〜 早稲田大学ロボコンサークルROBOSTEPがSLS 3Dプリンタで実現した次世代ロボット開発 〜
早稲田大学の公認サークル「ROBOSTEP(ロボステップ)」は、NHK学生ロボコンやABUロボコンでの優勝を目指し、ロボット開発に取り組むグループだ。サークルが長年抱えてきたのは、加工精度と部品強度の限界という根本的な壁だった。アルミ角パイプや家庭用FDM 3Dプリンターでは実現できなかった設計が、Formlabs社のSLS方式3Dプリンタ「Fuse 1+30W」の導入によって次々と可能になっている。
幹事長(2024年度ロボコンサークル代表)の渡邉 開さんに、その変化の軌跡を語ってもらった。
優勝を目指す50名の挑戦者たち
早稲田大学の一角に、ロボットの開発に取り組むメンバーが集う部屋がある。そこが、2013年に創設された公認サークル「ROBOSTEP」の活動拠点だ。メンバー全員がNHK学生ロボコン、そしてアジア大会であるABUロボコンでの優勝という一点に向かって突き進んでいる。
バスケットボールを運搬してゴールに投入するロボットを設計 開発 製造している
幹事長を務める渡邉 開さんは、基幹理工学部電子物理システム学科の3年生だ。技術の最前線で戦うサークルのリーダーとして、公認サークルが取り組むロボットの製造プロセスの改革を牽引してきた一人でもある。
「私たちはロボット操縦だけでなく、設計・製作の段階から全員で取り組んでいます。競技で勝つためには、機体の性能を限界まで引き出す必要があります。そのためには、加工精度の壁をどう乗り越えるかが、ずっと大きなテーマでした」
渡邉さん
課題:アルミ、MDF、そしてFDMの壁
ROBOSTEPが初期の頃に多用していたのは、アルミ製の角パイプとレーザーカットした板材だ。構造材としての汎用性は高い一方、複雑な形状が求められる部分では限界があった。そのような箇所には、自由な形に切り出せるMDF(中密度繊維板)を活用していた。
家庭用FDM*(熱溶解積層方式)3Dプリンターの普及によって状況は変わった。サークルもいち早くFDMを導入し、MDFで作っていたパーツをプリント部品に置き換えていった。しかし、実際に競技で使い込むと、FDMの限界が次第に浮き彫りになってきた。
*編集注:「FDM」は、アメリカのStratasys社が開発・保有する熱溶解積層方式の登録商標であり、一般名は「FFF(Fused Filament Fabrication)」となります。
FDM方式で直面した3つの壁
- 【精度の限界】 逆テーパー形状の造形が難しく、複雑な形状ではサポート材が不可欠となる。サポート材が付着した面は寸法精度が出ず、設計通りの仕上がりにならない。
- 【熱収縮による寸法誤差】 造形中の熱膨張・熱収縮により、部品のサイズが安定しない。特に精密なはめあいが必要な箇所では、クリアランス調整に多大な時間を要していた。
- 【積層方向の強度不足】 積層方向に対して機械的強度が低いため、計算上は問題のない負荷であっても、繰り返し使用するうちに積層面から割れてしまうケースが続出。競技本番での信頼性に課題があった。
FDMはあくまで「補完的な手段」にとどまらざるを得なかった。より高度な設計を実現するためには、根本的に異なるアプローチが必要だった。
転機:SLS方式「Fuse 1+30W」との出会い
そんなROBOSTEPが選んだのが、Formlabs社のSLS(選択的レーザー焼結)方式3Dプリンタ「Fuse 1+30W」だ。FDMとは根本的に異なる造形原理を持つSLS方式は、サポート材が不要で、複雑な形状でも高精度な造形が可能という特徴を持つ。
初めてFuse 1+30Wで部品を出力したとき、渡邉さんはその精度に驚いたという。
「精度だけでなく、部品の厚みや大きなサイズのはめあいが実現できたことが最大の驚きでした。これまでクリアランス調整に費やしていた時間が、ほぼゼロになったんです。出力した部品をそのまま持ってきて組み上げられる。加工・組み立てにおいて、本当に大きな進歩でした」
渡邉さん
従来のFDM方式では、複雑で小さな空間にパーツを詰め込む設計は「不可能」に近かった。しかしFuse 1+30Wの登場によって、そうした設計上の制約が一つひとつ取り除かれていった。
実績:インホイール オムニユニットの実現
競技ロボットの移動に使われるオムニホイールは、通常、ホイールとモーターを別々に配置する構造が一般的だ。しかし渡邉さんたちはかねてから、ホイールの内部にモーターを収める「インホイール化」を構想していた。実現すれば、駆動ユニットを大幅に小型化でき、機体の設計自由度が劇的に向上するからだ。
Fuse 1+30W導入による最大の成果が、「インホイール オムニユニット」の開発だ。(左がFDMを使用した旧式のホイール。右がFuse部品を採用したインホイール オムニユニット。)
だが、FDMや手加工では精度と強度の両方が足りず、長らく断念を余儀なくされてきた。その夢を現実にしたのが、Fuse 1+30Wだった。
「Fuseで作った部品を使うことで、モーターの頭をホイール内に埋め込むことが初めて可能になりました。これまでのサークルの加工技術では、精度も強度も足りなかったんです。それが一気に解決したのは、本当に大きかった」
渡邉さん
インホイール化の恩恵は、競技戦略にも直結した。今年度の競技では、機体内部にボールを取り込む必要があった。しかし従来の駆動ユニットのままでは、モーターが干渉してしまいスペースの確保が困難だった。インホイール化によってユニットが小型化されたことで、干渉を避けつつ機体サイズを維持したまま、ボール取り込み機構を搭載することが可能になったのだ。
「インホイール化によってスペースが生まれたことで、試合として成立させるための機構をしっかり搭載できた。これが今年度の最大のメリットでした」
渡邉さん
モーターを車輪に内蔵するホイール設計に変更したことで、機体の中にボールを取り込めるようになった
導入効果まとめ
- 精度向上:高い寸法精度により、大型部品から精密なはめあいまで安定した造形が可能に
- 工数削減:クリアランス調整がほぼ不要となり、プリント後そのまま組み立てられる
- 強度改善:積層方向の脆弱性が解消され、繰り返し使用にも耐えうる強度を確保
- 設計自由度の向上:サポート材不要により複雑な形状・内部構造の造形が可能に
- 専用設計へのシフト:汎用部材から脱し、競技タスクやオブジェクトに最適化された専用設計パーツの製作が実現
SLS(粉末焼結積層造形)タイプの3Dプリンタで造形したパーツを使用することで、切削板金部品の構成では本来220mm 四方の面積を占めていたホイール(左)のデザインを150mm 四方(右)に収めることが出来た。(実際にはFDMパーツからSLSパーツへ移行)
同様に、切削板金部品の構成では本来82部品で286gであったはずのロボットハンド(左)のデザインが24分品で113gのみに収めることが出来た。
今後の展望:「専用設計」という新たな地平へ
Fuse 1+30Wの導入は、ROBOSTEPにとって単なる工具の更新ではなかった。設計思想そのものを変える転換点となった。
アルミ角パイプやMDFを組み合わせていた時代、FDMプリンターを使っていた時代を経て、ROBOSTEPは今、3Dプリンターの真の強みを最大限に活かす段階へと踏み込もうとしている。それは、扱う対象に対して最適な形状を一から設計する「専用設計」だ。
「3Dプリンターの一番の強みは、扱う対象物に対して最適な形状を自由に出力できることだと思っています。これからはより洗練された専用設計、つまり特定のタスクやオブジェクトに徹底的に特化した設計・加工方法をどんどん取り入れていきたいと考えています」
渡邉さん
精度と強度の限界を乗り越え、競技ロボットの可能性を広げ続けるROBOSTEP。Fuse 1+30Wを手に入れた彼らの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
【インタビュイープロフィール】
- 渡邉 開(わたなべ かい)
- 早稲田大学 基幹理工学部3年(電子物理システム学科)
- 早稲田大学 公認サークル「ROBOSTEP(ロボステップ)」幹事長
- 専門分野:電子物理システム、ロボット機構設計・製造プロセス最適化
※本記事はインタビュー取材にもとづき、編集部が再構成したものです。