セラミックコーティングは、幅広い材料の造形品で機能性と外観の双方を向上させる表面処理です。セラミックでコーティングを施した3Dプリント品は、耐薬品性や耐熱性が向上し、過酷な環境下での使用が想定される自動車業界や航空宇宙業界をはじめ、優れた表面品質が重視される消費者向け製品など、幅広い分野の製造業で用いられます。
本技術資料では、SLA光造形方式およびSLS(粉末焼結積層造形)方式での3Dプリント品にセラミックコーティングを行う方法を解説します。
高度なセラミックコーティングで3Dプリント品の機能性を向上(英語)
本ウェビナーでは、Cerakoteによるセラミックコーティングで3Dプリント品の機能性を高める方法をご紹介します。
Cerakote(Cerakote)とは?
CerakoteとはNIC Industriesが開発した高機能コーティング技術で、セラミックの被膜を造形品表面に塗布することで、機能性と外観の両方を向上させます。
セラミックコーティングのメリット
Cerakoteは高温や薬品、UVへの耐性を備えているため、過酷な環境や屋外での長期使用にも耐えられる3Dプリント品を製作できます。Cerakoteは、僅か0.00635〜0.0254mm程度の厚みで、ワークの寸法精度にはほとんど影響しません。可動部などの機構を備えたアセンブリ品の場合、塗膜が厚いと寸法を公差内に収めることができず、摩擦の発生も懸念点となる場合があります。Cerakoteは非常に薄く寸法精度への影響も想定内に収まるため、アセンブリ内の部品に施す場合でも円滑な動作を損なうことがありません。
Cerakoteの薄さと強度、長期使用に耐えるワーク表面への固着力により、外観も向上させることができます。また、Cerakoteは色の種類も豊富で、実製品用部品を好きな色に仕上げることができます。Cerakoteはライトトーンのホワイトからダークトーンのブラックまで、ベースコートやプライマを使用せずに光透過性のない安定した色彩が表現できます。1回の塗布作業で完了するCerakoteコーティングにより、光造形やSLSでのプリント品にカラフルなオプションが加わります。
光造形3Dプリント品のセラミックコーティング
本ウェビナーでは、光造形方式3Dプリントによる実製品用部品に、生産規模が大きくなっても手軽に対応できるCerakoteでのセラミックコーティングを施し、外観と機能性の両方を向上させる方法をご紹介します。
Cerakoteと3Dプリント部品
これまでCerakoteを施す部品の大半は金属製でしたが、量産用途で樹脂3Dプリントの活用が拡大するにつれ、金属部品よりも低価格で利用できるオプションとしてセラミックコーティングを施した樹脂部品が急速に増えつつあります。Cerakoteでコーティングすることで、耐熱性や耐薬品性が向上し、3Dプリント品には特に大きなメリットとなります。樹脂3Dプリント品は紫外線に弱く、屋外で使用する実製品用部品などの場合は長期間紫外線に晒されると劣化する恐れがあります。Cerakoteは一層のみの塗膜で地肌が露出しないよう完全にコーティングを施すことができるため、自動車やスポーツ用品等のように、従来は過酷な製品の使用環境に対応できなかった用途でも、3Dプリント品の最大の利点である設計の自由度を活かした、あるいは一体造形による少ない部品点数で製品が生産できるようになります。また、多孔質に仕上がるSLSプリント品ではCerakoteによって表面の孔を塞ぐことで面粗度が向上し、ナイロン材など高い機能性を持つ材料のポテンシャルを引き出しながら、部品の外観、耐薬品性、耐熱性を向上できます。
Cerakoteを3Dプリント品に施すことで設計の自由度とカスタマイズ性が高まり、用途拡大の可能性が広がります。従来工法で作る金属部品はUV耐性こそ十分ですが、3Dプリントとは違い、設計面で制約があります。一方、3Dプリントでは設計の自由度やカスタマイズ性が得られるものの、従来工法で作った金属部品のような耐久性はありません。そこで従来工法と3Dプリントの利点を組み合わせ、高強度かつ高耐久で外観上も優れた部品をオンデマンドまたは小ロットで量産できるようになり、量産プロセス自体をより持続可能なものにすることができます。
Cerakoteの施工方法
Cerakote品を製作する方法の1つは、認定施工者を見つけることです。試しに使ってみる、または概念実証用に1度だけCerakoteを施したいというような場合には、外注で安価かつ迅速に行うことができます。Cerakoteは、世界中に認定施工者のネットワークを有しており、データベースでは認定施工者が対応可能な作業種別(この場合は3Dプリント品への施工)でフィルタリングして検索も可能です。
Cerakoteの内製化に興味がある場合は、NIC Industriesの推奨機器パッケージをご覧ください。様々な作業手順に対応する推奨機器一式を幅広い価格帯で販売しています。最大の出費となるのはスプレーブースです。また、Series HやEliteコーティングを使用する場合は二次硬化用のオーブンも追加で購入が必要になります。Cerakote部品の大量生産をご検討中の場合は、NIC Industriesから高生産性を実現する多用途ロボットプラットフォームが提供されています。
Cerakote施工を内製化する場合は、一度必要な機器を購入して適切な試験を実施できれば、あとはHVLPスプレーガンでコーティングするだけです。3Dプリントで治具や固定具、マスキング治具を製作する場合は、Cerakoteを均一かつ満遍なく塗布できるような複雑な形状にすることも可能です。
Cerakoteのクイックスタートガイド
- Cerakoteを塗布する前に、100グリッドの酸化アルミニウムまたはガーネット砂を使って40PSI(約276kPa)の圧でブラスト処理を行い、ワーク表面を整えます。
- 注:ガラスビーズではワーク表面が十分にエッチングできず、コーティングが固着しません。
- Prep ALLなどのクリーナーで部品を拭き取り、油分や汚れを取り除きます。
- 均一にコーティングできるようワークをラック等に並べて移動や反転が簡単に行えるようにします。
- コーティング剤を混ぜ合わせます。
- 光沢の強いコーティングをご希望の場合は、塗布前に推奨のCatalyst製品(触媒)をコーティング剤に混ぜます。
- 触媒を混ぜた後は、各コーティング剤の使用方法に従い、100、150、325メッシュのいずれかで混ぜ合わせたコーティング剤を濾過します。
- エアブラシでコーティングを吹き付けます。
- 二次硬化
- H SeriesとElite Seriesでコーティングしたワークは82℃にて2時間、二次硬化を行います。
- C Seriesでコーティングしたワークは、5日間自然乾燥させます。
Cerakote施工に3Dプリント製のマスキング治具を活用
塗装や仕上げ工程で部品の一部を覆うマスキングは、時間も労力もかかる作業です。Cerakoteロボットを導入した企業では、テープを使って手作業でマスキングするという作業がボトルネックとなり、生産性向上の障害となっていました。3Dプリント製のマスキング治具であれば、何度も繰り返しの使用が可能で各ワークに合わせた設計が行えるため僅か数秒で貼り付けや取り外しができるようになります。3Dプリントを活用すれば、マスキング作業がCerakote品生産のボトルネックになることはありません。光造形とSLSどちらの方式でも、シンプルな設計のマスキング治具を大量にプリントし、仕上げ工程の完了後は簡単に取り外すことができます。
Cerakote部品の試験
コーティングの効果と完成品の機能性は、コーティング剤と部品の接着具合によって変わります。多様な化学試験にて密着性を始め、使用した基質とコーティング剤の組み合わせが過酷な環境下でも耐えられるかどうかを確認します。過酷な環境で使用される部品には、ディーゼルなどの腐食性物質によって金属製・樹脂製どちらの部品も品質が劣化しやすい自動車エンジン部品などが該当します。NIC Industriesが多くの試験を実施した結果を公開していますので、自社で試験をされる前に一度確認しておくとよいでしょう。
試験結果の詳細については、Cerakoteの技術資料をダウンロードしてご確認いただけます。
SLS 3Dプリント品とCerakote品の製造単価
SLS 3Dプリント品への高機能セラミックコーティングは、外観や機能面での要求が厳しい実製品用途に最適なソリューションで、小ロット量産やマスカスタマイゼーションで射出成形に代わるコスト効率の高い選択肢を提供します。
以下では、FormlabsのFuseシリーズSLS 3Dプリンタで造形後にCerakoteを施したサンプル品を例に消費者製品用部品を小ロットで量産し、Cerakoteを施す際の材料費と人件費をご紹介します。
材料 | 材料費 | 人件費 | 造形単価 | |
---|---|---|---|---|
Fuse 1+ 30Wでプリント | Nylon 12パウダー | $4.48(廃棄パウダー分を調整) | $2.96 | $7.80 |
上部のコーティングに使用したCerakote | H-175 Robins Egg Blue | $0.80 | *$0.63 | $1.43 |
下部のコーティングに使用したCerakote | H-140 Bright White | 1.07 | *$0.63 | $1.69 |
組立後 | - | - | - | $10.92 |
*認定施工者の時間単価($75)をもとに計算。Cerakoteロボットを使用することで価格を大幅に削減することが可能。Fuse 1+ 30WではVRリモコン用アセンブリ36個(上部36個、下部36個)を24時間27分で造形でき、1週間で200個以上の製造が可能になる計算。
3Dプリント製Cerakote部品の代表的な用途
3Dプリント製部品のニーズが高まり続ける中、Cerakoteによってアディティブマニュファクチャリングが活躍できる業界や用途の数がさらに広がっています。製造コストが低く抑えられる3Dプリント製樹脂部品が目的の用途には強度不足である場合などは、Cerakoteを施すことで部品の引張弾性率を高められます。耐熱性と耐薬品性が付加されることで用途の幅もさらに広がるでしょう。
自動車製造
自動車メーカーは、従来の加工部品の軽量化、サプライチェーンの保護、カスタマイズ生産、低価格かつ高速で製作した治具・補修部品によるコスト削減などを目指して既に製造工程に3Dプリントを導入し始めています。
3DプリントやCerakoteの手順は簡単ですが、これら技術の組み合わせで部品はより高い温度や紫外線にも耐えられるようになり、実製品への用途が広がります。オーダーメイドの高級車や機能確認用試作品等、Cerakoteを施した3Dプリント部品はエンジンや外装にも使用できます。
金型や治具
Cerakote部品は表面が滑らかなため他の部品と接触しても摩擦が発生せず、かつ耐熱性も備えているため、射出成形や板金加工、熱成形、その他金型用途に最適です。Cerakoteを施した3Dプリント部品は強度が増し、治具の耐久性が向上するため、繰り返しの使用でも安心して使い続けることができます。
消費者製品
Cerakoteの耐久性と鮮やかな色合いは、消費者製品用の表面処理としても魅力的なオプションです。3Dプリントでマスカスタマイゼーションの可能性を広げ、Cerakoteで部品の耐UV性や耐久性を高めることで、大量生産の射出成形品が持つ魅力的な特性を全て備えた実製品を製造できます。
3DプリントとCerakoteを組み合わせた生産を開始する
Cerakoteの詳細や3Dプリント部品への施工方法を詳しくお知りになりたい方は、Formlabsまでお問合せください。
お近くのFormlabsショールーム、またはマサチューセッツ州ソマービルとオレゴン州ホワイトシティにあるCerakoteのショールームへお越しいただくことも可能です。