ここ数年で、3Dプリンタはより手頃な価格になるとともに、より使いやすく、より信頼できるものとなりました。その結果、エンターテインメント業界のプロ、ゲームデザイナー、アマチュア愛好家がその技術を利用し、3Dプリントミニチュアを製作するようになりました。
このミニチュアとカスタム3Dフィギュアの3Dプリント総合ガイドでは、リアルなデジタルモデルに生命を吹き込む方法、使用するプロセス、3Dプリントの後処理と塗装方法、ミニチュア用3Dモデルの入手先などを紹介します。また、3Dプリントを用いてデジタルモデルに生命を吹き込んでいる他企業にも注目します。
エンターテインメントとゲームにおける3Dプリント
さまざまな業界で、3Dプリントはカスタムモデルを作成するための有力な技術として台頭し始めています。モデル製作とエンターテインメントの分野では、3Dプリントにより、リアルで詳細、かつユニークで複製可能なフィギュア、ミニチュア、アクションフィギュア、キャラクターモデル、彫刻、撮影用小道具、ストップモーションモデル、アート、装飾などを、持続可能なコストと短い納期で設計できます。
また、3Dプリントは映画やドラマ業界にも変革をもたらしています。マーベル映画のラッセル・ボビット氏や「レイズド・バイ・ウルヴス/神なき惑星」のファーストシーズンとセカンドシーズンを担当したジャコ・スナイマン氏などのプロップマスター、さらには「ストレンジャー・シングズ」の視覚効果(VFX)とデザインを行うスタジオであるAaron Sims Creativeがこの技術を採用しました。 小道具製作の時間を大幅に短縮し、デザイン過程の創造性を引き出せるためです。製作過程がより柔軟で流動的になり、効率的に小道具とモデルを製作できるようになります。
視覚効果(VFX)とデザインを行うスタジオ、Aaron Sims Creativeが「ストレンジャー・シングズ」のデモゴルゴンをデザインする舞台裏を紹介。
「デモゴルゴンは、私たちがごく初期に手がけた造形品です。最初の結果は、まさに驚くべきものでした。ディテールの細かさは、プリンタで作れるとは想像もできないものでした。」
—アーロン・シムズ、Aaron Sims Creative創設者
ゲームシーンでは、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」などの卓上ゲームのオンラインコミュニティが生まれました。ダンジョンズ&ドラゴンズのコミュニティでは、ゲーマーが3Dプリンタを使用して、ダンジョンズ&ドラゴンズの独創的な3Dプリントミニチュア、フィギュア、地形、風景などボードゲーム用アクセサリーを製作しています。
世界的なプレイ&エンターテインメント企業であるハズブロ社も、この技術を用いてHasbro Selfie Seriesのフィギュアを製作しています。これは、3Dプリントを用いて、自分オリジナルのアクションフィギュアを製造するという画期的な試みです。これにより初めて、ファンがスマートデバイスで自分の顔をスキャンし、自分の顔そっくりのカスタムフィギュアが送られてくるというしくみが実現しました。
3Dプリントによるマス・カスタマイゼーションにより、ものづくりのプロからミニチュア製作愛好家まで幅広い人々に、デザインとエンジニアリングの素晴らしいチャンスが提供される。
ミニチュアに最適な3Dプリンタ
あらゆる3Dプリント方式は、アディティブマニュファクチャリングと呼ばれるプロセスを使用しています。3Dプリンタは、CADモデルをもとに、材料の層を積み上げて物理的なパーツを作ることで、3次元パーツを製作します。小道具制作者、ゲームデザイナー、アマチュアの方は、以下の3Dプリント方式を使って、さまざまな小道具、ミニチュア、フィギュアを製作できます。
FDM / FFF方式
FDM熱溶解積層方式は FFF(Fused Filament Fabrication)とも呼ばれ、ホビー向け3Dプリンタの登場により、一般消費者の間で最も広く支持されている3Dプリント方式です。FDM方式の3D造形では、 熱可塑性材料を溶解させ、それをプリンタのノズルから造形エリアに押し出して積層することでパーツを造形していきます。
他の3Dプリントプロセスと比較すると、FDM方式では積層痕が大きくなり目立つため、細部まできめ細やかな仕上がりとはなりません。FDM方式の3Dプリンタは、表面のディテールがあまり重要ではない用途に、3Dプリントミニチュアを安価にすばやく製作するのに適しています。
モデルによっては、FDM方式によるプリントの後処理はサポート材を取り除くだけとなります。しかしながら、FDMプリンタを用いて複雑なフィギュアをプリントするには、追加のサポート構造が必要となります。この構造は取り外すのが難しく、仕上がったミニチュアからサポート痕を取り除くにはサンディングが必要になる場合もあります。
FDMプリンタは最も安価な選択肢です。ホビー向けのデスクトップFDMプリンタは安価なモデルであれば500ドル未満、フィギュアを3DプリントするためのよりプロフェッショナルなFDMプリンタは平均で2,000ドルから4,000ドルのお値段です。
光造形方式
光造形方式の中でも、紫外線レーザーを使用するSLA方式は、市場で最も多用途で精密なデスクトップ3Dプリンタです。SLAプリンタ技術は液層光重合またはレジンプリントを使い、液体レジンをレーザーで硬化させ固体樹脂にします。レジン3Dプリントでは、さまざまな高度な材料を使用し、高い表面品質で細部まで作り込まれたミニチュアやフィギュアを製作できます。
光造形3Dプリンタは高い品質のミニチュア、フィギュア、モデルを製作します。極めて小さな造形品であっても、高いレベルのディテールを実現します。
SLA方式プリンタで製作した3Dプリントしたフィギュアには、標準程度の二次硬化工程が必要となりますが、自動の二次硬化オプションが利用できます。SLA方式プリンタ、特にFormlabs Form 3やForm 3Lなどの低剥離力光造形(LFS: Low Force Stereolithography)プリンタのサポート構造は、簡単に取り外すことができます。
また、SLA方式3Dプリンタでは材料の種類が豊富なため、シリコン成形、ピューター鋳造、ロストワックス鋳造など、従来の3Dプリント以外の用途にも応用できます。
「大型でディテールが細かくないものや、型製作の作業工程の一部にFDM方式3Dプリンタを使用しています最終的なパーツのプリントには、ほとんどの場合はFormlabs [SLA] 3Dプリンタを使用しています。とてもきれいな仕上がりになるからです。」
—ジャコ・スナイマン、Dreamsmith Studio創設者および「レイズド・バイ・ウルヴス/神なき惑星」シリーズ人工装具リードデザイナー
無償サンプルをリクエスト
Whiteレジンは、モデル制作で特に人気のあるレジンです。無料サンプルパーツをご請求のうえ、Whiteレジンの見た目と質感をご確認ください。
SLS(粉末焼結積層造形)方式
粉末焼結積層造形方式(SLS)は高出力のレーザーを使用し、パウダー状のポリマーの粒子を溶融させる方式です。造形中は、未融合のパウダーが造形中のパーツを支える役割を果たすので、専用のサポート構造を設ける必要がありません。そのため、パウダー3Dプリントは、内部の特徴、アンダーカット、薄壁や凹面などを含む入り組んだモデルや複雑な形状を再現したいときの造形手法として適しています。
SLSのパーツの表面は若干きめが粗い状態で造形されますが、積層痕はほとんど目視では確認できません。粉末焼結積層造形用の素材として最も一般的なのがナイロンです。ナイロンは、機能確認用のプロトタイピングとエンドユース用の製品製造の両方に使用できる工業用素材として非常に用途の幅広い熱可塑性プラスチックです。
SLS方式プリンタは産業用機械であるため、以前は最小構成価格が高く、約100,000ドルからと、多くの企業には手が届かないものでした。しかし、Formlabsは先日、このギャップを埋めるためにFormlabs Fuse 1を発表しました。このプリンタは、従来の産業用SLS方式3Dプリンタの数分の一のコストで高い品質を実現する初めての小型産業用SLS方式3Dプリンタで、1,000万円以下でお求めいただけます。
バインダージェット
バインダージェットはSLSプリントと似ていますが、熱ではなく結合材を使用してパウダー状の材料を結合します。モデル制作では、砂岩材料からフルカラー3Dプリントしたフィギュアやミニチュアを作るため、バインダージェットが最も広く利用されています。
SLSと同様、バインダージェットもサポート構造を必要としません。周囲のパウダーがモデルに必要なサポートとなるためです。しかしながら、バインダージェットプリンタで造形されたパーツは非常にもろく、空孔が多くなります。そのため、材料がもろく、後処理の段階でパーツが破損する可能性があり、複雑なデザインには向きません。
バインダージェット3Dプリンタは高額な産業用機械であり、その価格は30,000ドルから100,000ドル以上に及びます。
ミニチュアを3Dプリントするための3Dプリントの比較
熱溶解積層法(FDM) | 光造形(SLA) | 粉末焼結積層造形方式(SLS) | バインダージェット | |
---|---|---|---|---|
精細度 | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
表面仕上げ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ |
複雑な設計 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ |
使いやすさ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ |
最適な用途: | 低コストでディテールの少ないシンプルなモデル | 手頃なコストできめ細かなディテールと高い表面品質を持つミニチュアやフィギュア | 複雑な形状や耐久性のあるエンドユースパーツ | 砂岩からフルカラー3Dプリントしたフィギュア |
コスト | 装置購入費 500ドルから2000ドル | 装置購入費 3,750ドル | 装置購入費 18,500ドル | 装置購入費 60,000ドル |
3Dプリントの造形方式はどう選定する?
3Dプリンタの選び方として正しいステップは、まずは造形方式を決定することです。こちらの選定ガイドとウェビナーをご覧いただくか、以下ボタンより動画資料をご確認ください。
ミニチュアを3Dプリントするためのヒント
ミニチュアのプリントに求められるディテールと精度は、時に困難を伴うものとなります。プリントの工程だけでなく、後処理もミニチュアの最終的な仕上がりに大きく影響します。ここでは、ミニチュアの3Dプリントと準備をより良く行うためのヒントをいくつかご紹介します。
3Dプリントの品質を高める
3Dプリントの品質には大きく2つの要因が影響します。すなわち、積層痕とサポート構造です。
3Dプリントしたフィギュアに使用する層が厚ければ厚いほど、積層痕がより目立つようになります。積層痕が厚いと、平らな平面や斜めの平面に「階段」効果が生じたり、丸い表面が「ピクセル化」したように見えたりします。積層ピッチが小さいほど、表面品質が高くなり、より滑らかな造形品となります。
FDM方式プリントでは層が厚くなりがちで、同じ層の高さでもパーツの造形方法によっては積層痕が目立つようになります。SLA方式プリンタは必要な造形品質に応じて、25ミクロンという非常に薄い積層ピッチを含むさまざまな積層ピッチでプリントできるため、優れたディテールを表現するためには最適な選択肢となります。SLS方式とバインダージェットプリンタは100から110ミクロンの積層ピッチでプリントしますが、 最終的なパーツでは積層痕はほとんど見えません。
FDM方式とSLA方式のプリンタでは、3Dプリントにはプリント工程中にパーツを支えるためのサポート構造が含まれます。ユーザーはこのサポート構造を取り除く必要がありますが、FDM方式の造形品では難しく、SLA方式の造形品では極めて簡単です(パーツの向きによります)。複雑なサポート材の取り外しでは造形品に痕が残り、高品質な仕上がりにはサンディングと研磨が必要となります。
SLA方式3DプリンタForm 3でプリントしたパーツのサポート材の取り外し。
3Dプリントしたミニチュアの後処理
完璧な表面仕上げがなければ、モデルは完成とはなりません。プリント後、下塗りと塗装という後処理を施すことで、ミニチュアはようやく完璧な質感を得るほか、カスタマイズにより真にユニークなものとなります。
塗装のためミニチュアを下準備する
3Dプリントしたフィギュアは、3Dプリントの最終目標に合わせて自由に仕上げることができます。多くのモデルはプリンタから取り出したそのままの状態でも素晴らしいものですが、塗装することでミニチュアはより美しく仕上がります。
塗装する前に、3Dプリントしたフィギュアからサポート構造をすべて取り除き、フィギュアをサンディングしてサポート構造の痕をなくしてください。必要となるサンディングと研磨の量は、対象の表面仕上げに依存します。FDM方式の造形品では、積層痕の「階段」効果を和らげるために、サンディングを多くする必要がある場合がありますが、SLA方式の造形品はすぐに滑らかな表面になるはずです。
3Dミニチュアをサンディングし終えたら、プライマーを塗布することをお勧めします。適切なプライマーを選ぶことで、3Dプリントしたミニチュアにプロレベルの表面仕上げを実現できます。
下塗りにより、3Dプリントしたパーツの塗装が簡単になり、最終的に完璧な表面仕上げを作り出せる理由をご確認ください。
3Dミニチュア用の塗装の種類
3Dプリントしたミニチュアに手で細かな塗装を行うには、アクリル塗料が融通のきく選択肢です。アクリル塗料は通常、樹脂とよく結合しますが、使用する塗料が「樹脂」または「マルチサーフェス」に対応したものであることを必ず確認のうえ、必ず下塗りしてから塗装してください。
スプレーペイントは、適切に塗布すれば、オリジナルのミニチュアに滑らかで、光沢のある、むらのない表面を実現できます。質の良いプライマーを塗布し、厚いアンダーコートでむらのない色つきを確保すれば、スプレーペイントによりプロ並の表面仕上げとなります。必ず、シミになりにくいトップコートで仕上げてください。
ミニチュアをシンプルな3Dプリントから、スプレーペイントでカラフルなモデルに変える方法をご確認ください。
ミニチュアの3Dモデルを入手する
3Dプリントは、常にデジタルモデルから始まります。無料または有料のミニチュアモデルをダウンロードすることや、自分でモデルをデザインすること、さらには既存のオブジェクトをスキャンして3Dファイルにすることもできます。
ダウンロード可能なミニチュアモデルのファイル
3Dを始めたばかりであれば、既存のデザインをダウンロードすると、プリントが簡単になります。ダンジョンズ&ドラゴンズのフィギュアなど、ゲームのミニチュアには巨大なオンラインコミュニティが存在します。Pinshape、MyMiniFactory、Cults、Thingiverseなどのコミュニティをチェックすると、プリントに使える3Dミニチュアモデルのデザインを見つけるのに役立ちます。
3Dプリントミニチュア用のデザインソフト
適切な3Dモデリングソフトを使用すれば、3Dプリントに使用できるオリジナルのミニチュアをデザインするうえで役立ちます。ミニチュアを製作する場合は、細かなデザイン機能が必要です。ビデオゲームのデザインやアニメーションに特化したCADソフトでは、多くの場合、リアルなミニチュアを作成するために必要な細かなツールが提供されています。
たとえば、ZBrushは、複数の芸術的手法を組み合わせて高精細なモデルを作成できるデジタル彫刻ツールです。ZBrushのユーザーは主に映画、ゲーム、アニメーションのデザインを行っており、リアルなフィギュアを作るのに最適です。デジタル彫刻、モデリング、手早い視覚化目的でZBrushを使用する方法については、こちらのウェビナーで詳しくご紹介します。
強力なツールをシームレスに統合:デジタル彫刻家のためのワンクリック3Dプリント
ZBrushにより、アーティストはデジタルモデリングの限界を自由に押し広げることができます。最近まで、複雑なコンセプトをコンピューターの画面から取り出す力は、手が届かず、コストがかかりすぎるものでした。
ミニチュアをスキャンして3Dプリントする
カスタム3Dプリントをするには、必ずしも完全オリジナルのデジタルデザインが必要なわけではありません。その代わりに、既存のオブジェクトを3Dスキャンすることができます。スキャン手段は多く、低価格の深度センサー付きカメラや写真測量から、高精細なプロ用スキャナーまで、幅広い選択肢があります。
パーツを3Dプリントする前に、多くの場合は3Dスキャンを調整、最適化、仕上げる必要が生じます。Meshmixerを使えば、三角形メッシュを最適化するだけでなく、セクション全体を再造形したり、モデルをスタイリッシュにしたり、便利な機能を追加したりすることができます。
3Dプリントミニチュアを始める
プロの彫刻家、モデル製作者、アマチュア愛好家、ゲーマーなど、SLA方式3Dプリントは超リアルなデジタルモデルに生命を吹き込み、ほんの数時間でデスクに置くための最適なツールです。
自分オリジナルのミニチュアやフィギュアの3Dプリントを始めるなら、手頃な価格で素晴らしいディテールを実現できるForm 3、特に大きなアイデアに生命を吹き込むならForm 3Lをお選びください。