現場が選び、量産を見据え、用途を広げて材料を活かす 豊田自動織機の3Dプリンター活用戦略

Mr. Oiwa

粉末焼結積層造形(SLS)型 3Dプリンター Fuse シリーズの前で、初代フォークリフトのモデルを手にした豊田自動織機 生産開発センター 製造室 造形G GM の大岩 洋之 氏にお話をうかがった

祖業である織機製造から発展して、今ではさまざまな研究開発やコンプレッサーなどの重要部品を製造する豊田自動織機では3Dプリンター活用が着実に進んでいる。同社でAM(Additive Manufacturing)推進を担う大岩 洋之 氏に、3Dプリンター活用の経緯と、注目している製造方式についてお話を伺った。

豊田自動織機では、3Dプリンターの活用が着実に広がっている。AM推進を担う大岩洋之氏の話から見えてくるのは、機械を導入したから使うのではなく、用途に合う材料と方式を見極めながら、最終部品製造、そしてその先の量産へと一歩ずつ進もうとする姿だ。そこには、グループ内でも競争があるという企業文化と、現場が実際に使って選ぶという考え方が通っている。

グループ内でも競争する企業文化

大岩氏によれば、トヨタグループは役割分担で成り立つ一枚岩の組織というより、基本的には各社が独立している。似たような部品があればグループ企業同士でも競合し、同様の部品を作った場合にはコンペを経て、最終的にトヨタ車への採用が決まるという。グループ内にも競争がある、というのが同社の実感だ。

豊田自動織機が担う分野は幅広い。自動車関連では、RAV4という車両やエンジン、カーエアコン用コンプレッサー、充電関連のインバータ、DC-DCコンバータ、車載電池などを製造している。インバータは車内の電圧を100Vに変換し、キャンプなどで家庭用コンセントが使えるようにする製品だという。もっとも、こうした製品も車種ごとにコンペになる。車以外では、フォークリフトをはじめとする産業車両や、繊維機械も手がけている。

oyota Industry automotive product category

豊田自動織機の自動車関連分野での取扱製品(写真提供:豊田自動織機)

Toyota Industies industrial Product Category.

豊田自動織機の産業用機械分野での取扱製品(写真提供:豊田自動織機)

全社横断のAM推進へ

大岩氏が現在の部署に入ったのは2019年のことだった。前任者は一人でインクジェット方式の3Dプリンターを用い、試作を進めていたという。しかし大岩氏が管理者になったタイミングで担当役員と話を重ねるうちに、試作だけを担う部署よりも、全社横断でAMを推進する部署として動いた方が効果が大きいのではないか、という考えに至った。

そこで各部署で独自にFDM*を導入して使っていた人たちを調べ、その人たちをメンバーにした「3Dプリンター連絡会」を立ち上げた。こうして2019年10月から、同社では試作にとどまらない全社的な3Dプリンター活用推進活動が始まった。

(※ FDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層方式)。熱で溶かした樹脂(フィラメント)をノズルから押し出し、一層ずつ積み重ねて立体物を造形する3Dプリンターの代表的な方式のひとつ。 FDMはストラタシス社の商標であり、一般的には FFF(Fused Filament Fabrication)と呼称される。)

当初使っていたインクジェット方式は、大きな造形やカラー表現ができ、試作としての出来栄えも良かったという。ただ、中期計画を立てて将来を見据えたとき、その方式では最終製品の製造は難しいと気づいた。そこで、実際に世の中で量産機として使われている3Dプリンターを調べた結果、光造形と粉末焼結積層造形(SLS)の二つが有望だとわかり、検討対象をそこに絞った。光造形では、Formlabs社のForm 3ともう一台を同時に購入し、現場に実際に使ってもらったうえで選んでもらうかたちを取った。

現場が選ぶ競争原理

全社のAM推進部門である一方、各部門もそれぞれ個別に3Dプリンターを購入している。そのため同社では、各部門の装置を補完するように、廉価機では難しい「最終部品製造につながるAM装置」を選定する方針を採っている。導入した装置を各部門に押し付けるのではなく、特徴や利点を共有し、使う側が材料を選んで依頼する。その結果、光造形3Dプリンターとしては、Form 3が次第に選ばれていった。

その理由を大岩氏は「材料」と言い切る。期待していた工業系材料が、もう一社の機器では導入後しばらくして製造中止になってしまった一方で、Form 3は多くの材料に対応でき、さまざまなニーズに応えられた。3Dプリンターに、既存の成形や加工とまったく同じ材料があるわけではない。だからこそ、まず使用目的を聞き、それに合う材料を提案し、その材料が使える機種で造形するという流れが重視されている。

(豊田自動織機では、原田車両設計のサポートを得て後継機種であるForm 4を導入し、更なる現場ニーズへの対応が進んでいる。)

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Fuse導入の転機

粉末焼結装置としてFuseを導入した経緯にも、その考え方がよく表れている。大岩氏は当初、原田車両設計の伊藤氏からFuseを勧められていたものの、粉っぽさや表面のざらつきが気になり、すぐには導入に踏み切らなかったという。社内でも、射出成形品に見慣れた人たちからは「ざらざらしていてそれらしくない」という反応があった。

転機になったのは、Formlabsのユーザー会で株式会社オウル・クラフトの武井晋也氏の講演を聞いたことだった。Fuseを使って実際に製品を作り、販売しているという話を知り、最終製品という目標に対して「これでできる」という確信が得られた。また、後処理を自動化するFuse Blastが登場したことで、粉っぽさや表面の問題もかなり解消できるとわかった。実物を見て、そこで導入を決めたという。

Fuseが広げた用途

Fuseの導入後、依頼の裾野は大きく広がった。これまで依頼のなかった部署からも相談が来るようになり、技術部門だけでなく、環境チーム、広報、デザインの人たちからも声がかかるようになったという。

具体例として挙げられたのが、モーターの評価用部品である。コイルを巻いて試験するような複雑な形状は、FDMでは難しく、光造形でも製作自体は可能だが、物性的にはFuseの方が適している。一度使った人が、前回の類似品をもう一度作ってほしいとリピートすることもあるという。

さらに、創立100周年を迎える年に合わせて新たに建設され、1月から稼働している本社事務棟のロビースペースには、自動織機のシャトルを模した照明オブジェもFuseで作られた。上から吊るすため軽さが必要で、夏の暑い日を想定すると耐熱性も求められる。そうした条件を踏まえ、Fuseで使うNylon 12(PA12)が最も適していると判断された。

また、サポートレスであることの利点も大きい。細かなレバーまで一体で造形できるため、FDMではサポート除去時に折れてしまうような形状にも対応できる。そうした精度の高さが、現場の評価とリピート依頼につながっている。

sls 3d printed part

レバーやハンドルの細部まで造形できる精度が現場のリピート依頼につながっている。ナイロン材が使える点も期待が高い。写真は粉末焼結で製作した初代フォークリフト。微細なレバーも正確に造形できた点に驚いたという。写真左に見えるFormlabs社のFuseシリーズで造形。

治具と試作、その内訳

依頼の内訳は時期によって変動するものの、治具が約3割、残りの約6割が試作だという。試作のなかでは、機能評価用が4割、形状確認用が2割ほどを占める。形状確認だけであれば、各部門が保有するFDMでも対応できるため、その用途は減ってきている。

各事業部にはFDMがあり、自分たちで作れる範囲の治具は現場で作る。一方で、より高い精度や強度が必要なものは専門部署に依頼が来る。3Dプリンターを導入したから使うように、と強制するのではなく、継続的な社内PRを通じて毎日引き合いがあり、社内で活用が回っているというのが同社の姿である。

量産という頂を目指して

大岩氏が最終目標として見据えるのは量産である。記事では、トヨタがHP社のMulti Jet Fusionでスープラの補給部品を作っている事例にも触れられている。販売開始後すぐに楽天で購入し、実物を確認したところ、材料はPA12で、Fuseで使っているものと同じだったという。

fuse sift inside

造形を行う部屋は天井も高く空気清浄機も導入され快適な環境。粉末焼結の装置だけあってパウダー除去は専用装置で行う。後工程で使用するFuse Siftは相当使い込まれている様子がうかがえる。

保有機器の中期計画には、Jet Fusionのように造形エリアの広い粉末積層方式の機器導入も入っている。ただし、まずは小型でもFuseで技術を蓄積し、十分に使いこなせるようになってから次の段階へ進む考えだ。もっとも、Fuse自体も進化を続けているため、実際に何を導入するかは状況を見ながら決めることになる。

量産を頂上に見立てるなら、現在地は3合目か4合目。AMの進化は大きいが、富士山でいえば最後の岩だらけのところが量産というハードルだと大岩氏は語る。日本の製造現場で使えるレベルに到達するには、まだ道のりがある。それでも、できれば毎年1合ずつ上がっていきたいという思いがあり、自身の計画としてはもっと早く量産に適用できるよう持っていきたいと話している。

Fuseへの要望として挙げたのは、より大きな造形エリアと、MCナイロンに代われるくらいの物性を持つ材料だった。そうした条件がそろえば、現場は一気に切り替わるのではないかという見立てである。

取り組みは世界へ

今回ご紹介していただいたお取り組みを通して見えてくるのは、トップダウンで機種を押し付けるのではなく、複数の選択肢を示し、現場が実際に使って選ぶという考え方である。そこには、グループ内でも競争するという文化と、目的に対して最適な材料を起点に考えるという姿勢が通っている。大岩氏は、さらに2026年9月の国際技能五輪上海大会のAM(付加製造)職種で、同社から選出された日本代表選手の指導者として大会に参加する立場にあるという。豊田自動織機としてのAM技術へ取り組むスピードは、これからも加速してゆく。