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食品衛生法適合レジン×設計支援AIが導く未来。Form 4と新素材が「身体に寄り添う道具」の開発を加速させる

3Dプリントはこれまで、試作や検証のために使われることが多い技術であった。しかし、 素材とツールの進化によって精度/スピード/性能が向上したことで、設計から実用化までをユーザーと共に短いサイクルで繰り返す、新たなものづくりの形が現実のものとなりつつある。

食品衛生法適合レジン×設計支援AIが導く未来。Form 4と新素材が「身体に寄り添う道具」の開発を加速させる

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3Dプリントはこれまで、試作や検証のために使われることが多い技術であった。しかし、 素材とツールの進化によって精度/スピード/性能が向上したことで、設計から実用化までをユーザーと共に短いサイクルで繰り返す、新たなものづくりの形が現実のものとなりつつある。

Formlabsの高速光造形3Dプリンター「Form 4」は、造形方式の刷新による高速化に加え、条件を満たしたサードパーティ製材料にも対応する「Open Material Mode」 を搭載した。Formlabs公式の素材に加え、各社がニーズに合わせて開発した素材を、用途に応じて活用できる環境が整っている。

この技術的基盤が、口に入れても安全な食品衛生法適合レジン「エキマテ」 と、家族を支えたいという個人の切実なニーズ、そしてAIによる直感的な設計支援を結びつけた。 2025年度の東京ビジネスデザイ ンアワードで発表された「AI設計支援による3Dプリ ント身体適合型生活道具の提案」は、素材とツール、そして新たなデザインプロセスによって生まれた、これからのものづくりの可能性を象徴するプロジェクトである。

food safe 3d printed cutlery

素材メーカー、デザイナー、ニーズを持つ当事者、そしてエンジニア。それぞれの視点が交差した本プロジェクトの全体像を、関係者の声とともに紐解いていく。

取材ご協力:

Expert Material Laboratories株式会社:代表取締役CEO 野田裕介様

STUDIO JIN:平瀬尋士様、平瀬おとは様

未来工藝研究所:山岸将大様

個別のニーズから生まれた特別なカトラリー

2026年4月、東京都品川区のFormlabsショールームに、プロジェクトのメンバーが集まった。テーブルの上に並べられていたのは、どこか見慣れない形をしたカトラリーの数々であった。持ち手がゆるやかにねじれていたり、リングがついていたりと、一つひとつが異なる形状をしている。

food safe resin ai custom cutlery

このプロダクトの開発において、機能検証やフィードバックの中心を担ったのが、平瀬おとはさんである。彼女には橈側列(とうそくれつ) 形成不全という、10万人に一人と言われる特性があり、生まれつき両手の親指がなく、他の指も曲がりづらい状態にある。

プロダクトデザイナーの平瀬尋士さんは、娘であるおとはさんの手に合う道具を模索し、これまでにも3Dプリンターを活用した試作を重ねてきた。しかし、身体に触れる道具の開発においては、素材の安全性や仕上がりの品質が大きな課題となっていた。

food safe 3d printed cutlery

そこで採用されたのが、食品衛生法適合レジン「エキマテ」であった。さらに、最適な形状を効率よく導き出すため、未来工藝研究所による対話型AIモデリングツールを導入した。 Form 4の「Open Material Mode」 によって出力されたエキマテ製のカトラリーは、口に触れる用途にも対応可能な素材であり、高い造形精度で利用時に違和感もない。素材と設計、そして個人の切実なニーズが結びつく ことで、特別なプロダクトが形になろうとしている。

食品衛生法適合レジン「エキマテ」が広げる、光造形の可能性

プロジェクトが本格的に始動するきっかけとなったのは、Expert Material Laboratories株式会社(以下、 エキマテ社) が東京ビジネスデザイ ンアワードに参加したことであった。

このアワードは、都内の中小企業が持つ優れた技術や素材と、デザイナーの自由なアイデアをマッチングさせ、新たなビジネス創出を目指すコンペティションである。技術を持つ企業が選出され、その素材をテーマにデザイナーから企画を募るプロセスの中で、エキマテ社と平瀬氏は出会った。

そもそも、エキマテ社はどのような想いで素材開発に取り組み、このアワードに応募したのか? 代表の野田裕介氏に話を伺った。

Expert Material Laboratories ceo

Expert Material Laboratories株式会社 代表取締役CEO 野田裕介氏

プロジェクトが本格的に始動するきっかけとなったのは、Expert Material Laboratories株式会社(以下、エキマテ社) が東京ビジネスデザインアワードに参加したことであった。

このアワードは、都内の中小企業が持つ優れた技術や素材と、デザイナーの自由なアイデアをマッチングさせ、新たなビジネス創出を目指すコンペティションである。技術を持つ企業が選出され、その素材をテーマにデザイナーから企画を募るプロセスの中で、エキマテ社と平瀬氏は出会った。

エキマテ社がどのような想いで素材開発に取り組み、このアワードに応募したのかについて、代表の野田裕介氏は、自身が3Dプリンターのユーザーとして当時の装置や材料に不便さを感じていたことが原点であったと振り返る。印刷後の有機溶剤による洗浄には手間がかかり、水洗い可能とされるレジンでも、適切な処理方法や安全性の確認が十分になされているものは多くなかった。そのため、自分自身が心から使いたいと思える安全な材料を自分たちの手で作ろうと考えたという。エキマテは発がん性物質やアレルギー物質を排除し、  業界に先駆けて食品衛生法にも適合している。台所用洗剤と水道水で洗浄できるため、特別な有機溶剤も不要であり、水道さえあれば扱えるこの手軽さが、光造形のハードルを大きく 下げると考えている。

エキマテは安全性の高さを活かし、研究・教育分野やメディカル用途で広がっている。

Expert Material Laboratories 代表取締役CEO 野田氏

たとえば脳神経外科では、CTデータをもとに疾患部位を3D化し、手術前のシミュレーションに活用されている。事前に状態を把握できることで、より安全で精度の高い手術につながるという声も寄せられている。また、有機溶剤や産業廃棄物の問題が解消されたことで、一般的なオフィ スの執務環境でもそのまま造形できる点も大きな特徴である。 特別な設備を持たない企業でも、デスクの上で気軽に試作を行えることから導入につながっている。さらに、食品衛生法に適合しているため、和菓子の押し型といった食品器具など、これまでのレジンでは難しかった食品関連用途での利用も始まっているという。

form 4 printer

Form 4とエキマテでカトラリーを造形する様子

「Open Material Mode」 によって、サードパーティである自分たちの素材でも、 非常に高い精度と安定性をもって出力できるようになった。

Expert Material Laboratories 代表取締役CEO 野田氏

Form 4でエキマテを造形して、どのような印象だったのか。野田氏によれば、体感では他社機の約2倍のスピードで造形が完了し、試作開発を大きく 加速できると感じているという。特に印象的だったのは制御の細やかさであり、一般的な光造形機では照射時間程度しか調整できない一方、Form 4では光の強度そのものを制御し、モデルの部位やサポート の接触面ごとに最適化が可能である。この自由度の高い設定によって、造形中の脱落を防ぎつつ、サポート材を取りやすくするなど、素材の性能を引き出すための調整がソフトウェア側で完結する。リブやスリットといった微細な形状も高い精度で再現されており、理想的な仕上がりを実現できたとしている。

カトラリーのような口に触れる繊細な造形物においては、今回はおとはさんが使うものという前提があったため、サポート材の痕跡を残さないよう、最小限のサポートで造形することにこだわったという。通常であれば重力や剥離抵抗の影響で脱落してしまうような条件でも、 Form 4は造形時の抵抗が非常に少ないため、安定して出力することができた。その結果、 後加工で削ることなく、そのまま口に入れられるほど滑らかな仕上がりを実現できた。 Form 4とエキマテの組み合わせによって、そのまま使える品質に到達できたことは、今回のプロジェクトにおける大きな収穫であった。

今回は「おとはさんが使うもの」という前提があったため、サポート材の痕跡を残さないよう、最小限のサポートで造形することにこだわった。

Expert Material Laboratories 代表取締役CEO 野田氏

カトラリーのような、口に触れる繊細な造形物において、工夫したポイントは何か?野田氏によれば、通常であれば重力や剥離抵抗の影響で脱落してしまうような条件でも、Form 4は造形時の抵抗が非常に少ないため、安定して出力することができたという。

その結果、後加工で削ることなく、そのまま口に入れられるほど滑らかな仕上がりを実現する。Form 4とエキマテの組み合わせによって、そのまま使える品質に到達できたことは、今回のプロジェクトにおける大きな収穫だったという。

3d printed food safe cutlery

後加工は必要最小限に抑え、なめらかな仕上がりを実現している。

それまでエキマテは研究や教育機関での利用が中心であったが、まだ自分たちが気づいていない切実なニーズがあるはずだと感じていた。

Expert Material Laboratories 代表取締役CEO 野田氏

デザインアワードに応募し、外部のパートナーを募ったのはなぜか。野田氏によれば、アワードを通じてデザイナーの視点が加わることで、素材の新たな可能性を引き出せるのではないかと考え、応募に至ったという。平瀬氏たちとの出会いは、まさにその期待に応えるものであった。光造形はこれまで食品用途には使えないという前提があり、医科や歯科など専門的な業界を除き、口に入れる発想自体が乏しいものであった。そこに新しい使い方を提示できたことで、今後は多品種小ロットの食品器具や、個別のニーズに応じたプロダクト開発など、これまで光造形が使用できなかった領域にも活用の幅を広げられる可能性を感じているという。

親子の対話から生まれた「普通」を叶えるための道具

プロダクトデザイ ナーとして活動する平瀬尋士氏は、個人でも3Dプリンターやレーザー加工機を駆使したものづくりを続けてきた。娘であるおとはさんのために、身体に合う道具を作ろうと長年試行錯誤を重ねてきたが、身体に触れる道具の開発には安全性と造形精度という大きな壁が立ちはだかっていたという。

そんな中、エキマテの情報を目にした平瀬さんは「これだ!」と直感したという。これまでのハードルをどのように乗り越えてきたのか、今回のプロジェクトがもたらした変化についてお話を伺がった。

STUDIO JIN

STUDIO JIN 平瀬尋士氏と、娘のおとはさん

平瀬氏は、 普段はプロダクトデザインをメインに、日用品のデザイ ンや伝統工芸品のプロデュースなどを行っている。 業務での試作に3Dプリンターを使うだけでなく、個人でもランプなどの最終製品を制作し、ネット販売もしている。最近はAIツールを活用し、手書きのスケッチをベースにデザインを生成するといった新しい試みも取り入れている。また、 生まれつき親指のない娘さんの手に合わせて、演奏しやすいリコーダーの補助具などの試作を繰り返してきた。ただ、以前利用していた家庭用の熱溶解積層(FFF)方式のプリンターでは、実用レベルのクオリティを出すのが難しかったという。印刷時間の長さに加え、表面の積層痕による触感の悪さも、身体に触れる道具としては大きな課題になっていた。

food safe 3d printed cutlery

平瀬氏が保有するFFF方式の3Dプリンターによる試作品。積層痕やサポートを剥がした後のバリが残ってしまっている。

アワードの説明会で野田さんの発表を聞いた瞬間、平瀬氏はこの素材は使えると確信したという。娘さんに直接頼まれたわけではなかったが、口に入れても大丈夫な素材であればカトラリーが作れると考えそこから話がスムーズに進んでいった。実は20年ほど前、仕事でも光造形機を使っていたが、当時は口に入れても大丈夫な製品が作れるとは思っていなかった。 平瀬氏の妻もアクセサリーのデザインをしているが、アレルギーの懸念から光造形は避けていたという。エキマテであれば身の回りのものが作れる可能性があり、活動の幅も広がるように感じているそうだ。

people looking at 3d prints

実際にForm 4で造形したカトラリーについて、平瀬氏は、そのまま口に入れて試せる安心感があるだけで、フィードバックの質が劇的に変わったと語る。以前の試作品は手に持つことはできても、積層痕や安全性の観点から口に入れる検証には限界があった。エキマテで光造形したことで、スプーンのわずかな厚みの違いや、形状による口当たりの変化をダイレクトに確認できるようになった。より踏み込んだ意見が引き出せるようになり、どの角度でも口に入れやすい形がよいという話から、従来の楕円形ではなく、丸型をベースに検討するようになったという。おとはさんも、以前の3Dプリ ンターで作ったものは表面がギザギザしていて、あまり口に入れたく なかったが、今回の素材は滑らかでツルツルしており、これなら大丈夫だと思えたと受け止めているそうだ。

food safe 3d printed cutlery

Form 4とエキマテによって造形された、2通りの持ち方ができるスプーンの試作品。

うねりやリングを持つものなど、スプーンにはさまざまな形状が試された。平瀬氏は当初、 指を差し込んで挟めるような特殊な形状を検討していた。しかし、娘さんとの対話を重ねる中で見えてきたのは、あまり特殊な形にはしたくない、まわりと同じ普通がよいという本音であった。そこで、普段使っていたスプーンをベースに、持ち手の形状のみを最適化する形に落ち着いた。元のスプーンにあったイラストや文字もデータに落とし込まれ、造形物にもしっかり反映されていたという。おとはさんは、出来上がったものは机に置いたときに自立して、すぐ手に取れる形になっているので使いやすく、すくいやすくて食べやすいところが気に入っているという。イラストについてはお父さんが入れたため少し違和感もあるものの(笑)、再現度は高いと感じているそうだ。

food safe resin ai custom cutlery

スプーンに入れたイラストも、くっきりと造形されている。

制作環境の変化について、従来の3DプリンターとCADでは、一から設計すると数週間かかっていたプロセスが、今では一日あれば回せるようになった。

STUDIO JIN 平瀬尋士氏

デザイン案をその日のうちに数十案出し、そのまま実用レベルで出力できるこのスピード感は、ものづくりにおいて決定的な変化である。現状でも、ポンチ絵程度のスケッチが1〜2分で立体になるAIのスピードには驚かされるが、細かな調整には人の意図を反映させる仕組みが必要である。その絶妙な匙加減をコントロールするための仕組みづくりを、 未来工藝研究所の山岸さんに依頼し、現在さらに精度を高めているところである。

完成品ではなく「仕組み」を届ける。AIが埋める設計者とユーザーの距離

3Dプリンターによって試作のスピードは大きく向上したが、その核となる3Dデータを作成するプロセスは、依然としてボトルネックになりがちだ。平瀬氏も生成AIを活用していたが、細かな形状の調整や、既存の形状から大きく逸脱するデザインを実現するには、どうしても人の手による作業が必要だった。

そこで、より直感的かつ高精度な設計フローを実現するために加わったのが、デザインと工学をバックグラウンドに持つ有志団体「未来工藝研究所」だ。彼らがなぜこの課題に応えられたのか、メンバーの山岸将大さんに話を伺がった。

person with laptop

未来工藝研究所 山岸将大氏

未来工藝研究所は、ものづくりとデジタルテクノロジーを掛け合わせて、既存のものづくりを拡張することに取り組んでいる。たとえば、メンバーの一人が木工職人になったことをきっかけに、日本の伝統工芸である組子にウェブテクノロジーやAIを掛け合わせるプロジェクトが始まった。日本のものづくりが持つ歴史や細部へのこだわりをリスペクトしながら、 テクノロジーによってその表現をさらに広げていくという考え方を軸に活動している。

kumiko ai

未来工藝研究所が手がけた、組子のデザインを進化させるツール「kumiko AI」(未来工藝研究所のWebサイトより引用)

未来工藝研究所は、単に一つの作品を作るのではなく、物理的なものづくりとデジタルシステムをどうつなぐかという設計プロセスそのものを仕組み化することに興味を持っている。

未来工藝研究所 山岸将大氏

山岸氏個人としても以前、動物のための車椅子を3Dプリンターで作っていた経験があり、平瀬氏から話を聞いたときに、自分たちの技術で貢献できるのではないかと感じたという。

今回開発されたカトラリーの設計支援AIは、 市販のカトラリーでは使いにくさを感じる方がいる一方で、それを個別に最適化するハードルがまだ高いという現状を踏まえ、特定の完成品を作るのではなく、誰でも使いやすい形を自ら探索できるシステムとして提案された。 具体的には、平瀬親子へのヒアリングを通じて、持ち手の太さや指を通す穴の位置などをパラメーターとして抽出した。 ChatGPTやGoogle Geminiのようなチャット型の操作も取り入れ、スライダー操作に加え、テキストや音声で要望を伝えることで形状が変化する仕組みにしている。3Dモデリングの知識がなくても、直感的に形状を調整できるジェネレーターを構築したことがポイントである。

laptop

AI設計支援ツールを使用して、スプーンの形状を検討する様子。

ai chat

AIとの対話形式でリアルタイムにモデルが変化する。※こちらのAI支援ツールは本プロジェクトの検証用となっておりAI支援アプリの公開は現在未定。

これまでは熱溶解積層(FFF) 方式の3Dプリンターを扱うことが多く、造形しやすさを考慮して設計に制約を設けるのが当たり前であったが、Form 4での仕上がりを見て、その精度の高さと安定性に驚かされた。

未来工藝研究所 山岸将大氏

細いパーツや複雑な曲面でも、出力時の向きをほとんど気にせず、データ通りに滑らかに再現される。この安心感によって、どう造形するかという制約から解放され、どうあるべきかに集中できるようになった。思考のポケットが一つ増えたような、設計の自由度を広げてもらった感覚があるとしている。

food safe 3d printed cutlery

多種多様なカトラリー。ユーザーの声を設計に反映しながら、最適な形やシステムを探索していく。

実際にシステムを運用してみると、おとはさんが率直に感想を伝えることができたため、それを受けて即座にシステムを調整し、出力して試すサイクルを非常に短いスパンで回すことができたという。システム側で数時間の間に何十種類もの案を生成し、それをすぐに物理的な形として検証できる。ユーザーとプロダクトが一気通貫でつながるプロセスは、新しいものづくりのかたちである。今後は、手をスキャンするだけで最適な形状が自動生成されたり、 握ったときの圧力分布から理想的な形を導き出したりと、一人ひとりに寄り添う設計のあり方をさらに探っていきたいと考えている。

コラボレーションが照らした、これからのものづくり

これまでオンラインでのやり取りを中心に進めてきたメンバーにとって、同じ場所に集まるこの日は貴重な機会であった。プロトタイプや開発中のシステムを前に語り合う様子からは、プロジェクトを通じて築かれた信頼関係が感じられる。

素材、デザイ ン、ツール、そして個人のニーズ。そのどれが欠けても実現し得なかった本プロジェクトは、これからのものづくりの方向性を示すものでもある。最後に、それぞれの立場から今回の取り組みを振り返り、未来への展望が語られた。

people looking at 3d prints

野田氏は、アワードでは多くの方から提案を受けたものの、最終的に平瀬氏に依頼したのは、社会課題の解決という点において、自身も強く当事者性を感じ、他人事ではないと受け止めたからだとしている。 エキマテが食品用途だけでなく、子どもでも安心して使える素材として役に立てたことは、開発者として一つの大きな成果であった。日本は技術の国であるが、アイデアをいかに早く形にできるかが、今後ますます重要になる。今回のプロジェクトを通じて、3Dツールが社会課題の解決に寄与できることを改めて実感したという。おとはさんのような世代が、こうしたツールを使って自ら課題に向き合い、解決していく未来をこれからも支えていきたいと考えている。

山岸氏は、今回、おとはさんが素直に感想を伝えてくれたおかげで、非常に短いスパンのPDCAを回すことができたと振り返る。 これからも、大量生産時代には行き届かなかったニッチなニーズや、ハードルの高い領域に寄り添っていきたいと考えている。数時間のうちに何十種類もの案を作れるシステムの面白さはもちろん、それを物理世界に落とし込んで初めてわかる、見た目だけではない良さも改めて実感できたという。理論だけで終わらせず、実体験まで一気通貫でつなげられるのは、今のものづくりにおける非常にエキサイティングな変化である。

people looking at 3d prints

平瀬氏は、これまで1日以上かかっていたデータ作成が数分に短縮され、そのまま口に入れられる品質で出力できるスピードと精度は、これまでのものづくりの常識を大きく変えるものだと感じたという。理想は、デザイナーが介在しなくても、使う本人が自ら形にして、そのまま使えるようになることであり、そんな未来も近づいていそうだと見ている。 今後はカトラリーに限らず、手や足などさまざまな身体特性に合わせた道具が、もっと身近に作れるようになればと考えている。できれば娘さんも交えながら、障害者施設やリハビリの現場に関わりつつ、一緒にものづく りをして、自分たちで考えて形にできる体験を広く伝えていきたいという。

つくる人とつかう人が、より身近になる未来へ

group of people

今回のプロジェクトが示したのは、技術の進化によって、個人の切実なニーズを形にするまでの心理的・物理的な距離が大きく縮まりつつあることである。

これまでは、たった一つのものを作るためにも、多大なコストや時間、専門的な知識が必要であった。しかし、Form 4というプラットフォームがエキマテなどの素材を受け入れる「Open Material Mode」 を備え、さらにAIによる設計支援が加わったように、開発のプロセスは劇的な変化を見せている。

安全な素材を届けたいという作り手の想い、設計を「仕組み」として捉え直す探究、そして個人の生活に根ざした具体的なニーズ。こうした要素がForm 4を介して結びつき、極めて短いサイクルで試行錯誤を重ねられる環境が生まれた。そこには、大量生産の論理では拾いきれなかった課題に対して、個人が直接応答していく新しいものづくりの姿がある。

素材も、ツールも、そしてAIも、すべては人の選択肢を広げるための手段である。誰かに作ってもらうのを待つのではなく、使う人自身の手で理想を形にする。そんな変化は、すでに私たちの日常の延長線上にあるようである。