供します。このような培養により、体外にある見やすい装置で、より体内同様に細胞を発達させることができます。試験は慎重に管理することができ、動物実験よりも正確な結果が得られる場合もあります。

ヴィース研究所の研究者たちは、ヒトの「臓器オンチップ」を開発しました。この臓器オンチップは、コンピュータのサムドライブとほぼ同じサイズの装置で、細菌、ウイルスや治療が体外組織に及ぼす影響を研究することを可能にします。

動物実験がなくなるまでには、更なる研究開発が必要ですが、3次元細胞培養は、正に製薬・生物工学の新しい未来と言えるかもしれません。

患者検査と診断

そう遠くない将来、マイクロ流路は患者さんの検査を根本的に変えるかもしれません。診断検査に必要な血液や組織の量が少なくて済むため、患者さんの負担が軽減される可能性があります。また、遺伝子検査もより身近になるかもしれません。

特に、研究所での検査が困難な地域の患者にとっては、ワシントン大学のPaul Yager生物工学教授が開発中のようなラボオンチップ装置が、マラリアなどの病気を安価に診断する方法となる可能性があります。

一方、シンシナティ大学のJason Heikenfeld教授は、研究チームを率いて、完全に非侵襲的なマイクロ流路による汗分析テストを開発しており、特定のケースでは採血の必要性をなくすことができるかもしれないと考えています。また、Heikenfeld教授のプロトタイプは、スマートフォンからでも電源を供給することができます。

バイオディフェンス

最前線の研究者にとって、生物・化学兵器の検出は生死を分けるほどの重大な問題です。そのため、国防高等研究計画局(DARPA)は、長年にわたってマイクロ流路研究に資金を提供してきました。

バークレー研究所のFrantisek SvecとJean Fréchetの両氏が行った研究開発により、化学兵器の真の脅威を簡単に検出できるようになるかもしれません。SvecとFréchet両氏は現在、化学物質、微生物、毒物、汚染物質が希釈されていても現場で検査できるプラスチック製のマイクロ流路チップの完成を目指して研究を続けています。

これまで大がかりな装置が必要だった検査が、簡単な土や空気のサンプルから行えるようになるかもしれません。Svec氏が言うように、「サンプルからラボへではなく、ラボからサンプルへ」だったのです。

化学工業

マイクロ流路工学の応用方法は、ほとんどのものがそうであるように、技術を使う人間のニーズによって開発されていきます。マイクロ流路工学に関わる研究の多くは、生活の質の向上や社会全体の改善に焦点を当てていますが、より悪質な目的にも使用される可能性があることも認識しておく必要があります。

マイクロ流路工学は生物防御能力を推進するものですが、生物・化学兵器の開発に利用される可能性が常にあります。米国海軍研究所などの国防機関が発表した研究では、一部の国が他国に知られずにマイクロ流路(規模が小さいため隠しやすい)を使って兵器を開発する可能性が指摘されています。

マイクロ流路チップの作り方

マイクロ流路工学プロジェクトでは、カスタム設計されたチップが必要です。また、そのチップは、それを構成する複雑な部品を正確に製造できる高度な技術を使用して、オンデマンドで製造する必要があります。マイクロ流路工学の分野が急速に発展するにつれ、マイクロ流路チップの製造方法にも変化が生じています。

マイクロ流路チップは、一般的にガラス、シリコン、プラスチックで作られています(紙など他の材料で作られることもあります)。以下で、マイクロ流路チップやミリ流路チップの一般的な製造方法を簡単に紹介します。5通りあります:ここで重要なのは、多くの技術者や製造会社が、チップの設計や製造に、複数の方法を組み合わせていることです。

多くのエンジニア、科学者やデザイナーは、より自由で迅速なプロトタイピングを可能にするために、それぞれの研究室にあるプリンタや製造機を使って、チップを内製しています。

光造形

光造形は、マイクロ流路工学で最初に用いられた製造方法の一つであり、現在でも、しばしばウェットエッチングやドライエッチングと組み合わせて使用されている。光造形では、紫外線の力を利用して、お好みのパターンや形状を部品に焼き付けます。

このビデオでは、光造形の工程を説明し、マイクロ流路や微小電気機械システム(MEMS)への応用例を紹介します。

マイクロ熱成形

マイクロ熱成形は、プラスチックと互換性があり、通常の熱成形とよく似た働きをしますが、規模ははるかに小さくなります。薄いプラスチックシートを加熱し、雄型または雌型に巻きつけて成形することで、マイクロ流路膜を形成します。

マイクロ射出成形

マイクロ射出成形は、従来の射出成形を小型化したもので、マイクロモールドと呼ばれることもあります。この製造工程は、同じデザインのチップを何度も使用する必要がある(あるいは一つのデザインを大量に注文する必要がある)研究室に適しています。 

CNC加工

マイクロ流路チップの製造には、マイクロミリングまたはエッチングという方法が一般的です。白紙の状態(一般にウエハーと呼ばれます)から、エッチングで溝を掘り、流路を形成します。デスクトップ型のコンピュータ数値制御(CNC)装置の多くは、マイクロ流路やミリ流路チップを加工できます。

3Dプリント

3Dプリントは、CNC加工やエッチングのような減法的な技術とは本質的に逆の積層造形技術です。減法的な技術では既存のウェハーに流路を掘るのに対し、工業品質3Dプリンタは、マイクロ流路チップを原材料から作り上げます。

SLA光造形方式
技術資料

無償サンプルパーツのお申込

Formlabsの品質を直接見て触ってご確認ください。3Dプリントしたミリ流路のサンプルパーツを無償でお届けします。

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SLA光造形方式
技術資料

デスクトップサイズSLA光造形方式3Dプリンタの概要

高精細3Dモデルを高速製作できる3Dプリンタをお探しですか?こちらの技術資料をダウンロードして、高精細なモデルを製作できる3Dプリント方式としてSLA光造形方式がどれほど広く活用されているかご確認ください。

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流路チップを自社で3Dプリントする理由

アディティブマニュファクチャリング(3Dプリント)は、従来のチップ製造方法と比較して、自社プリントによる大幅なコストと時間の削減、複雑な3次元設計を迅速にテストできるなど、多くのメリットがあります。

コストと時間の節約

まず、最も大きいのは、3Dプリントの内製化に伴うコスト削減です。特注のミリ流路チップを発注すると、通常、法外なコストがかかり、試作品を手にするまでに2カ月も要する場合があります。I代わりに、SLA方式プリンタを使えば、必要な形状を研究室でプリントすることができ、数ヶ月ではなく数時間で完成させることができます。

光造形技術を使ってForm 3で3Dプリントした大型チップ1個の製造コストの内訳は以下の通りです。

造形方式コストリードタイム
SLA光造形3Dプリント$8.553時間56分
リソグラフィー$73.75最長2ヶ月

大型チップ1枚を4時間弱で完成1台のビルドプラットフォームで、このサイズのチップを一度に15個、約24時間で完成できます。

3Dでカスタムデザイン

SLA光造形プリンタを使えば、研究チームは流路チップを迅速にテストすることができ、リアルタイムのフィードバックに基づいて調整することができます。

複雑なデザインも、CADで作成できる範囲に限定されるため、研究室でマイクロ流路チップやミリ流路チップを迅速にテストすることが初めて可能になりました。3Dプリントしたマイクロ流路チップでは、流路は任意の3次元経路を取ることができます。それに比べ、エッチングされたガラスの流路は、2次元の平面と長方形の断面形状に制限されます。特に、異なる流路がどのように液体を混合するかを理解したい学生には有効です。

3D流路は、3Dプリンタで製造可能なミリ流路モデルのユニークで強力な特徴を際立たせます。シャープな3D形状は狭い流路の層流を妨げ、流路がいつ、どのように混ざるかを制御できるようにします。

Formlabsのエンジニアリングチームは、この3D形状の特徴をテストしたいと考え、ねじれた流路を含むユニークな3Dミリ流路形状の設計、造形と試験を実施しました。水道水に溶かした標準的な食用色素を使って、ミキサーのテストを行いました。片方の注射器には黄色、もう片方には青色の液体を入れました。各色の流路をチップに直接プリントされたミキシングポートに注入します。その後、混ぜ合わせた液体を白い面に投影し、均一に混ざっているかどうかを確認します。

Formlabsでは、光学的に透明なレジンのオプションをいくつか用意しています。使える材料の種類が増えれば、それだけ内容が異なるチップ設計や混合特性の提供が可能になるのも、チップを3Dプリントで製作するメリットの一つです。Clearレジン(スタンダード系)はプロトタイピングに最適ですが、 Surgical GuideレジンやHigh Tempレジンも、一般的なミリ流路の用途に必要な特性を提供できるレジンです。

Surgical Guideレジンは、Clearレジンよりも硬質です。凹面の解像に優れ、加圧減菌可能な生体適合性材料です。また、Surgical Guideレジンであれば、積層ピッチ50ミクロンで超精密なチャネル形状を造形できます。これにより、チップや流路の設計をさらに小さくすることができ、真のマイクロ流路チップを3Dプリントできるようになります。

3Dプリントとマイクロ流路で未来を切り開く

一つ確かなことは、マイクロ流路とミリ流路は、これからもワクワクする方向に科学を発展させていく原動力になり続ける、ということです。

3Dプリントで内製化ができれば、マイクロ流路やミリ流路に新たな可能性を切り開くことになります。エンジニアリング用途、高度医療分析や教育機関などで使用される重要なカスタムチップは、手頃な価格の高精細SLA光造形3Dプリンタを使って社内で設計・造形することができます。

それに伴うメリットと課題を十分に理解するには、Formlabsが発行している無料レポートをダウンロードしてご覧ください。