Formlabsはごく最近、カメラ業界にディスラプションを起こそうという新興企業、Glass Imaging Inc.と話す機会に恵まれました。同社の共同創設者である Tom Bishopは「カメラというものは、初めて発明されて以来、基本原理は何も変わっていません。スマートフォンの演算能力を駆使すれば、もっと良いものをゼロから作ることができるはずです。」と話してくれました。
Glass Imaging Inc.は、Tom BishopとZiv Attarの両氏により、画像処理の未来を形作ることを目指して設立されました。2人はAppleでモバイルイメージングに携わっていた頃に出会っています。スマートフォンのカメラは年を経るに従って徐々に向上してきましたが、2人はカメラの仕組みを根本から見直すべくGlass Imaging Inc.の設立に乗り出しました。同社の開発チームはレンズとセンサーというハードウェア、そして最新のスマートフォンのAIコンピューティング能力を駆使して完璧な写真を撮るカメラをデザインする、またとない機会だと考えています。同社は映画で使用されるワイド撮影用のアナモルフィックレンズと超ワイドセンサーを、標準的なスマートフォンの筐体に収めることで一眼レフ水準のカメラをポケットサイズに落とし込むことを目指してます。
Glass Imagingがスマートフォンメーカーに対し、数十年前の技術で十分なものを敢えて捨てようという気にさせるには、機能確認の試作品を作り、その能力を証明する必要があります。そこで登場するのがSLA(光造形)3Dプリントです。近年では、革新的な新興企業が次々とSLAプリンタを自社内に導入し、部品の試作や実製品、あるいは成形用の金型などをプリントし、試作スピードとコストを大幅に改善することで競争力を高めています。Glass Imagingでは、BlackレジンとRigid 4000レジンの2種を使い、デモ用のモックアップやレンズケースなどを試作しています。本記事では、共同創設者のTom Bishop氏とZiv Attar氏、そしてメカニカルデザイン部門を率いるCole Cogswell氏から、同社がどのようにモバイルカメラにイノベーションを起こそうとしているのか、お話を伺いました。
3Dプリントによるイノベーション
最初に3Dプリンタを導入する時、Attar氏はFDM方式の3Dプリンタを選びました。FDMには1点当たりの造形コストが安いという利点がある一方で、業務用として使用する際には精度や強度が不十分なことが多いというデメリットもあります。
これをカバーできるより良いプリンタを求めていた同社は、次にAmazonで安価な光造形プリンタを購入しましたが、Attar氏曰く「安いということで購入しましたが、すごくフラストレーションを感じました。スマホ自体の筐体といった比較的大きなものプリントできましたが、レジンの取り扱いが大変でした」。この時点で同社は、レジンがカートリッジ式で簡単に取り扱え、更にものの数秒で他のレジンに切替も行えるForm 3+の購入を決めました。
Cogswell氏は、様々なホルダーやレンズのハウジングをプリントし、造形の性能をテストしています。「コンセプトのデザインをプリントして実際に形にするまで、すべてが非常に簡単でした。量産用のデザインに落とす際に悩むこともありません。サポート材の微調整に苦慮することもありましたが、造形準備ソフトウェアのPreFormの機能のおかげですぐにコツを掴むことができ、ほんの数日でモジュールをプリントできるようになりました」。ここ数年、新興企業が革新的な新製品を次々と市場に投入する動きが目立っていますが、その原因の一端は、自社内でアディティブマニュファクチャリングを行っている点にあります。導入障壁が低いことはGlass Imagingのような中小規模の企業にとっては特に大きなメリットであり、モバイルカメラのような高度で精密な技術分野でも大手企業と競うことが可能になりました。
Cogswell氏は、微細な部品の試作は「3Dプリントなしでは非常に困難です。私が入社した頃はCNCマシンで部品を加工してもらっていましたが、それが出来上がってくるのは早くて数日から1週間、そして試作も1回で済むことはほぼ無いため、デザインに微調整を施してまた時間とコストをかけて作り直してもらうのです。自社で3Dプリンタを持っていることで、細かな変更や新機能の検証がすぐにその場で行え、デモ用のモックアップの説得力が格段に高まりました。」
また、「これをマシニングで作るとなると、数十万円のコストと1週間以上の時間が必要になります。今では金曜の午後にプリントを始めて、月曜日の朝に出社すればプリント品が出来上がっています。」
スタートアップのメーカーにとって、試作はデザインをテストするためだけでなく、投資家や企業に自社の取り組みを具体的に示すという意味でも重要です。Bishop氏は「描いている大きな目標は、この技術を市販されるスマートフォンに実装することです。重要なのは、3Dプリントが私たちの製品の継続的な改善に大いに役立っているということです。」と語っています。
Cogswell氏は、プロジェクトの実現のために2つのレジンを採用しました。BlackレジンとRigid 4000レジンです。Blackレジンは、大きな部品やデモ用のモックアップ、あるいはメディアや投資家に対するプレゼンテーション用の試作に活用しています。また、Cogswell氏はRigid 4000については「非常に信頼性が高く、レンズのハウジングのプリントでも常に安定して高精度で品質の高いものが作れています」と評しています。
フォトグラフィの未来
Bishop氏は、スマートフォンカメラの市場をディスラプトするには、今が最高のタイミングだと話してくれました。「私たちは、スマートフォンカメラの黎明期からこの業界で働いてきました。この市場は参入が本当に難しいニッチ分野です。光学分野のノウハウに製造手段、そしてAIソフトウェアのバックグラウンドに加えて、国際的なサプライチェーンもよく理解している必要があります。しかしイノベーションに対するニーズは高く、私たちは誰よりも経験豊富なチームとなっています。」
超広角センサーを超薄型のモジュールに収め、突起部を設けることなくモバイルデバイスに完璧にフィットさせることで、スマートフォンカメラは一眼レフに匹敵するか、またはそれを凌駕するものにさえなると同社は考えています。こうしてデバイス全体がソフトウェアのアルゴリズムと完全に同期して連動するよう設計することで、スマートフォンカメラの品質において史上初めての技術の飛躍が生まれるとGlass Imagingは信じています。
Cogswell氏に3Dプリンタを導入して自社で試作品を作ることを検討しているデザイナーにメッセージを求めたところ、「私がおすすめできることは1つだけ、まずはやってみることです」と答えてくれました。一度自分の部品をプリントしてみれば、何が必要なのかがわかりますし、本当に楽しめますよ。CADで描いた部品が翌日には実際に手元にあるというのもすごく楽しいですね。CADでデザインできるものはいくらでもありますし、デザインについて考えられることもたくさんあります。」
カメラレンズを再定義しようというGlass Imaging Inc.の冒険にご興味のある方は、同社のWebサイトをご覧ください。