
3Dスキャンは、3Dを活用した製造ワークフローの最初と最後で重要な役割を果たします。エンジニア、プロダクトデザイナー、研究者は、リバースエンジニアリングによる既存デザインの取り込みや、手作業で作ったクレイモデルのデジタル化、または人体の正確な形状を参照するなど、3Dスキャナを活用してより速く、効率的にデジタルモデルを構築しています。
製造後であれば、品質管理のサポートや3Dプリント製部品の精度の検証に3Dスキャンを活用することもできます。また、部品を実際に製品に搭載して使用した後に、スキャナを使ってパフォーマンスを把握することも可能です。変形してしまった部品をスキャンすれば、次回の改良時に強化すべき点が分かります。
3Dスキャナはハンディタイプのものからデスクトップ型のものまで選択肢が非常に幅広く、その中から用途や予算に合わせた最適な製品を選ぶのは容易ではありません。本記事では、3Dスキャナを購入する際に考慮すべき最も重要な要素を探りながら、3Dスキャンと3Dプリントを組み合わせた活用例についてもご紹介していきます。

リバースエンジニアリングやその他用途向けの3Dスキャンと3Dプリント
3Dスキャンと3Dプリントを活用した工程は、複製や修復、リバースエンジニアリング、計測などにも応用できます。こちらの技術資料では、これら活用法の詳細や導入にあたって準備すべきことをご確認いただけます。
3Dスキャンの種類
現在、市場にはさまざまなスキャン技術が存在し、それぞれに長所と短所があります。
レーザー三角測量は、被写体に光を投影し1秒あたり最大数百万ドットの測定を行います。ドットから反射された光がスキャナのセンサーに戻ってくることで、被写体のジオメトリを捉えます。このタイプのスキャナは精度が最も高く、表面が不透明でディテールの細かなオブジェクトのスキャンに最適です。
しかし、レーザー三角測量スキャナには制限もあります。たとえば、この技術はポータブルスキャナではほとんど採用されていません。レーザードットを安定した光源から投影する必要があり、その光源をスキャンに近い距離に保つ必要があるためです。また、レーザー三角測量スキャナは、透明または光沢のある表面を持つオブジェクトではうまく機能しない場合があります。通常は被写体に反射マーカーを貼り付けて使用後に取り外す、という作業が必要になるため、スキャンする対象によってはこの点が問題となる場合があります。
さらに、レーザードットは人の目に有害である可能性があるため、レーザー三角測量システムを使用して体の一部をスキャンする場合は、特別な安全対策を講じるか、スキャナの製造元に確認してデバイスが目に安全であることを確かめることが重要です。
構造光方式スキャナ(白色光スキャナまたは青色光スキャナとも呼ばれます)は、通常、両側に角度を付けた2台のカメラを設置したプロジェクターを使用します。被写体の上に光のパターンを投影し、そのパターンがどのように変形するかをカメラがデータとしてキャプチャし、複数の画像を1つの3Dスナップショットに統合します。
構造光方式スキャナは据え置き型とポータブル型の両方が利用できますが、ハンディタイプの3Dスキャナで最も広く使用されている方式です。構造光方式スキャナは人間や動物に対しても安全に使用でき、被写体が完全に静止していない場合でも優れた性能を発揮するため、医療用途で多く使用されています。ただし、従来の構造光方式スキャナは、レーザー三角測量スキャナよりもスキャンに時間がかかることがありました。

構造光方式スキャンはハンディタイプの3Dスキャナの中で最も広く使用されている技術。
深度センサ付きカメラは、赤外線(IR)でドット面を被写体に投影して3Dシーンをサンプリングします。深度センサ付きカメラは使いやすく最も安価なオプションですが、精度と解像度が低く、細かなディテールが失われる場合があります。深度センサ付きカメラで大型の被写体を撮影することも可能ですが、被写体からの距離が長くなったりカメラに対して急な角度になると精度が落ちます。
写真測量とは、写真から正確な測定値を導き出す方式です。オブジェクト、建物、人、または環境の重なり合う一連の写真を撮り、多数のコンピュータアルゴリズムを使用してそれらを3Dモデルに変換します。スマートフォンで3Dスキャンを行う際に最も一般的に使用されている方法で、最近のスマートフォンのカメラは大量の写真を撮影して1つに組み合わせることができます。3Dプリント製品の製作に用いる場合、写真測量は最も安価で精度の低い方法と見なされ、本格的なビジネス用途には適していません。
LiDAR(光検出と測距)センサーは、最新のiPhone ProやiPad Proなど、一部のハイエンドのスマートフォンやタブレットに搭載されている技術です。頻繁なスキャンが必要ない一般ユーザーにとって、写真測量しか利用できないデバイスよりも一歩上の性能を発揮できるスキャナとしてiPhoneやiPadを活用できるようになります。スマートフォンやタブレットのカメラを介して3Dメッシュファイルを生成するアプリケーションもありますが、これらはエントリーレベルのスキャンと見なすことができるでしょう。本格的な3Dプリンタへ送信可能な状態にするためには、メッシュに発生している隙間を除去したり3Dモデルに何らかの修正を加える必要があり、CADソフトウェアで追加の作業が発生します。スマートフォンは被写体をスキャンする際に使用できる光点が少ないため、スタンドアロン型のスキャナよりも解像度が低くなります。ユーザー自身のCAD設計スキルが高い場合、または基本的なモデルをデジタル空間に転送できれば良い場合には、スキャナの代わりとしてiPhoneを使用できます。

3Dスキャンで現代の製品開発をサポート
本ウェビナーでは、Peel 3Dを用いながら、3Dプリント工程に3Dスキャンを導入することで製品開発プロセスを改善する方法をご紹介します。
3Dスキャナを選ぶ際の注意点
3Dスキャナの精度と価格
スキャンの精度は技術によって大きく異なり、精度が高いほどコストも高くなる傾向があります。最終的に作るパーツの公差要件が、3Dスキャナに求める精度を決めるうえで有用な指標となります。
高価格、最高精度($15,000以上) | より手頃、高精度($12,000以下) | 低価格、低精度 |
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Zeiss T-Scan Hawk Scantech Simscan EviXscan Optima+ M Creaform HandyScan 307 Silverシリーズ | peel 3d peel 1、peel 2、peel 2-S FARO Freestyle 2 Polyga Compact S1 | iPhone Pro、iPad Pro Structure Sensor Matter、Form 3D Scanner V2 Revopoint POP |
精度が0.1mm以下のレーザーおよび構造光方式スキャナは、高精細な3Dプリンタと組み合わせることで工業用途に適したオプションになります。FormlabsのSLA光造形方式3Dプリンタ(Form 3+など)は、多くのデスクトップ3Dスキャナのスキャンボリュームと同様の精度とプリント可能領域でパーツを製作できます。
スキャナの性能は、測定点と実際の位置との精度のほか、解像度の点でも製品によってさまざまに異なります。スキャナの解像度とは、特定のスキャン距離でキャプチャされた点間の距離のことを指します。被写体のディテールがスキャナの解像度よりも小さい場合にはキャプチャされません。たとえば、解像度が低い高精度の3Dスキャナは、銅像についているジュエリーを全体的な形状としては検出できても、指輪やネックレスなどの個々のディテールまで明確に表現することはできません。これが問題となるかどうかは、プロジェクトの要件によります。
精度とはパーツとデジタルの値の測定誤差であり、解像度とは測定の密度のことである、と考えると覚えやすいでしょう。

精度は、メーカーや3Dスキャン技術により微妙に異なる場合があります。たとえば、ハンディタイプのスキャナの精度は、被写体までの距離やスキャンデータを再構成する際の品質に依存しますが、デスクトップ型のスキャナは定められたスキャンボリューム内で安定した精度が得られます。精密測定のために3Dスキャナの購入を検討される場合は、必ず同種の他の製品と比較検討するようにしてください。
通常、構造光方式スキャナはレーザースキャンと比較して最高の解像度と精度を提供します。芸術的な用途で3Dスキャンを活用する際は、どちらかというとディテールの再現に重点が置かれ、全体的な精度はそれほど重視されません。特に、アセンブリに搭載する部品として他の部品と正確にフィットする必要がない場合には、この傾向が顕著です。このような場合には、写真測量が低コストで良いオプションとなるでしょう。
深度センサ付きカメラと写真測量はどちらも、大型のオブジェクトをスキャンして縮尺モデルを3Dプリントで作るのに適したソリューションで、人体の形状をキャプチャするのにも十分な精度を備えています。
エントリーレベルのレーザースキャナでも、ハイエンド製品と同様のテクノロジーを使用するものも多く存在します。このようにローエンドでも高性能が発揮できるスキャナは、小型のオブジェクトを1:1のスケールで再現するために優れたツールとなります。エントリーレベルのレーザー3Dスキャナの精度はハイエンドのものよりも低くなりますが、精度が重要でない小ぶりな装飾品やフィギュアの複製には十分なディテール表現が可能です。
たまに3Dスキャンが必要になる、という程度の場合は、デジタル化サービスを提供する業者への外注も一つの手段です。被写体のスキャンだけでなく、CADへの変換や精度検査なども依頼できることがあります。
3Dスキャナの ボリュームとカバレッジ
3Dスキャナでキャプチャできる範囲は、機種によって大きく異なります。一般的に、スキャンボリュームが増えるとコストも増加するため、用途に対してスキャナのスペックが過剰にならないよう、サイズと解像度の要件に合った製品を見つけることをお勧めします。

ハンディタイプのスキャナは、被写体の周りを手動で移動させることができるため、デスクトップ型に比べてサイズの制約が少ないのが特徴です。安価なハンディスキャナの多くは、バスケットボール程度の小さなものから部屋全体など広い空間までスキャンできます。ハイエンドのハンディスキャナはさらに幅広い範囲をカバーでき、精密な測定を必要としながらもデスクトップ型スキャナに収まらないあらゆるオブジェクトを対象範囲に含めることができます。また、ハンディタイプのスキャナはほぼ瞬時に被写体を捉えることができるため、人間工学や医療分野での人体計測(完全に静止していない状態での計測)に適しています。
スキャナから見えない部分がある場合、モデルのスキャンデータに隙間が生じてしまいますが、今はほとんどのスキャンソフトウェアに、小さな欠落部分を自動修復し3Dプリント可能なモデルを作成する機能が搭載されています。ただし、隙間や穴を修復しても元のオブジェクト通りの精度で再現できることは稀で、高精度が要求されるパーツの場合は隙間や穴の自動修復機能だけでは不十分です。3Dプリント用に3Dファイルを編集・修復するためのヒントについては、こちらのMeshMixerチュートリアルをご覧ください。
可視範囲を広げるため、スキャナの多くはターンテーブルを採用しています。スキャナのターンテーブルの性能は、どれだけ容易に、そして完全に被写体を撮影できるかを左右します。一部のスキャナは被写体を複数の軸の周りに移動させ、より多くの角度から撮影する機能を備えています。この機能は、一つの角度からは捉えることが不可能な深い窪みやリブのあるプラスチック部品のリバースエンジニアリングを行う際に特に重要です。

スキャナは、隠れている部分もキャプチャするために被写体を回転させることがある。上の図では赤い領域がスキャナから隠れた部分で、スキャン時にデータが欠損してしまう。深いレリーフのある部分は、単軸のターンテーブルでは隠れてしまい完全にキャプチャすることが難しい。
スキャナに費やすコストを検討する際は、「予算とスキャナの使用頻度に見合った金額にする」と考えると分かりやすいでしょう。費用が高額になる程、小型のオブジェクトでもキャプチャが可能でCADソフトウェアを使った大幅な修正が必要のない、ディテールまで非常に細かく再現したメッシュを作成できます。ハンディスキャナは携帯性が高いため、最上位の価格帯に位置することが多いです。低コストのスキャナにもさまざまなオプションがありますが、何を重視すべきかをしっかりと理解したうえで選ぶ必要があります。
フローチャート:用途に応じた最適な3Dスキャナの選び方
こちらのフローチャートでは、精度、スキャンボリューム、予算に応じたスキャナの種類をまとめました。スキャナの選定時にご活用ください。

高解像度版のインフォグラフィックはこちらからダウンロードできます。
3Dプリントを補う3Dスキャンの役割
3Dスキャナは、ほぼすべてのオブジェクトを再現できるという点で、3Dプリンタの可能性を広げる役割を果たします。この2つの技術を組み合わせることで、さまざまな業界のプロセスを簡素化・高度化する強力なデジタルワークフローを構築できます。
3Dスキャナでスキャンしたオブジェクトは、表面を実寸大で表現した三角メッシュとして出力されます。場合によっては、CAD作業を行わずにスキャンしたデータをそのまま使用してオブジェクトを再現することも可能です。また、CADによるソリッドモデルとスキャンした3Dモデルを組み合わせたハイブリッドなワークフローも利便性が高く、人体の一部の物理的な形状を取り込み、それを機械設計と組み合わせることで人間工学的にカスタマイズされた製品を作ることができます。
また、3Dスキャナは、すでに製造済みのオブジェクトの精度測定でも重要な役割を果たします。3Dプリントの精度を左右する要因は多くありますが、計測用途対応の3Dスキャナを使用することで、高水準が求められる用途で材料が発揮する性能を明確に把握できます。
3Dプリンタと3Dスキャナを組み合わせることで、以下のようにさまざまなワークフローが可能になります。
- リバースエンジニアリングで交換部品や人間工学を用いたカスタム製品を製作
- パーツの複製と復元(特に美術品や宝飾品など)
- 消費者向けオーディオ製品のカスタムイヤーピースを製作
- 歯科および医療用途で、3Dスキャンを活用し患者様一人一人に合わせたワークフローを策定
- 製造品の精度の検証・測定

3Dスキャンから3Dプリントへ:機械の修復、組立治具、アフターマーケット製品を高速リバースエンジニアリング
本ウェビナーでは、リバースエンジニアリングで作成したCADや3Dプリントと組み合わせることで、3Dスキャンが部品の設計・製作工程をどのように改善できるかを詳細に解説しています。
3Dスキャンと3Dプリントによるデジタルワークフローの構築

3Dスキャナと3Dプリンタは、あらゆる業界でデジタルワークフローの構築に欠かせないツールとなっています。技術資料のダウンロードまたはウェビナーをご視聴いただくことで、3Dスキャンを活用した設計・製造の改善方法や、3Dプリントと3Dスキャンの組み合わせでエンジニアリングや製品設計、その他さまざまなワークフローを強化する方法をご覧いただけます。
この用途について3Dプリンタの観点からも確認したい場合は、SLA光造形方式やSLS(粉末焼結積層造形)方式プリンタの詳細をご覧ください。また、無料サンプルパーツをお申し込みいただくと、Formlabsの高機能3Dプリント用材料で造形したサンプル品を直接お手に取ってご確認いただけます。お気軽にお申し込みください。