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Industry Insights

3Dプリントカー実現への道のり:3Dプリントが自動車業界に起こす9つの変化

現在はディーラーで3Dプリント製の自動車を買うことはまだできませんが、3Dプリントは何年にも渡って自動車業界の開発工程で大切な役割を果たしてきましたが、近年では製造工程の幅広い場面での3Dプリントの活用がますます定着してきています。

3Dプリントでサプライチェーンに大きな付加価値を与えられるだけでなく、より広い用途への活用の可能性も広がります。3Dプリントはますます使いやすく手頃になっており、内製でのアディティブマニュファクチャリングで製造現場を支えています。弾力性のある新材料で、実製品用部品の代わりとなる高精細かつ高機能な3Dプリント部品を製作し、(マス)カスタマイゼーションや高パフォーマンスな生産を実現できる可能性が広がりますが、これはまだ始まりに過ぎません。

設計から製造、さらにその先の工程まで、3Dプリントが自動車業界全体のイノベーションを支えている9つの例をご紹介します。

ドイツのメルケニヒにあるFordのRapid Technology Centerでは、様々な3Dプリント方式を駆使して短納期で試作品を製作しています。依頼から完成品の到着まで数週間かかる外注とは対照的に、僅か数時間でエンジニアやデザイナーが試作品を手に取って確認できます。

Rapid Technology Centerでは、数時間でデザインの試作・検証を繰り返し試作品の即日製作が可能です。「物理的な試作品は、デジタルモデルよりもメリットが大きいのです」と語るのはFordのアディティブマニュファクチャリングエキスパート、Bruno Alves氏です。

例えば、Formlabsの3DプリンタでFord Pumaの車体後部のレタリング試作を製作し、デザイナーが様々な照明条件で文字の線や影の見え方を確認することができました。「造形スピードが速くこの種のレタリングには非常に効果的だったので、デザイナーに複数のデザインを出して確認してもらうことができました」とAlves氏。 「CATIAやその他ソフトウェアを使えば照明のシミュレーション自体はできるのですが、実際に車体にレタリングをつけて手触りや光の反射を目で確認できると、やはり感覚が全く違います」

3Dプリントが自動車業界大手のイノベーションを支えている様子については、Ford Motor Co.のBruno Alves氏とBroseのChristian Kleylein氏をお迎えして開催したウェビナーをご覧ください。

Ford、Broseの社員と語る:自動車業界大手2社による3Dプリント活用事例(英語)

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IGESTEKは、プラスチックや複合材料を用いて軽量化ソリューションの開発を専門とするスペインの自動車メーカーで、形状を検証する構想設計から機能確認用試作を作る詳細設計まで、製品開発工程全体で3Dプリントを活用しています。また、プラスチック射出成形用のインサートや複合材料の熱成形で使用する金型製作など、ラピッドツーリングにも3Dプリントを使用しています。

軽量化で今話題になっているのが、トポロジー最適化です。IGESTEKは、Autodesk Fusion 360を使用して一連のパラメータに基づく複数のデザインを生成しています。

サスペンションマウントを製作した時は、ジェネレーティブデザインで生成した形状の金属3Dプリントと軽量な複合材料を組み合わせたマルチマテリアルアーキテクチャで、現在市場に出ている既製品と比べて40%の軽量を実現し、最高の性能を引き出すことに成功しました。この試作品製作には、大型3Dプリンタ大容量3Dプリンタを使用しました。複数デザインの試作品を同時に製作できるだけの容量があり、試作・検証工程をさらに高速できるためです。

この用途の詳細と、IGESTEKが自動車部品の軽量化を実現した他の2つの方法については、IGESTEKの特集記事をご覧ください。

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ジェネレーティブデザイン入門:3Dプリントで軽量部品を製作(英語)

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3. 3Dプリンタでコンセプトカーを実現

イギリスの工業用デザインスタジオVital Autoは、Volvo、日産、Lotus、McLaren、Geely、TATAなど大手自動車メーカーから業務を請け負っています。部品の製造元メーカー(OEM)が自社内で実験的な試みを行う時間がない場合、アイデアや初期のスケッチ、図面、あるいはその仕様を完全に形にするための相談がVital Auto社に持ち込まれます。

「弊社では創業当初から3Dプリントを活用しています。コスト削減だけでなく、顧客のデザインやアイデアをより多様に実現する方法として、製造工程に導入したいと考えていました」と、アディティブマニュファクチャリングを担当するデザインエンジニアのAnthony Barnicott氏は述べています。

Barnicott氏は現在、14台の大型FDM(熱溶解積層)方式3Dプリンタの他、Formlabsの大型光造形方式3DプリンタForm 3Lを3台、SLS(粉末焼結積層造形)方式3DプリンタのFuse 1を5台設置した3Dプリント部門を統括しています。「すべてのプリンタが、導入初日からほぼ100%稼働を続けています。コンセプトや設計など、すべての工程でプリンタを使用していて、通常、生産用にはFuse 1を、コンセプト用にはForm 3Lを使っています」とBarnicott氏は続けます。

3Dプリントでより良い製品をより高速に製作できるだけでなく、新しいビジネスチャンスも広がります。同社は、最新のテクノロジーに触れたい、あるいは最先端の材料でコンポーネントを作りたい、という理由で業務を依頼してくれる顧客が多くいることに気づきました。

「過去10年間での3Dプリント技術の進歩は驚異的です。導入当初は少量生産のニッチな車両に使っていましたが、今では3Dプリンタ無しでは作れない製品もあります。今ではこういった部品も作れるようになっただけでなく、非常にコスト効率良く、そして高速に生産できるのです」とBarinicott氏は語ります。

3Dプリント製部品の活用方法に関する詳しい洞察は、Vital Autoの特集記事をご覧ください。

ラピッドプロトタイピング
技術資料

製品開発向けラピッドプロトタイピングガイド

本ガイドでは、製品開発工程にラピッドプロトタイピングを組み込む方法、活用事例、そして現代の製品開発で使用できるラピッドプロトタイピングツールをご紹介します。

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Makra Proはアディティブマニュファクチャリングサービスを提供するメーカーで、高級車のトリム材料として人気があるものの成形が難しいレザーを3Dプリント製の金型で成形する新しい手法を開発しました。同社は、高級車、モーターサイクル、モーターホームのメーカーなど顧客数社と提携し、本物のレザーを成形しエンボス加工を施す方法を検証しました。

Form 3で3Dプリントした金型を使うMakra Proの新技術では、発泡スチロールを使って伸ばしたレザーのパネル全体に圧力を均等に分散させます。発泡スチロールが固まると、レザーが金型に押し込まれて成形されます。

完成したレザー品は、車のドアパネルやシートカバーに装着することができます。限定版高級車のチューニングを専門とする有名企業では、この手法で成形したレザー品を車の壁や天井のパネルに使用しています。

射出成形や熱成形など、ラピッドツーリングの用途の詳細についてはMakra Proの特集記事または技術資料をダウンロードしてご確認ください。

ラピッドツーリング
技術資料

ラピッドツーリングガイド

本技術資料では、射出成形や熱成形、鋳造といった従来の製造手法にラピッドツーリングを取り入れる方法について解説しています。

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5. 3Dプリント製治具

Dorman Productsは、+/-0.05 mmの精度を誇るGreyレジンを使用して合否判定用検査治具を製作している。

Dorman Productsは、何百種類もの車両用に10万点以上の部品を設計し、データベースで管理しています。「これまでずっと、新しい部品を毎年4,000から5,000点ほどリリースしてきました」とメカニカルデザインチームマネージャーのEric Tryson氏は言います。

アフターマーケットサプライヤーであるDormanの製品設計・製造チームは、単なるロジスティクスの課題だけでなく、いかに素早い対応ができるかが肝になると言うのはアディティブマニュファクチャリングリードのChris Allebach氏です。「OEMには1つの部品に専属の設計チームがいて、早い時には新車が発売される2年前から設計を開始しています。なので、私たちは信頼できる交換部品を確実に作りながら、迅速に市場投入できる方法を見つけないといけません。

3Dプリンタを使った試作・検証工程を取り入れる前は、カスタム治工具の製作が開発工程を遅らせる原因となっていました。機械加工には多額のコストと長い製作期間がかかります。

それが3Dプリンタを導入したことで、部品を試作しながら試験用の治具やゲージも製作できるようになり、今では部品の最終設計が決まる頃には試験で使う治具も出来上がっているという状態です。生産性を最大限に高めようとしているんです」とAllebach氏は言います。

Dormanが最初に3Dプリンタを導入したのは10年前。それ以来、Allebach氏とTryson氏は大容量のForm 3Lを始めとするプリンタを徐々に追加していき、既存ユニットの生産能力を高め、FormlabsのSLA光造形プリンタで使える材料を最大限に活用してきました

「[最初の3Dプリンタ]は2ヶ月以内に元が取れました。Formlabsプリンタ導入のコストの妥当性や投資利益率(ROI)について検討したところ、2年どころかわずか数か月で投資を回収できることがわかり、3Dプリントへの投資価値を経営陣にも納得してもらうことができました」とTryson氏は言います。

Dorman Productsは、他にも様々な用途で3Dプリントを使用しています。詳細については、弊社の記事をご覧ください

ラピッドプロトタイピング
技術資料

3Dプリント製治工具の設計

メーカーにとって、生産スピードの最大化と高品質の維持を両立させることは何よりも重要です。治工具は、製造工程や組立工程の効率化や安定化、サイクル時間の短縮、作業者の安全性向上を目的として用いられます。

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外注か内製か:SLS方式3Dプリントが適するケースとは?
技術資料

外注か内製か:SLS方式3Dプリントが適するケースとは?

本技術資料では、SLS方式3Dプリンタでの内製と、SLSプリント品を外注で製作した場合を比較し、SLS 3Dプリンタの導入の費用対効果の評価を行います。

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高性能車のアフターマーケット部品を製造するForge Motorsportは、試作品製作に3Dプリントを使用しています。Toyota Yaris GRの発売時、Forgeのエンジニアは吸気ダクトに設計改善の余地があることに気づきました。エアボックス開口部をずらし部品全体のサイズを大きくすることで、エンジン性能の予測を難しくする吸気温度(IAT)の変動を減らし、全体の平均温度を下げることができたのです。

彼らは3DスキャンでOEM部品をリバースエンジニアリングし、SOLIDWORKSで仮想的に設計を変更し、空気流をシミュレートしました。造形可能な3Dモデルが完成したら、高速造形が可能なDraftレジンで試作品を製作し、エアボックス開口部の新しい位置が意図したとおりに機能すること、および部品全体のサイズが大きくなっても他の部品やケーブルに干渉しないことを確認しました。基本的なフィット感を確認した後、強度と耐衝撃性に優れたTough 1500レジンで部品を再度造形し、実製品に似せて黒く塗装し、顧客に渡して検証してもらいました。

顧客は3Dプリント製の部品をYaris GRに5カ月間装着し、その間、サーキットや上り坂など様々な条件下で性能データを収集しました。純正IATの温度の変動域は42~45°Cで、レース中にもかなりの変動が観察されました。一方で、Tough 1500レジンでプリントした改善後の部品を使ったIATは、顧客の検証の結果、変動域が35~36°Cでした。予想通り、改善後の部品は全体的なIATや変動率が減少しました。Forgeはこのデータを元に設計変更後の部品がOEMの設計よりも改善されていることを確信し、炭素繊維材料を使った実製品用部品の製造に踏み切りました。

3Dスキャンを使ったリバースエンジニアリングの詳細については、Forge MotorsportとPeel3Dによるウェビナーをご覧ください。

自動車業界における3Dスキャンと3Dプリントの活用方法をForge Motorsportが解説

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炭素繊維部品の製造
技術資料

3Dプリント製の金型で炭素繊維製部品を製作

複合材料用成形型の設計ガイドラインや、炭素繊維部品製作時に必要なプリプレグや人手での積層作業について、手順ごとに詳しく解説した資料をお求めの方はこちらの技術資料をご覧ください。

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技術資料

リバースエンジニアリングやその他用途向けの3Dスキャンと3Dプリント

3Dスキャンと3Dプリントを活用した工程は、複製や修復、リバースエンジニアリング、計測などにも応用できます。こちらの技術資料では、これら活用法の詳細や導入にあたって準備すべきことをご確認いただけます。

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自動車業界での3Dプリント活用事例