ベーパースムージング(溶剤噴霧)は、SLS(粉末焼結積層造形)方式で3Dプリントした部品の表面処理によく使われる方法で、表面に開いている細かな穴を塞ぐことで粗さを低減し、部品の外観と手触りを向上させます。ベーパースムージングにより、射出成形品に匹敵するほどの品質と耐久性を備え、実製品用部品として最適なSLS 3Dプリント品が出来上がります。
FormlabsはAdditive Manufacturing Technologies(AMT)と共同で、Formlabs Fuse 1+ 30W SLS 3Dプリンタで造形した部品にベーパースムージングを施し、その結果を検証しました。使用したSLS 3Dプリント用材料は人気の高いNylon 12パウダー、Nylon 11パウダー、TPU 90Aパウダー、Nylon 11 CFパウダー、Nylon 12 GFパウダーです。
製品仕様をダウンロードいただくと、共同検証の結果に関する詳細をご確認いただけます。
ベーパースムージングでSLS 3Dプリント品の表面品質を向上:FormlabsとAMTの共同研究
本製品仕様では、ベーパースムージングのメリットと考慮点、そしてFormlabsの3Dプリンタで造形したSLS 3Dプリント品にAMTのベーパースムージング処理装置で後処理を施した結果をご紹介しています。
ベーパースムージングとは
ベーパースムージングとは、SLS方式で3Dプリントした部品の表面を溶剤蒸気にさらす化学プロセスです。この工程では、熱と溶剤蒸気の組み合わせによって表面の一部を溶かし、より滑らかで気孔のない表面に仕上げます。
この化学処理で変化するのは表面だけなので、部品の内部には一切影響しません。求められる表面品質を実現するために、処理装置の中で条件をカスタマイズし、表面のスムーズさを調整します。多くの場合は、ベーパースムージング用の装置を提供するメーカーが開発したカスタム設定を使用します。
SLS 3Dプリント製部品にベーパースムージングを施すメリット
SLS方式で3Dプリントした部品にベーパースムージングを施すことで、以下のようなメリットが得られます。
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表面の滑らかさと色の均一性:
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FormlabsとAMTによる検証では、SLS方式で3Dプリントした部品にベーパースムージングを施した場合に、表面粗さ(Ra)が平均して約72~81%減少することを確認しました。
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バクテリアの繁殖と吸湿の防止:
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FormlabsとAMTによる検証では、Nylon 12パウダーで製作した部品でMRSAバクテリアの繁殖率が60%減少することを確認しました。
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見えない部分への適用性:
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ベーパースムーシングは、直接目で確認できない部分も含め、部品のすべての表面に対して均一に施すことができるため、他のコーティング工程よりも部品の機能性が大幅に改善されます。
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機械的特性の維持:
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FormlabsとAMTによる検証では、ベーパースムージングによる機械的特性の変化はごくわずかなものでした。これもベーパースムージングの利点の一つで、部品の機能性や構造的な完全性を損なうことなく外観や表面品質を向上させられます。
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SLS 3Dプリント製部品のベーパースムージング
SLS方式で特に実製品用部品を大量に製造する企業の場合、ベーパースムージング用の装置を購入することも可能です。現在、主にAMTとDyemansionの2社がベーパースムージング装置を提供しており、両社ともベーパースムージング用のハードウェアと消耗品を販売しています。装置の価格はサイズや処理能力、使用可能な材料種類によって異なりますが、通常は$100,000前後からで、融資のオプションも利用できます。
一方で、SLSで3Dプリントした部品のベーパースムージング処理をサービスとして提供している受託メーカーや外部委託業者も数多くあります。こちらの製品仕様では推奨メーカーをご紹介しています。
ベーパースムージングを行う際の考慮点
ご自身でベーパースムージングを行う場合は、部品の設計上の特徴と処理設定に注意が必要です。
ベーパースムージングのプロファイル
ベーパースムーシングを行う会社やベーパースムージング用の装置には、それぞれ独自のパラメーターと溶剤が揃っています。最も頻繁に調整が行われるパラメータは、温度と圧力です。さらに、すべてのSLS 3Dプリント用材料で最高の品質を引き出せるよう、ベーパースムージングメーカーが材料に合わせて開発した独自のプロファイルがあります。Formlabsは、AMTと提携してFormlabs SLS 3Dプリント用材料に特化した専用プロファイルを開発しました。特別開発されたプロファイルを使用するには、AMTに直接お問い合わせください。
部品の形状
肉厚構造や全体的なサイズなど、部品の形状も表面処理に影響を与える可能性があるため、ベーパースムージングのプロファイル設定時に考慮が必要です。例えばAMTでは、同じNylon 12パウダーを使用した造形品用の加工プロファイルでも、薄肉構造(壁の厚みが2mm以下)用のプロファイルと、肉厚構造(壁の厚みが3mm以上)用のプロファイルが別々に存在します。
ラックがけの痕跡
ベーパースムージング工程では、部品を金属ワイヤーラックに吊り下げて処理を行うため、部品にワイヤーやクリップを取り付けるための場所を追加する必要があります。こういった場所の痕跡は最小限に抑えられますが、完全に無くすためには、3Dモデル設計時に結合ポイントを追加するか、量産用途の場合は設計段階ですべての部品を結合しておくなどの検討が必要です。
溶剤の溜まり
部品にカップ状の箇所がある場合は、溶剤蒸気が液体となって溜まってしまわないよう、カップ状の部分を下向きにしてラックに吊るすことをお勧めします。また、可能であれば部品の設計としてそのような形状はできるだけ避けることも検討してください。
安全性と作業場所に関する考慮点
AMTは、ベーパースムージング装置PostPro SFを設置および操作するにあたって、作業場所が安全基準を満たしているかどうかを確認できる包括的な作業場所の準備ガイドを提供しています。このガイドには、潜在的なリスクを軽減するために重要なステップとなる、オペレーター向けの安全性および装置の取り扱いに関するトレーニングが含まれています。FormlabsとAMTが提供する推奨事項の詳細や、表面の気孔率、抗菌性、吸湿性に関する共同検証の結果については、製品仕様をダウンロードしてご覧ください。
ベーパースムーシングの費用
ベーパースムーシングのコストは、部品のサイズ、使用する材料、部品表面の複雑さ、部品の数量など、いくつかの要因によって変動します。一般的に、ベーパースムーシングのコストは部品のサイズと数量にほぼ比例します。以下の例は、造形品をご自身で製作してコロラド州の受託メーカーAvid Product Developmentに送付し、ベーパースムージング処理を依頼する場合の例です。
造形品 | 硬質の矯正用インストール | 眼鏡フレーム | 腕時計バンド |
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材料 | Nylon 11パウダー | Nylon 12パウダー | TPU 90Aパウダー |
モデル寸法(mm) | 157 x 23 x 80 | 144 x 36 x 47 | 262 x 13 x 37 |
量 | 50 | 80 | 50 |
焼結済みパウダーのコスト(1点あたり) | $3.98 | $0.62 | $2.98 |
ベーパースムージングのコスト(1点あたり) | $0.98 | $0.49 | $0.78 |
造形品1点あたりの合計コスト | $4.96 | $1.11 | $3.66 |
ベーパースムージングを施したSLS 3Dプリント製部品の用途
多くのエンジニアや製造業者、製品設計者が、SLS 3Dプリント製部品の外観や実製品用部品の機能を向上させる方法としてベーパースムージングを利用しています。さまざまな業界や用途でSLS方式の活用が広まるにつれ、ベーパースムージングもSLS工程においてさらに不可欠な要素となっていくでしょう。
自動車部品
ベーパースムージングは、エアインテークマニホールド、エンジンカバー、ダッシュボード部品といった自動車部品の表面品質や耐久性の向上にも活用できます。また、ガソリンやディーゼル燃料のような溶剤が搭載される自動車用部品では、ベーパースムージングによって部品表面の気孔が塞がれることで、液体やガス、溶剤や湿気の吸収を抑えられます。
医療器具
SLS方式は現在、医療器具の製造に広く活用されています。ベーパースムージングを表面処理として行うと、造形品に使用されている材料の生体適合性を維持しながら、人工装具や矯正具、医療器具アセンブリなどで使われる部品の表面品質を向上できます。また、ベーパースムージングによって患者様が装具の装着時に感じる摩擦を大幅に低減し、細菌の増殖率も低減できます。
消費者製品
ベーパースムージングはまた、電話ケースや眼鏡、ゲーム部品、その他電子アクセサリーなどの消費者向け製品の外観を、Class AまたはClass Bレベルに高めることができます。この表面処理工程によって部品の光沢性を適度にコントロールできるため、光沢のある質感からセミマットな質感まで自由に表現できます。審美性を最大限に高めるためには、ベーパースムージングの後にさらにコーティングを行うこともご検討ください。硬質のSLS 3Dプリント用材料を使った造形品にはCerakote(セラコート)を、TPU 90Aパウダーを使った造形品にはBASF Ultracur3D Coat Fなどがお勧めです。
ベーパースムージングを取り入れる
製品仕様に記載の共同検証の結果からは、ベーパースムージングによって部品表面の気孔率や吸湿性を低減し、抗菌性や外観を向上させられることがわかりました。
SLS方式3Dプリント工程の詳細や、SLS方式がお客様の用途に適しているかどうかのご相談は、Formlabsまでお気軽にお問い合わせください。ベーパースムージング装置の購入に関するお問い合わせについては、AMTのWebサイトをご覧ください。