3Dプリントは、製品開発から量産工程に至るまで、あらゆる面でコスト削減や期間短縮を実現する技術です。ラピッドプロトタイピングでのコンセプトモデルや機能確認用試作から、治具、材料固定具、また実製品用パーツの製造まで、3Dプリントは様々な分野で多岐にわたるソリューションを提供します。
過去数年間で、高精度高精細な3Dプリンタが手頃な価格で手に入るようになり、使いやすさ、信頼性も向上しました。その結果、3Dプリントの導入は多くの企業で進んでいますが、一方で個別に進歩する3Dプリント方式から自社の想定用途に合う適切なものを選定することも難しくなっています。
自社の用途に最も適した造形方式はどれなのか、その造形方式ではどんな材料が使えるのか、運用するに当たって必要なものは何かあるか、使いこなすためにどんなトレーニングが必要か、そしてROI(投資対効果)はどう変わるのか。
本記事では、現在最も広く普及している樹脂3Dプリントの三大造形方式をご紹介し、それらを比較します。比較対象となる三大造形方式とは、FDM(またはFFF/熱溶解積層)方式、光造形(SLA)方式、そして粉末焼結積層造形(SLS)方式です。もしFDMとSLAの2方式だけを詳細に比較したいのであれば、FDMとSLAの詳細比較記事も併せてご覧ください。
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業務用3Dプリンタ選定時に知っておくべき6のこと
多くの情報が錯綜し、体系化された選定基準・手順が見当たらない3Dプリンタ。本記事では選定時に必要な情報を体系化し、やるべきことの順番と見るべきポイントをまとめています。
熱溶解積層法 (FDM)
熱溶解積層法 (FDM/Fused Deposition Modeling) はFFF (Fused Filament Fabrication) とも呼ばれ、マニア向け3Dプリンタの登場により、一般消費者の間で最も広く支持されている3D造形方式です。FDM方式の3D造形では、 熱可塑性材料を溶解させ、それをプリンタのノズルからビルドエリアに押し出して積層することでパーツを造形していきます。
FDAはABSやPLAといった標準的な熱可塑性材料とそれぞれのブレンド版に対応します。この技術は基本的コンセプト実証モデルや、通常機械加工されるようなシンプルな部品のプロトタイピングを素早く低コストで行うのに適しています。
FDMによるパーツは目に見える層線が残ったり、複雑なデザインの形状には誤差が出る場合があります。この用例は、Stratasys製uPrintの産業用FDM 3Dプリンタ (価格: 15,900ドル~)で、可溶性サポートを用いて造形したものです。
FDMの精細度や精度は、SLAやSLSに比べて最も低いため、複雑なデザインやディテールの凝った形状のパーツを造形するには最適な方法ではありません。FDMを用いたパーツをより上質に仕上げたい時は、化学的および機械的な研磨を後処理工程に加えることもできます。産業用FDM 3Dプリンタでは、こうした問題を軽減するために可溶性サポートを使うことができ、様々な工学用熱可塑性材料の利用が可能ですが、価格が大幅に上昇します。
FDMプリンタによる複雑なデザインやディテールの凝った形状のパーツ (左) とSLAプリンタ (右) によるものの比較。
光造形 (SLA)
光造形は世界初の3D造形技術として1980年代に発明され、現在プロフェッショナルな用途で最もよく使われる技術の1つです。SLA方式のレジン3Dプリンタは、レーザーを使った光重合という工程を通じて液体レジンをプラスチック固体に硬化させます。
光造形のプロセス。
SLA方式による造形物は、あらゆる3Dプリント方式の中で最も精細で高精度となり、鮮明なディテールと滑らかな表面品質を備えていますが、SLA方式最大の利点は、その汎用性にあります。多くの素材メーカーが、標準的、または工学用・産業用熱可塑性物質に備わっている様々な光学特性、機械的特性や温度特性に匹敵する特性を併せ持つように新たに調合した画期的なSLA用感光性レジンを開発しています。
SLA partsによるパーツはシャープな縁、滑らかな表面の仕上がり、層線が見えにくいといった特徴があります。この用例パーツはFormlabs Form 3 SLA方式デスクトップ型3Dプリンタ (価格: 3,499ドル~) を用いて造形したものです。
SLA方式の造形は、型、パターン、機能部品等、公差にシビアで、滑らかな表面が求められるディテールの凝ったプロトタイプに適しています。SLA方式は、工学用から、製造業、歯科、ジュエリー、モデル製作、教育分野における製品設計まで、様々な分野で幅広く使われています。
光造形 (SLA) 方式デスクトップ型3D造形技術について
高精細3Dモデルを製作できる3Dプリンタをお探しですか?SLAの造形工程、また非常に精細なモデル製作に適した3D造形に広く活用されている理由を知るには、弊社のホワイトペーパーをダウンロードしてください。
※本ホワイトペーパーは現在翻訳中です。近日のアップデートをお待ちください。内容の詳細は[email protected]までお問合せください。
粉末焼結積層造形 (SLS)
粉末焼結積層造形法 は、高強度な機能部品や製品の製作技術として様々な業界のエンジニアや製造業者の信頼を得て、最も普及している積層造形法です。
粉末焼結積層造形のプロセス。
SLS 3Dプリンタは、高分子粉末の微粒子を溶融するのに高出力レーザーを使用します。造形中は、未融合パウダーがプリント中のパーツを支えるため、専用のサポート構造は不要です。SLSは、内部の特徴、アンダーカット、薄壁や凹面等、複雑な形状の造形手法として適しています。SLS方式で3D造形したパーツは、射出成形したパーツに匹敵するほどの高い強度といった優れた機械的特性を有します。
SLSのパーツの表面は若干きめが粗い状態でプリントされますが、層の間の線はほとんど目視では確認できません。この用例パーツはFormlabs Fuse 1 ベンチトップ型 SLS 3Dプリンタ (価格: 18,500ドル~) を用いて造形したものです。
SLSに最もよく使われる材料は、優れた機械的特性を持ち、広く使われている工学用熱可塑性材料ナイロン素材です。ナイロンは軽量、高強度、高弾力性を特徴とし、衝撃、化学物質、熱、紫外線、水、土への耐性を有しています。
SLSは、パーツごとのコストの低さ、高い生産性、定評のある材料により、エンジニアに支持されている機能確認用プロトタイプ製造法で、また、限定生産やブリッジ生産を行う射出生成へのコスト効率の高い代用方法でもあります。
粉末焼結積層造形法 (SLS) 3D造形技術について
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FDM、SLA、SLS 3D造形技術の比較
各3D造形技術には、利点、欠点、設備要件があり、また、用途やビジネスのタイプにより適正は異なります。以下の表に主な特性と検討事項が要約されています。
熱溶解積層法 (FDM) | 光造形 (SLA) | 粉末焼結積層造形 (SLS) | |
---|---|---|---|
精細度 | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
精度 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★★ |
表面仕上げ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
スループット | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
複雑な設計 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ |
使いやすさ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ |
利点: | 高スピード 低コストの一般消費者用マシンと材料 | 高い有効性 高精度 滑らかな表面仕上がり 幅広い機能的用途 | 高強度の機能製パーツ 自由度の高いデザイン サポート構造不要 |
欠点: | 低精度 少ないディテール 対応デザインの制限 | 紫外線の長時間露光への耐性の低さ | 地の粗い表面仕上がり 材料の選択肢の制限 |
用途 | 低コストラピッドプロトタイピング 基本的コンセプト実証モデル | 機能確認用プロトタイピング パターン、型、ツーリング 歯科用途 ジュエリープロトタイピングと鋳造 モデル製作 | 機能確認用プロトタイピング ショートラン、ブリッジ、カスタム製造 |
造形容積 | 最大300 x 300 x 600mm (デスクトップやベンチトップ型3Dプリンタ) | 最大300 x 335 x 200mm (デスクトップやベンチトップ型3Dプリンタ) | 最大165 x 165 x 300mm (ベンチトップ型工業用3Dプリンタ) |
材料 | ABSやPLAといった標準的な熱可塑性材料とそれぞれのブレンド版。 | 様々な系統のレジン (熱硬化性樹脂) スタンダード系、エンジニアリング系 (ABS、PPやシリコンのような高弾力性、耐熱性が備わっているレジン) 、鋳造可能な種類、歯科や医療系 (生体適合性) | 工学用熱可塑性材料。Nylon 11、Nylon 12、それらの複合材料 |
トレーニング | 設定、機械の操作、仕上げに関する基礎トレーニング; メンテナンスに関する簡易トレーニング。 | プラグ&プレイ設定、メンテナンス、機械の操作、仕上げに関する基礎トレーニング。 | 設定、メンテナンス、機械の操作、仕上げに関する簡易トレーニング。 |
設備要件 | デスクトップ型プリンタにはエアコン完備、できれば専用換気装置のある環境がベストです。 | デスクトップ型プリンタはオフィス環境に適しています。 | ベンチトップ型システムには適切なスペースのある作業場環境が必要条件です。 |
補助設備 | 可溶性サポートを使ったプリンタへのサポート取り外しシステム (自動化が可能)、仕上げ用ツール。 | 二次硬化用ステーション、洗浄ステーション (自動化が可能)、仕上げツール。 | パーツ洗浄と材料リカバリーを行う後処理用ステーション。 |
FDM、SLA、SLS技術を使った3D造形のコストと投資利益率
最終的には、自分のビジネスニーズを最もよく満たす技術を選ぶことが重要です。近年価格は大幅に下がり、最近ではこれら3つの技術はコンパクトなフォームの手頃なシステムで販売されています。
3Dプリンタ代と前もって必要な設備費以外にも必要なコストがあります。用途と生産ニーズによっては、3D造形用材料と労働コストがパーツごとのコストに大きく影響します。
技術による明細は以下のとおりです:
熱溶解積層法 (FDM) | 光造形 (SLA) | 粉末焼結積層造形 (SLS) | |
---|---|---|---|
設備費 | ローエンドのプリンタや3Dプリンタキットは、安いものであれば数百ドルで購入できます。より上質なミドルレンジのデスクトップ型プリンタは約2,000ドルから、工業用システムは15,000ドルから入手可能です。 | プロ仕様のデスクトップ型プリンタは3,500ドルから、大型フォーマットのベンチトップ型プリンタは11,000ドル、そして大規模な工業用のシステムは80,000ドルからの価格帯です。 | ベンチトップ型の工業用システムは安くても18,500ドル、伝統的な工業用プリンタについては最低でも100,000ドルとなります。 |
材料費 | 標準的および工学用素材: 50ドル~150ドル/kg、サポート素材: $100~200/kg。 | ほとんどの標準的および工学用レジン: 149~200ドル/L。 | ナイロンは100/kgドル。SLSはサポート構造が不要で、未焼結パウダーは再利用できるため、材料コストを抑えることができます。 |
必要な労働力 | 手動によるサポート取り外し (可溶性サポートを用いる産業用システムはほぼ自動化が可能)。品質を高めるために時間をかけた後処理。 | 洗浄と二次硬化 (両方の工程はほぼ自動化が可能)。サポート痕を消すための簡単な後処理。 | 余剰分パウダーを取り除くための簡単な洗浄。 |
削減可能なコストと時間を算出
Formlabs製3Dプリンタで造形した場合、コストと時間がどれだけ削減できるのか、インタラクティブなROIツールを使ってチェックしてみてください。
3D造形について詳しく学ぶ
FDM、SLA、SLS技術 (左から右へ) を用いたスキーゴーグルのフレームのプロトタイプ。
この記事が、自社の用途に最も適した3D造形技術の選定のお役に立てれば幸いです。
3D造形の複雑性について学ぶために追加リソースを読み、3D造形システムに関して更に掘り下げて学び、それぞれの技術への理解を更に深めましょう。