最高の音色を求めて:Fuse SLSプリンタで作るカスタムミュート

楽器の設計と製作は、テクノロジーとアートが一体となって美しいものを生み出せる分野です。S-Muteでは、オーナーのNathan Sobieralski氏がトランペット演奏の豊富な経験と3Dプリントを融合し、急成長中のワンマン企業として成功を収めています

SLS(粉末焼結積層造形)方式のFuseシリーズを活用しながら革新的なトランペット/トロンボーン用ミュートを開発し、量産体制に移行したSobieralski氏は、デザイナー、オペレーター、出荷までのフルフィルメントを一人で担いながら、強固な顧客基盤と機敏な製造プラットフォームを確立しています。

「昔からプロダクトデザインと製造エンジニアリングに興味がありました。今の時代の素晴らしさは、思いついたアイデアを、私でもこうして実際に具現化できることです。Fuseシリーズのエコシステムは、業務用品質のものづくりに非常に向いています」

S-Mute オーナー、Nathan Sobieralski氏

演奏、方向転換、プロダクトエンジニアリング

S-Muteの製品群(3Dプリント製トランペット用ミュート)

Sobieralski氏の製品カタログは幅広い。SLS 3Dプリントにより、高まる需要への対応に欠かせない何千個もの個別部品をバッチ生産できるように。

Sobieralski氏は幼少期からトランペットを演奏し、その実績を裏づける博士号も取得しています。芸術性の探求とその普及活動に情熱を注ぐ彼は、カリフォルニア州立大学フレズノ校のトランペット教授を務める一方、フレズノ・フィルハーモニック(Fresno Philharmonic)とセコイア交響楽団(Sequoia Symphony)でも演奏しています。

演奏の芸術性に興味とキャリアの主軸を置きつつも、物がどう作られ、どう組み合わされ、いかに既存設計を改良するのか、といった製造面にも常に関心を寄せてきました。エンジニアリングの優れたアイデアの多くがそうであるように、S-Muteもまずは彼自身が日頃から感じていた非効率を解消するところから始まりました。

金管楽器では、音色を変えるためにベルに挿入する「ミュート」を用いることがありますが、挿入する深さによってはチューニングやピッチに望ましくない形で影響が出ることがありました。このチューニングの問題に対処するため、奏者は通常、ミュートのコルクの厚みを手で調整し、ベル内での挿入深さを変えることでピッチを合わせます。S-Muteが登場する以前は、奏者はコルクをヤスリで削っては調整し、より深い位置で狙い通りの効果が得られることを祈るしかありませんでした。しかし見込み違いに終わることも多く、そのたびに新しいコルクで最初からやり直しが必要でした。

トロンボーンのベルに差し込まれた金属製ミュート

ミュートはベルに挿入して音を変化させる器具。挿入深さを誤るとチューニングやピッチに悪影響を及ぼすことがある。

「ずっと考えていたんです。『厚みの違うコルクを簡単に挿入・取り外しできるような仕組みだったら、新しいコルクを削り直すことなく必要な時に正確な微調整ができるのに』と」というSobieralski氏は、こうして新しい製品を生み出し、プロダクトエンジニアとしてのキャリアを歩み始めることになりました。

初期段階のデザイン開発

FDM方式とSLS方式で3Dプリントしたトランペット用ミュート

Sobieralski氏の最初の設計はFDM 3Dプリンタで試したが、大がかりな後処理が必要だった(左)。一方、SLSで作ったミュート(右)は、積層痕が目立たないためサンディングで消す必要もなく、求める設計自由度と寸法精度を実現できた。

CADソフトウェアの使用経験があったSobieralski氏は、パンデミック時に息子のために購入していたFDM(熱溶解積層)方式プリンタで初期設計の試作を開始しました。金管業界でも3Dプリント製のミュートは製作が試みられていましたが、その多くは安価なFDMを利用したもので、Sobieralski氏が思い描いていたようなモジュール式の革新的な製品はありませんでした。

「うまく機能するシステムを編み出すことができ、開始から1年以内に特許も取得しました。それ以来、実使用するミュートを、まずはエントリーレベルのFDM、次に大型のCoreXY FDMで試し、現在はSLSとFuseで生産しています」と言います。

安価なFDMは初心者にもよく知られており、試作品を作って初期コンセプトを演奏家仲間に示すには最適でした。しかし事業が急拡大しより多くの生産が必要になるにつれ、一貫性の欠如が障害になったと言います。「思い通りの出来にするためには、ファームウェアの調整を色々としなければなりませんでした。FDMでもできることはわかっていましたが、高価なプリンタでさえ調整に色々な工夫が必要で、かつ後処理にも多くの時間を費やさなければなりませんでした」とSobieralski氏は言います。

ミュートは、交響公演やそのほかの非常にフォーマルな場も含め、演奏中にも使用されるプロフェッショナルなツールです。楽器のすべてのパーツがプロらしい見栄えと、舞台での体験に調和する必要があります。FDM製のミュートでも必要な機能は果たせますが、フィラメントやメーカーの違いによるばらつきを抑え、機能と外観を両立させるのに多大な時間がかかります。「ロットごとに見た目が変わったり、水の浸入に悩まされたり、本当に一貫性がないんです。造形にも時間がかかり、プリントベッド上でしっかりプリントできるよう形状を平らに保つ必要がありました。」

SLSとイノベーションの自由

楽譜の前に置かれた2つのトランペット用ミュート

左は従来型ミュートに、SLSで出力した着脱式コルクアダプターを装着したもの。右は非着脱式コルクが劣化した従来型のミュート。

他の3Dプリント方式を検討する中で、パウダーベッドが造形品を支えるSLSならではのメリットに目が留まったと言います。この方法であれば、トランペットのベル内部のような有機的な曲面も造形が可能だからです。

「SLSでは、あらゆる形状やジオメトリを造形できることを知りました。Formlabs製品で非常に印象的だったのは、ワークフローが非常によく設計されている点です。パウダーの取り扱いに躊躇していましたが、Fuse Siftを併用する運用は最も合理的だと感じました」

S-Mute オーナー、Nathan Sobieralski氏

従来のパウダーベッドフュージョン3Dプリンタと比較した場合に導入しやすい価格であるとはいえ、Sobieralski氏にとってFuseシリーズの導入は簡単な決断ではなかったと言います。事業を立ち上げたばかりで、投資はすべて自己資金だったためです。それでも、サンプルパーツを受け取り、事業ローンを組んだ後、2022年に初めてのFuseシリーズプリンタとFuse Siftを自宅に導入しました。

作業手順は一般的なFDMよりも複雑ですが、オンボーディングと最適化の段階ではFormlabsのサービスチームを積極的に活用しました。

「サービスは素晴らしかったです。どんな問題でも迅速かつ的確に対応してくれましたし、例えすぐに解決が難しい場合でも、期待以上のサポートで解決に向けて可能な限りの手を尽くしてくれました。サービスチームは、言葉では言い表せないくらい素晴らしいチームです」

S-Mute オーナー、Nathan Sobieralski氏

Fuseで量産ボリュームへ拡張

Fuseプリンタの設置スペース

Fuseシリーズのエコシステムはコンパクトなため、Sobieralski氏は既存の製造設備に多額の投資をしなくても完全に稼働する製造環境を立ち上げることができた。

Fuseシリーズのエコシステムは、従業員を増やすことなく、毎週数千個規模の実製品用部品をバッチ生産できる。

コミュニティや世界の金管楽器業界でSobieralski氏のデザインが知られるようになるにつれ、Fuseのワークフローを最適化する方法も学びました。ミュートのシェルとコルク部分の両方を造形するため、製品は機能的にフィットするアセンブリとして容易に組み合わせられる必要があります。「ミュート1つにつき、コルクの厚みは最大10種類用意していて、各厚みに対して3個ずつコルクを使います。今は一度に1,600個のコルクをプリントしています」とSobieralski氏。

2024年には需要の増加に対応するために追加投資が必要となりましたが、今回はこれまでの成功で完全に自力調達が可能になり、2台目のFuseシリーズプリンタを導入しました。現在はトロンボーン用ミュートの設計にも事業を広げています。「こちらも人気が出始め、トロンボーン用のミュートをたくさん作っています。本格的なボリュームであれば、ビルドチャンバー2つをいっぱいにして40個製作が可能です」

PreFormの配列・パッキング機能によってバッチ生産が容易になり、パウダーの使用も可能な限り効率的に行える。

Fuseシリーズが実現する高精度や厳しい公差により、かみ合わせ部品やスライド機構も容易に造形が可能。

プリンタを2台稼働させても、運用は依然として一人です。Fuseシリーズのワークフローがあれば、一人で生産・フルフィルメント・広報・営業まで担うことが可能です。最新のFormlabs Forumのレビューで、Sobieralski氏はこう投稿してくれました。「私の会社は、莫大なR&D予算や大勢の従業員を抱える大企業ではありません。私に必要なのは、ダウンタイムを最小限に抑えつつ、効率よく高品質なパーツを生産できるマシンです。Formlabsはまさにこのニーズに応えてくれました。」

Fuseシリーズの詳細については、各製品ページからご覧いただけます。材料の品質を実際に確認できる無償サンプルパーツのリクエストも受け付けています。お気軽にお申し込みください。